レガシーコストは、直訳すると遺産に対する費用です。負の遺産と表現されることもありますが、過去の人やもの、出来事に対して現在も支払いを続けることで、大きな負担を強いられることを指しています。
具体的には、現在ほとんど使われなくなった業務システムであるにも関わらず、今もまだ使う人がいるからという理由から、採算が合わなくても仕方なく生産を続けていることなどがあげられます。他にも人事のレガシーコストといえば、退職者に対して支払いをし続けなければならない保険料や年金などもあります。日本では政府が負担する国民健康保険がレガシーコストに該当しますが、国民年金がないアメリカでは保険料や年金のレガシーコストは企業が負担するため、世界を代表するような大企業にとっても経営を揺るがすような大きな負担となっています。
レガシーコストが大きな注目を集めたのは、2009年にアメリカの大手自動車メーカーであるクライスラーとGMの経営破綻です。前年に世界を混乱の渦に陥れたリーマンショックの影響を受けて業績不振にあえいでいたことが経営破綻の直接の原因ではありますが、退職者に支払う企業年金や医療保険がレガシーコストとして経営に大きな負担となっていたことが明らかになりました。GMの場合、経営破綻した前年のレガシーコストの総額は130億ドルを超えており、1ドル100円として換算しても1兆3,000億円を1年間で支払わなければならない計算です。現役の労働者1人が5人の退職者を支えているような状況で、限度を超えた負担であることはだれの目にも理解できることでしょう。
アメリカのレガシーコストについてご紹介しましたが、日本の年金や保険料もレガシーコストとして大きな負担となっているため対岸の火事ではありません。高齢者を現役世代が支える人数を人口割合から算出すると、30年前の1990年は6人の現役世代で1人の高齢者を支えていましたが、2021年は2.1人の現役世代で1人の高齢者を支えています。これからの30年で、1人の現役世代が1人以上の高齢者を支える世界が来てもおかしくはありません。対策として年金受給年齢の引き上げなどがありますが、抜本的な解決策となるのかは疑問点が多く残されています。