有効求人倍率が近年にない高い水準になるなど、企業の人手不足は深刻になっている。企業が人材を確保していくための課題や必要な人事施策などについて、総合人材サービス会社ランスタッドの社長に就任した猿谷哲氏に聞いた。
ランスタッド
猿谷 哲 代表取締役社長 兼 COO
1975年群馬県生まれ。高崎経済大学経済学部を卒業後、日興証券に入社し営業を担当。退職後、富士アウトソーシング(現ランスタッド)に入社、製造業一般派遣の営業担当として人材業界でのキャリアをスタート。営業企画部門などを経て、2013年に首都圏本部長、14年に取締役、15年1月に取締役副社長、同年10月に代表取締役社長兼COO就任。
企業の人材戦略の課題をどのように考えていますか。
アベノミクスによる景気改善の影響もあって、各社とも人材確保に苦労している状態だと思います。人材の採用だけではなく、いかに従業員のロイヤルティーを高めて定着を図っていくかが大きな課題となっています。そのような環境下で、あらゆるビジネスがグローバル化している関係から、国内だけでなく世界の中でどう競争力を高めていけるのかに目線が移っています。
しかし一方で、人員増でコストを増やせないというジレンマも抱えており、いかに有能な人材を確保して、どう生産性の向上につなげていくのか、難しい舵取りを迫られているのではないでしょうか。
企業を成長させる人材戦略を実現するために必要なことは?
この先、労働力人口は次第に減少していくことが確実視されていますが、人材を確保するためにその企業の魅力を働く人たちにどのように伝えていくのかがこれまで以上にポイントになります。いくら魅力的な企業であっても、それを人材市場に知らせていかなければ採用の競争力は高まりません。その際に理解しておくべきなのは、単純に募集費やマーケティングコストに投資すれば人が集まるという時代はすでに終わっているということです。
いかに他社と差別化して自社の魅力を求職者にしっかりと届くメッセージとして発信できているかが大切で、同時に企業の内面もその「魅力」に見合うよう整えていくことが人材戦略を実現するために求められていることだと思います。いかにしてメッセージを届けるか、そのためには雇用主としての自社のイメージ、つまりエンプロイヤーブランディングの強化がより一層重要になっているのです。
企業のブランディングを高めるためにどのように支援していますか。
今までは企業視点で求人を求職者に売り込んでいくという時代でしたが、今後は求職者がどのように企業を見ているのかを理解し、訴求することが大切であると考えています。その点、当社が行っている「ランスタッドアワード」は、他の人材会社にはないエンプロイヤーブランドの向上にフォーカスしたユニークなコンテンツです。
ランスタッドアワードは、日本で事業を展開する約200社を選定し、「その企業を知っているか」「その企業で働きたいか」を問い、対象となる企業が候補者となりうる人材やその周りの方、つまり一般の方に、勤務先として魅力的な企業として評価されているかを外部の調査機関を通して明らかにするものです。また、「職場環境が快適である」「教育が充実している」といった指標を元に、各社のどの部分が評価をされているのか、または、いないのか、という調査も併せて実施しています。
こうした調査を実施することによって調査対象の企業には、「どのような施策が評価されているのか」「実際の人事施策と一般の方の思うイメージはどこに乖離があるのか」といった情報提供をしています。そして、調査対象ではない企業にも、「日本の求職者が何を望んでいるのか」「評価の高い企業と比較して、自社に不足している要素は何なのか」を知っていただくことで、自社の人事制度や福利厚生、教育プログラムを見直す機会にしていただくなど、当社として企業の人材戦略の支援ができているのではないかと考えています。
各社の人材戦略について「ここが問題です」と一概には語ることはできませんが、ランスタッドアワードで得た知見を活かしながら、企業ごとの課題を的確に把握して、カスタマイズされたソリューションを提供していくいうスタンスで臨んでいます。
企業人事にはどのような取り組みが求められるでしょうか。
