人材採用

インターンシップで早期に学生囲い込み【新卒採用最新事情】

2016年新卒から採用スケジュールが後ろ倒しとなり、採用選考活動期間が短期化される。景気回復を受けて新卒採用の改善が顕著となる中、早期に学生を囲い込みたい企業ではインターンシップが実質的な採用活動の開始となっている。(文・溝上憲文編集委員)

新卒採用

近年、新卒の採用活動の多様化が進んでいる。その背景には、就活サイトによる大量の母集団形成と短時間面接によるスクリーニングという従来のやり方では学生の獲得に加えて、マッチングも難しくなってきている事情がある。ワンクリックで数十社まとめてエントリーできる「一括エントリー」システムも登場している。

IT企業の人事部長は「あまりにも簡単にエントリーできる仕組みは便利であり、学生・企業も楽ですが、本当はどこに就職したいのかを突き詰めて考える選択の思考を狭めてしまっている。その結果、企業と学生がお互いにじっくり観察する姿勢が希薄になってきているという弊害を生んでいる」と指摘する。

就活サイトは必要としながらも膨大なエントリーシートを読み込み、少ない面接時間で採否を決める今の仕組みを誰も良いとは考えていない。入社試験で受験料を徴収したことで話題になったドワンゴのやり方もその一つだ。受験料を徴収してでも入社意欲をみたいというのは採用担当者の本音だろう。

少子化にもかかわらず大学数の増加とともに大卒者は増え続けている。企業側の選別能力が昔以上に求められている中で「一定時期での学生の一括採用と就活サイトに頼るという旧態依然のやり方は通用しなくなるだろう」という指摘もある。そうした中でいかに自社の事業内容や特徴を知ってもらい、学生とのマッチングの機会を増やそうという取り組みも始まっている。

インターンシップへつなぐ合同企業説明会を企画

今年の1月19日。品川駅近くの企業の会議室でIT企業6社の合同企業説明会が開催された。タイトルは「リア就!? IT業界を目指すあなたへ」。副題は「リアルな就業体験を通じて仕事を見極める採用直結マッチング選考」。集まった学生は33人だった。

最初に6社の人事担当者が自社の事業内容と職種や仕事の内容の違いについて話し合うパネルディスカッションが行われた。続いて学生が個別企業のブースで事業の特徴の説明を受けた後、学生が希望する企業のインターンシップ先を順位付けした用紙を投票するドラフト選考が始まった。

企業は受入枠を設定し、希望者が多い場合は抽選で選び、漏れた学生は第2志望の企業のインターンシップを受けられるという仕組みだ。

イベントを企画したのは各社の人事担当者だ。開催の狙いについて、その一人であるHDE(東京・渋谷、小椋一宏社長)の高橋実人事部長は「学生と採用企業のマッチングレベルが極めて低くなっているという問題意識があった。ネットには画一化された就活サイトの情報がまん延し、学生は本当にやりたい仕事が見つけられない。

一方、企業も大学名などのデータや元気が良くて伸びしろのある人といったステレオタイプの基準でマッチングしている状況だ。どんな仕事をしたいのか頭で考えるのではなく、実際に体験してもらうことでマッチングできないかというのが今回の合同インターンシップの趣旨。複数企業を比較することで自分にマッチした企業であるのか、リアルに体験してもらおうと考えた」と語る。

説明会参加者の3割が内定を受諾

インターンシップの日程やカリキュラムは各社独自で企画。約2カ月の間に終了し、その結果を学生にフィードバックし、内定を出すかどうかを判断する。

同企画に参加したテックファーム(東京・新宿、千原信悟社長)のインターンシップは5日間。総合職と技術職の2つのコースに分かれ、技術職はクライアントからの疑問に対するレポートの作成や企画提案のプレゼン資料を作成し、最終日に発表するもの。

総合職は経営課題をどう解決するのかをテーマにレポートを作成し、発表する。期間中は学生2人に先輩社員のメンター1人が張り付き、学生の世話と日々の仕事ぶりを観察する。同社は6人を受け入れたが、最終的に総合職1人、技術職1人の計2人に内定を出した。同社の金丸美紀子人事部長は有意義だったと語る。

「学生はもともと当社のインターンシップを受けたいから説明会に来たわけではない。説明会への参加をきっかけに当社と出会い、インターンシップを受けることになった。その結果、ITの仕事に対する意欲が高まり、就活にとって大変役に立ったと言っていた」

6社合同の今回のイベントでは33人のうち11人が内定を受諾した。集まった学生は多くはないが、それでも30%の内定率は学生・企業双方にとっても効果があったといえるだろう。企業にとっては通常の選考活動以外のもう一つのツールにもなり得る。

「インターンシップは選考試験の1次試験の替わりという位置づけであり、2次試験に4人が進んだが、3次試験を経て2人に内定を出して受諾してもらった。じつは当社は5年ぶりの新卒採用。手探りで実践し、全部で7人の内定者のうち2人も採用につながり、良い人材と出会える機会となった」

大手企業の選考後ろ倒しで中小企業の採用活動はさらに長期化の可能性

従来の新卒採用のやり方では、学生の獲得が難しくなると言われているのが、2016年卒の採用活動だ。周知のように経団連は「採用選考に関する指針」を発表した。

16年度入社以降の採用選考活動は、広報活動が大学生は卒業年度に入る3年生の3月1日以降、選考活動は4年生の8月1日以降とすることを要請しているが、経団連の方針が実行されると学生と企業双方にマイナスになるという声も出ている。

