人材紹介業界において、紹介人材の質低下、雇用のミスマッチが指摘されている。過熱する転職市場の影響を受け、安易な転職が繰り返されているのが現状だ。こうした事態を打開するためには、紹介会社の確かなマッチング能力が必要とされている。一方、採用する側にも優秀な人材の確保はもちろん、育成面の強化の必要性も高まっている。 「人間は一生、学ぶ生きもの」という概念の下、教育事業から創業した同社は、グループ各社と連携し、育成から転職支援まで一貫した独自のサービスを展開している。人材ビジネスが隆盛する今、確かな人材紹介を実現するための課題とは何か。
ヒューマンリソシア
桑原 加鶴子 プレジデント
ヒューマンリソシアの設立の経緯をお聞かせ下さい。
1985年、創業者である佐藤耕一(現ヒューマンホールディングス代表取締役会長)は、「人間は一生、学ぶ生きもの」という考えから、縦軸に人生年齢、横軸に教育をとって『学ぶ、働く、支える』という事業領域を設定し、教育事業を創業いたしました。これが、現在、資格、カルチャー系も含め、全国で1080講座を展開しているヒューマンアカデミー株式会社です。
自己投資をし、資格取得やスキルアップをされる方の大半は、仕事に活かしたいとお考えで、転職を想定している方もいらっしゃいました。そこで講座修了生のサポート事業として、当社の前身であるヒューマン・タッチ株式会社を創業しました。創業から10年くらいは、ヒューマンアカデミー修了生の派遣や転職サポートが中心でしたが、規制緩和等でマーケットが拡大するのに伴い、修了生以外の一般ご経験者の方々へ派遣や転職のお手伝いもするようになりました。
ヒューマンアカデミーなど、他のグループ事業との関連はあるのですか。
オフィスも一緒ですし、定例会議には一緒に入っています。 私たちの所には、企業や社会から必要としている技術や人材の情報が入ってきます。そのニーズにマッチする登録者がいない場合は、新たに講座を開設して人材育成を行い、企業様にお応えするという事業フローを強化しています。たとえば、証券外務員など金融や証券の知識を持った方のニーズが高ければ、それらの専門講座を開設します。ヒューマンアカデミーとの連携により、社会に必要なスキルを提供するという事業コンセプトを具体化しているわけです。
他にも半導体の組み込み講座、ネットワーク管理、ホームヘルパーなどの講座を開発し実施しています。現在の人材市場では、即戦力や経験者人材の確保は簡単ではないのですが、その育成も担える点が当社の強みといえるのではないでしょうか。 人材確保だけでなく、いかに育成するかも企業にとっては重要な命題です。当社ではアウトソーシングの研修もお受けしていますが、即戦力になる人材が確保できないなら、潜在的能力のある人材を採用して教育していかなければ、企業も生き残れないと思います。
また、自社においても社内教育を強化し、営業社員の教育に力を入れています。営業マンは、単にオーダーを取るのではなく、お客様に対し総合的なご提案ができるコンサルタントであることが必要です。
人材ビジネス事業者が急速に増加し、競争が激しくなっていますが、今後の事業展開をどのようにお考えですか。
現在、派遣・紹介業の登録をしている拠点が全国で30カ所。地方にも拠点を増やす計画です。また、強化したいことはブランド戦略です。現在、業界セミナーの他にも、確定申告から、表情筋体操、ネイル、転職に良いカラーなど、ビジネス系から美容系まで、気軽に参加でき、かつ女性の関心が高いテーマでセミナーを実施しております。
アカデミーには様々な分野の講師が2500人程度いますので、多彩な教育ノウハウにより、様々なセミナーが提供できる体制が整っています。これを何のためにやっているのかをきちんと社会へお知らせします。競争環境が厳しくなり、かつ業界としての諸問題がある中、何のために存在している会社なのかというメッセージをきちんと謳っていきたい、そう考えています。コンテンツは揃っているので、それを充実させるとともに、明確なブランド戦略を展開したいと思います。
他社のCMで「転職は慎重に」とありますが、その通りだと思っています。安易に転職をあおるのではなく、成功する転職をバックアップしていきたいと思っています。特に結婚や出産など自分の人生を軸に置く女性の場合、正社員、アルバイト、派遣社員といった働き方の選択肢は大切です。また、就業条件が限られた方をバックアップできるのが派遣ですが、派遣の中でも、自分のスキルアップを中心に考える方、いつかは正社員になりたいとお考えの方など様々です。
様々な選択肢をバックアップできるコンテンツを幅広く持ち、何歳になっても働きたい方の応援ができるよう、事業を拡大していきたいと考えています。 具体的には、女性管理職のステップアップや転職、またブランクある主婦の社会復帰の準備、他にも、ニートをはじめ、自分の人生を決めきれない方の応援事業などです。
ヒューマングループにはセルフィング(SELFing = Self Defining and Development)というコンセプトがあります。造語ですが、自分発見と自分開発という、自分の人生は自分で決める力を表現しています。「SELFing」を通じて自己確立をした優秀な人材を社会に送り出し、企業様や組織の発展に寄与させて頂く、その結果として社会も豊かになる。そのための教育コンテンツを提供する企業活動を実施してまいります。
今後の人材ビジネス業界の課題をどのようにお考えですか。
就労を希望し登録して下さった方々は、多様な働き方を望んでいます。キャリアを積みたい方、育児との両立を望まれる方など、働き方の幅は今後ますます広がっていくと思います。その方々の希望と真摯に向き合い、企業へとマッチング・コーディネートする力が人材会社にとって、ますます重要になると思います。
営業は、就労を希望されている方と企業との橋渡しをするだけでなく、キャリアコンサルタントとして、双方の希望をしっかりとマッチング・コーディネートしていくことが必要です。また、多様化する企業ニーズに応えるために、「教育」が重要なキーワードとなります。人材会社は、マッチング力を高めるために、人材を育成する役割を担っていかなければいけないと考えています。
更に、日本の労働人口が縮小する中では、海外にいる外国人労働者の活躍をサポートすることも重要な役割となります。 現在ヒューマンリソシアでは、ベトナムの大学2校とのスカラーシップ(奨学金)制度に関する協定を締結するなど、優秀な外国人技術者の確保に力を入れており、今年中には同大学の卒業生の他、中国の新卒者及び日本語のできる即戦力の人材に、技術者として当社へ入社してもらい、日本国内での活躍をサポートしていきます。
日本国内の労働者だけでなく、海外にいる優秀な方に日本語などを教育することで、マッチング・コーディネートする力を高め、グローバルな人材を提供できる人材会社を目指していきます。