社内のヒューマンリソースをどうやって活かしていくか、さらに社内では補えない部分については外部の力を上手く活用して補っていけるかがポイントだと思います。日本の企業の大きな特徴として、男性社会、年功序列、終身雇用などが長年定着してきたことがあります。これらのシステムは戦後の日本企業の成長を支えてきた仕組みであり、一概に否定されるものでは全くありません。
ただし、現状は低成長経済の環境で、効率的かつ合理的なマネジメントが必要とされており、残念ながら前述した点がヒューマンリソースを活用しきれずに生産性を上げられない一つの大きな要因になっているのではないでしょうか。当社の発祥の地であるオランダは、ワークシェアリング、女性の登用、パートタイマーの活用などによって人材の活用が非常に上手く進んでいる国でもあります。パートタイマーが管理職をしている事例も多数あります。
日本のパートタイマーの中にはキャリアを積んできた優秀な女性も多く、本来なら様々なポジションに就くことができるはずなのに、企業としては働ける時間軸にプライオリティをおいて考えてしまいがちです。会社の定められた勤務時間、カレンダー通りに出勤できること、残業対応可能であること、このような事案です。
人材活用の最適化のためには、まずは時間軸ではなく能力軸、その人がどのようなスキルを持っていて、どのようなポジションなら活躍できるのかを一番に考え、その次にどのようなワーキングスタイルが可能なのかという順番で議論されるべきではないでしょうか。各社とも社内で有効活用できるヒューマンリソースがあるはずですので、外部から人材が集めづらい状況が続くことを考えると、まずは自社の“人財”活用は最適なのか見直す必要があると思います。
さらに、人事制度だけでなく法整備や社会インフラを含め、女性が働きやすい環境を整えていけるかは今後の課題です。 女性の登用については、企業はCSRの義務的観点から取り組み始めたように見える部分もありますが、“全リソースの最適化”、その中でも改善の余地が大きいのが、時間的制約を抱えながらも有能かつ経験豊富な女性の活用方法だと思います。当社はグローバルカンパニーとして、世界各国で人材活用が上手く進んでいる事例などの情報も提供していきたいと考えています。
今後どのようにクライアント企業に貢献したいと考えていますか。
ランスタッドは2011年の経営統合により、あらゆる人材サービスが整いました。ホワイトカラーの人材派遣に強みを持ったフジスタッフ、製造派遣・アウトソーシングに特色を持ったアイライン、そしてエグゼクティブな人材紹介や再就職支援をメインのドメインとして組み立ててきたランスタッド、この3社の統合により企業が直面するあらゆるフェーズに対応できるようになりましたので、この体制をさらに推し進めていきたいと考えています。
ビジネスセグメントごとにしっかりとした専門性を持ちながら、様々なサービスを並行して導入し、人事に一貫性を持って対応していく、いわば広く深く対応できるインフラが整ったと考えています。また、ここ最近のトレンドとして、企業の「アウトソーシング」も活性化しています。自社のリソースをコアな業務に集約し、経営の効率化かつ流動化を図ること、柔軟性を高めることが目的です。
そのような状況で独特のモデルとして、テクノセンターと呼ばれる自社工場を持っています。生産量を増やしたいが追いつかない、R&Dに特化したい、アセット(資産)を抱えたくない、といった課題を抱える製造業の顧客に対して、スペースを提供するとともに、企業に代わり当社が生産活動を行うというユニークなシステムです。これには生産代行と同時に、生産管理や品質管理のマネジャーを育成できるトレーニング施設的な意味合いも有しています。
テクノセンターはコールセンターやBPO(事務代行)を行う施設も併設しており、製造・物流加工に留まらないアウトソーシングニーズにも対応しています。総合人材サービス企業として、企業が抱えている様々な課題やニーズに対してすべてのリソースを駆使してソリューションを提供していく考えです。そのためにも人材サービスとして、全てのニーズにワンストップで応えられるようサービスを拡充・深化させていく方針です。