「3月の入社準備で多忙な時期に広報開始となるので大学主催のセミナーや就職情報会社主催の合同説明会への参加は絞りこむ必要がある。8月選考だと内定者を出すのが遅れてしまい、10月1日の内定式に参加できるのは50%程度になる危険があり、実施する意味がなくなる。理工系の学生は8月のいわゆる第一期クールで内定を獲得できなければ卒論・修論などに取りかかることができなくなる。卒業と就職のどちらを優先すべきか判断に迷うことになる人も出てくると思う」(住宅関連企業の人事課長)

苦戦必至と見られているのが中小企業だ。大手企業の採用活動が一段落するのが年末になるとすれば、年明けの決算期ごろにようやく採用が決まるという事態になり、中小企業の採用活動はこれまで以上に長期化する可能性もある。

採用選考活動の後ろ倒しに関しては、従来は経団連の「倫理憲章」の規約に賛同した会員企業が誓約書に署名する形がとられてきた。 だが、今回は新たに「指針」に代えたため、会員企業すべてが対象になり、拘束力が強いように思えるが、罰則があるわけではない。外資系企業や非会員企業は指針にとらわれる必要もない。

インターンシップを拡充する企業が増加し、事実上の採用活動に

実際に16年卒の企業と学生の動向が読み切れているわけでもない。企業の人事担当者に聞いても、ライバル企業や学生がどう動くのかわからないという声が多い。だが、間違いないのは15年の3月の広報活動、8月の選考活動以外に何もしない企業はないということだ。互いが疑心暗鬼の中で動き出しているのがインターンシップだ。

今年は昨年に比べて急増している。16年卒学生のインターンシップ受入れ企業は昨年よりも約6割増える見通しだ。また、「リクナビ」など就活サイト3社のインターン募集掲載企業数は延べ4645社、前年の1.6倍に達している(6月1日時点、エン・ジャパン調べ)。

例えば三井物産は08年から中断していたインターンシップ制度を15年2月に8年ぶりに再開。昨年9月に約50人のインターンシップを受け入れた双日は一挙に拡大し、9月、11月、15年1月の計3回実施して受け入れ枠を昨年の3倍に増やす予定だ。

インターンシップが事実上の採用活動と化しているのが実態だ。この8月からインターシップを開始した建築設計業の人事課長は「大手各社はこの夏から青田買いの場とも言われているインターンシップを活用して採用活動を始めている。昨年に比べて企業の受入数や学生の参加者も多く、どこの社も学生の囲い込みに躍起になっている」と指摘する。

この夏に「サマーインターシップ」を開催した広告業の人事課長は「夏も含めて秋と来年1月以降に計3回のインターシップを開催することにしている。 そのために迷惑をかける職場を説得し、日当を含めた多大なコストもかかる。それでも優秀な学生を確保できなかったら役員会で責任を追及されることになる。覚悟を決めてやるしかない」と語る。

インターンシップには①1~2日の短期の企業広報型(事実上の単なる会社説明会)、②職場体験型(5日程度のアルバイトの雑務を行う)、③採用前提型(2週間~1カ月の長期体験)―の3つがある。とくに③は採用に有利に働くが、選考によって絞られる狭き門となっている。

その仕組みについて建築設計業の人事課長はこう語る。「受入枠が限られるので書類選考で選別するが、ほとんどの企業が大学名で選考するのが一般的。地方の有名大学の場合は都内の宿泊代プラス交通費・食事代と日当を支給する。これがAコースとすれば、Bコースは宿泊代を支給しないとかランク付けしているとも聞く。とくに有名大学の研究開発を専攻している学生は取り合いになっている。夏のインターンシップの後に秋冬のインターンシップにもう一度参加するように誘いかけるところもある」

もちろん、インターンシップを採用につなげることは経団連も「指針の手引き」で「インターシップに際して取得した個人情報をその後の採用選考活動で使用できない」とクギを差している。だが、企業にとっては職場体験を通じて学生の能力を見極め、これはと思う学生に入社を働きかける格好の機会であり、まともに取り合う企業はないようだ。

リクルーター制を導入し、学生との接触機会を増やす

大手不動産業の人事課長は、「来年8月の選考スタートまでにどれだけ多くの学生と接触するかが勝負になる。この夏から秋以降に実施するインターンシップは極めて重要であり、当社も大幅に受け入れるつもりだ」と意気込む。 だが、インターンシップで学生に内々定を出しても、来年10月の内定式までつなぎとめるには時間も相当長い。そこでOB・OGが学生と個別に接触するリクルーター制を導入する企業が増えると見られている。

住宅関連企業の人事課長は、「8月の選考開始までどれだけ多くの学生と接触するかが勝負になる。当社はリクルーター制度を取り入れていなかったが、導入を検討している最中だ」と語る。しかし、お金や人員を投入できる大手企業は有利になるが、中堅、中小企業にはそんな余裕はない。前出のHDEの高橋人事部長は「有名企業はインターンシップの青田買いなどで内定率が上がり、選考の解禁日にはほとんど大勢が決まっている可能性もある。大手企業と同じことはできないし、今年から採用方針を大きく見直す。

一つは新卒・中途の区別や国籍、性別の区別を原則やめて日本以外の海外の大学の学生も積極的に採用していく準備も進めている。同時に今年実施した合同のインターンシップの開催など学生とのマッチングができる場も設けていく予定」と語る。採用選考活動の後ろ倒しによって、16年卒学生の獲得に向けた採用戦略がますます多様化していくことは間違いない。改めて自社の採用のあり方を含めた戦略の見直しが求められている。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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