年上部下とうまくつき合う3つの方法

昨今自分よりも年上だが、部下としてマネジメントしなければならないケースが増えてきた。部下と言えど年上のため、どうしても年下部下とは違った接し方が求められる。ではどのように接するのが正解なのか、接し方を3タイプに分けて説明していく。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

人事制度

会社のボリュームゾーンは“バブル世代”

バブル期(1988~1992年)に22歳で入社した世代のうち、すでに88~89年組が50歳に達している。大手企業では大量入社のこの世代が最大のボリュームゾーンとなっており、超大手企業では平均的に6人に1人がバブル期入社組ともいわれる。

この世代の後が景気悪化で採用を抑制した40歳前後以降の就職氷河期世代だ。彼らからすれば恵まれたバブル世代に対して「バブル世代は苦労せずに会社に入った人が多いが、俺たちは少数精鋭で優秀だ」といった先入観を持っている人も少なくない。また、会社もバブル組をお荷物扱いし、中には退職金の割増率が高い早期退職優遇制度を使って辞めさせようとしている企業もある。

人手不足解消のカギは中高年社員

だが、一方では生産年齢人口の減少に伴い、人手不足も顕著になりつつある。それでなくてもバブル世代を中心に社員の高齢化も加速している。大手医療機器メーカーではこの世代を中心に40代以上が約55%を占め、2021年末には50代以上が約35%と3人に1人になる見込みだ。

会社のなかには中高年社員を戦力として活用しなければ今後の成長や発展もないことに気づき始めているところも増えている。しかし、この世代の多くは管理職になれないで年下の上司に仕えている人もいれば、会社の役職定年によって管理職を降りて若い後輩の下で仕事をしている人もいる。再び意欲と能力を発揮するように鍛え直すにしても一筋縄ではいかないのも現実だ。

大手の人事担当者の何人かに中高年世代の中でやる気が失われている人はどのくらいいるかを聞くと「7割ぐらいいますね」とか「当社では6割はいます」と、驚くような答えが返ってくる。

モチベーションの低い社員は3タイプ

中高年社員のキャリア研修に携わっているコンサルタントA氏によると、モチベーションが低い中高年は大きく「元管理職」、「職人」、「マイペース」の3つのタイプに分かれるという。

元管理職とは役職定年や人事評価結果で降格された人。管理職までなれた人なので基本的に優秀なのだが、降ろされたことで会社・職場に対する不信感があるために、ことあるごとに内部批判をする。

おそらくその批判は正しいのだが、常にその“正論”を会議などの場でも繰り返し発言し、若い上司の方針にも反対したりする。当然、上司も頭にくるので「あの人は仕事もしないくせにいつも反対ばかりする」というレッテルを貼り、距離を置くようになる。

3つのタイプをやる気にさせるにはどうすればいいのか。コンサルタントA氏は「上司が時間をかけて信頼関係を築くことが前提となる」と指摘する。

タイプ別の接し方①元管理職タイプ

元管理職の場合は、「これまでどういう仕事をしてきたのかという職業人生のヒストリーをじっくり聞き、今どういう気持ちで仕事をしているのか、職場についてどう感じているかを互いに腹を割って話し、お互いに理解し合うことが大切です。その上で元管理職の人に『私はあなたが期待するほど優秀ではありません。今の会社の制度上、課長になったにすぎません。だからこそあなたに私が部下に対して言えない部分などサポートしてもらいたいのです』と、期待する役割をはっきりと伝えることが大事です」

例えば目標を与えるにしても、上から目線で与えるのではなく、一緒になって考える。「上にこう言われているのですが意見をもらえませんか」と、語りかけるとアドバイスしてくれるかもしれない。元々管理職としての経験があるから、やるべき課題が見えたら自分の頭の中で描く能力に長けているので「これは私がやります」と言うだろう。それまでじっと待つことも大切だという。

タイプ別の接し方②職人タイプ

職人タイプは元技術系に多く、マネジメントが苦手だが、一時期は専門性を武器に実績を残したこともある。だが、その専門性が時代の流れで陳腐化し、今ではまったく通じなくなっている人だ。しかも別の部門で新たにがんばりたいという意欲がなく、昔はあれだけ一生懸命に働いたし、もうやることはやったから楽をしたいと勝手に考えている人でもある。

このタイプを変えるには根気強さが必要になる。技術者であれば再び新しい分野で活躍してもらうのがベストだが、専門性を持つ技術者ほどまったく別の分野に挑戦することに及び腰になる傾向がある。

「でも一時的にモチベーションが下がるかもしれないが、徐々に慣れると好奇心を持って自分で切り開いていくようになる。そういうタイプはキャリアの振り返りを通じて過去の専門性に光をあてて話し合うとよいだろう。そして『1つのことに真剣に取り組み、地道な作業を積み上げて専門性を獲得してきたのですね。今からでも遅くありません、新しいことをやってみませんか』と諭してみる。例えばあえての最先端の分野を担当させてみる。そこで身につけた技術は誰も知らないので意欲的に取り組むだろう。そして周囲から相談されるなど頼りにされる存在になれば本人も喜びを感じるものだ」(コンサルタントA氏)

タイプ別の接し方③マイペースタイプ

一番やっかいなのがマイペースタイプ。新入社員時代から同じ仕事をずっと続けた人に多く、決して日の目を見たことがないが、その部署では管理職よりも仕事歴が長いために重宝されている存在でもある。

与えられた仕事をたんたんとやるだけで、長い仕事人生の中でひたすらコツコツと自分の仕事を地道に続けてきた。それはそれで結構なのだが、問題はその仕事と高い給与があまりにもマッチしていないことだ。もちろん過去の上司が、今のほうが便利だからと、新たなチャレンジをさせるべきタイミングで育成を怠ったという事情もある。

そういうタイプに「自分から積極的に仕事を取りに行ったらどうですか」とアドバイスしても「いや私はそういうタイプではありませんから」と言い切ってしまう。同期が出世しようがしまいが関心もなく、何事にも動じないというか、聞く耳を持たない唯我独尊タイプでもある。

コンサルタントA氏は「このタイプは上司がどんな手を使っても内側から変えていくのは難しい。鍛え直すための専門の部署に配置するなど組織マネジメントによって外側から変えていくしかない」と指摘する。

上司部下関係なく、お互いを知ることがカギ

若い上司にとって年上だからという理由で部下に優しく接しても、うまくいくとは限らない。一方、逆に突き放すと、プライドが傷つけられて意固地になってしまう。まずは上司と部下が、先入観なしにお互いにどういう人物なのかを知り合うことで信頼関係を構築することが大切であり、そこから何をするべきかが見えてくるだろう。マネジメントの基本中の基本から始めることを心掛けるとよい。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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