経営リーダーが育たない日本企業、“修羅場”の擬似体験で能力見極め【Indigo Blue】

世界最大級の人事コンサルティング会社の日本代表、企業経営者を歴任してきた柴田励司氏が、次世代リーダー育成を目的に起業し、チャレンジを続けている。日本企業の人事マネジメントが直面している課題やリーダー育成を加速するために必要な取組みについて柴田氏に聞いた。

Indigo Blue

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柴田 励司 代表取締役社長

1962年東京都生まれ。上智大学文学部英文学科卒業後、京王プラザホテル入社。京王プラザ在籍中に在オランダ大使館出向。その後京王プラザホテルに戻り、同社の人事改革に取り組む。95年、組織・人材コンサルティングを専門とするマーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティング (現マーサージャパン)に入社。2000年、38歳で日本法人代表取締役社長に就任。組織に実行力をもたらすコンサルティング、次世代経営者層の発掘と育成に精通する。07年社長職を辞任し、キャドセンター社長、デジタルスケープ(現イマジカデジタルスケープ)会長、 デジタルハリウッド社長、カルチュア・コンビニエンス・クラブCOOなどを歴任。10年7月から「働く時間・学ぶ時間」をかけがえのないものにしたいという思いのもと、Indigo Blueを本格稼働。現在に至る。

日本企業の人材マネジメントの課題はどこにあると考えていますか。

経営を担うリーダー層の不足とリーダー育成の仕組みが整備されていないことが日本企業の人材マネジメントの致命的な欠点であると考えています。その原因は大きく2つあります。1つは、リーダーを長期的に育てていくという思想が弱いことです。誰にも平等に仕事を与えて同じように評価を行い、ある程度の役職に就いてから経営職として特別な育成を行うのが日本流です。その結果、日本企業のトップは50代後半から60代が多く、外資のグローバル企業のトップとは10歳ほどの開きがあります。

この年齢差はリスクをとる決断力や意志決定のスピードにかなり影響しているのではないでしょうか。ましてやグローバル競争の環境下で、経営者には世界の動きに目を配らなくてはいけない気力、体力が求められます。「24時間戦えますか」という状況の中で自己を律していくには若さが必要です。

もう1つの原因は、人事制度が社員の特性や能力を活かすものになっていないことです。職能資格制度に限らず職務・役割給制度を導入している企業でも、一定の年齢までは個人として仕事ができるかどうかが最も問われますが、ある段階から管理職としての職責が問われるようになります。結果的に個人としてビジネスに貢献できる人がうまく処遇されなくなってしまい、中途半端なスペシャリストとゼネラリストを作っています。

要は個人として貢献するか、個人を束ねて貢献するかで考えれば良く、大半は個人として貢献する人なのです。ですから個人として貢献する人は早い段階でジョブファミリー(専門領域)を決め、それを意識したキャリアの目標を設定しグレーディングなどの格付けも個人の貢献度に限定します。一方、個人を束ねて貢献するリーダータイプは早期に選抜して別の評価軸で鍛えるという2本立ての制度にモデルチェンジすべきでしょう。

リーダーに必要な資質は何ですか。また、リーダー候補をどの時点で選ぶべきですか。

リーダーを育成するには早期に特性や能力を見極め、意図的かつ計画的に配置や訓練を行うことが必要です。リーダーシップとは指示・命令で組織を動かすのではなく、自らやるべき方向性を示し、周囲に良い影響を与えながら皆が賛同して能動的に行動するように導くことです。

その資質とは人に関心を持ち、周りを気持ちよくさせる環境作りのうまいこと、世話好きなことです。リーダー候補は新卒の入社段階でのスクリーニングがあっても構いませんが、もちろん公務員のキャリア、ノンキャリアのように固定するのではなく、途中で見直すことも必要です。

入社3年程度の25~26歳になると、個人として自分の仕事を全うするのが好きなのか、人のために働くことが好きで、それなりの実績も上げて周囲の信認を獲得しているか、本人の特性がいろいろと見えてくるので、最初の選抜のタイミングになります。

早期選抜でよく問題になるのが暗黙でやるのか、明示的にやるのかという点です。日本企業は未だに大卒全員にリーダーになることを求めているのですが、実際にはありえませんし、そもそもリーダーになりたいと思っている人がたくさんいるわけではありません。なりたい人の中から選抜して磨いていくほうが効率的で、若いときから育成するなら周囲に対しても明示的に行うほうがスムーズでしょう。

リーダーを育てるために望ましい経験や配置はありますか。

日本には年齢が上の人に対して遠慮をしてしまう風土があります。しかし、リーダーシップを発揮しなければならない立場で遠慮をしていたら仕事になりません。若いときから年齢が上の人を使いこなす経験を積ませることが必要です。

配置は、最初は営業、企画・管理、技術・開発などの専門領域の中でローテーションを行いながら、仕事の幅の広さと深さを体得させ、初任管理職を経験させます。その後は異なる専門領域の部門に配置して幅を広げながら、より責任の重い役割を担わせます。配置先としては、多様な経験を得られ、自ら意思決定を行う機会が多くなる子会社や海外法人の経営職は最適でしょう。

人事部門がリーダー育成のために果たすべき役割は何でしょうか。

マネジメントは組み合わせが重要で、メンバーとソリが合わなければ進みません。リーダー育成の成功確率を上げるために、適切な課題の設定やメンバーの組み合わせ、実施のタイミングを見極めることが人事部門の重要な役割です。時には実際に配置先を訪問し、カウンセリングなどのフォローを行うことも大切です。

また、選抜人材が上げた実績を認知させる「トロフィープロジェクト」のような仕掛けを用意し、周囲の誰もが「彼はすごいね」と認めるような場を整えるのも人事部長や社長室長の腕の見せ所でしょう。

リーダー育成を加速するために必要な取り組みを教えてください。

知識やノウハウの修得だけではリーダーは育ちません。次々に変化する経営課題に対して、内部のリソースなどをいかに組み合わせて対処するかという経験の積み重ねが最も大事で、意図的かつ計画的にリーダーとしての器を大きくさせていかなければなりません。

そこで、次世代リーダー育成を目的としている当社では、座学や机上のケーススタディではなく、具体的な経営判断が求められる場面を擬似的に体験させる実践型ケーススタディ「Organization Theater(オーガニゼーション シアター)」を開発し、2010年7月からスタートしています。プロの役者が様々なステークホルダーとして出演し、参加者は経営者など当事者となって、次々と発生する想定外の問題にどのように対処するか、自ら考えて最適解を導き出す“修羅場”の対応力が求められます。

本人の能力や個性が露わになるため、経営職としての資質の見極め、初級管理職や上級管理職としてステップを踏んでいくための研修プログラム、あるいは経営幹部登用のアセスメントの機会として好評を得ています。これまで以上にリーダー育成のスピードを上げるためには、適切な配置によって業務上の経験を積ませることに加えて、こうした実践的なトレーニングプログラムを効果的に組み合わせて活用することが欠かせなくなっていると考えています。

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