「アンコンシャスバイアス」とは? 職場における具体事例や対策を解説

「アンコンシャスバイアス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。アンコンシャスバイアスとは、「無意識の思い込み」「偏見」を意味します。
もっとも、程度の差こそあれ、私たちは誰しも独自の考え方や物の見方をするものです。しかしながら、これが行き過ぎて人に押し付けるようになったり、不適切な方向に偏ったりすれば、たちまち周囲に悪影響を及ぼすようになります。 とりわけ職場におけるアンコンシャスバイアスは、組織の革新を阻み、人間関係の悪化やハラスメントの原因になるとして、近年、問題視され始めています。アンコンシャスバイアスを正しく理解し、悪影響を回避するための対処法を確認しましょう。(文:丸山博美社会保険労務士、編集:日本人材ニュース編集部

日本人材ニュース

私たちの日常は「アンコンシャスバイアス」で溢れている

アンコンシャスバイアスは、「この人は○○だからこうだろう」「一般的には○○だからこうだろう」というように、人や物、時には自分自身について「自分なりに解釈する」という脳の機能によって引き起こされるものです。

アンコンシャスバイアスは「考え方の癖」とも言い換えることができますが、これは一概に「悪」とは言えません。というのも、日常の一コマ一コマにおいて、何かについて考え、判断していく上では、自分なりの考え方や価値基準が求められます。

また、「自分はこうあるべき」という考え方の元にいつも以上に頑張ることができたり、「相手は〇〇だから」と想像を巡らせることで優しくすることができたりと、良い側面もあります。

一方で、冒頭でも触れましたが、アンコンシャスバイアスが負の影響を及ぼすことも少なくありません。なぜかと言うと、人間の脳は、無意識のうちに自分にとって都合のよい解釈をしようとするもので、異なる考え方や価値観に直面した際には自己防衛心が働き、決めつけや押しつけをしがちになるからです。

このように、私たちの日々の思考には、常にアンコンシャスバイアスがついて回ります。だからこそ、各人がそれぞれの思考の癖の良い側面を活かしつつ、悪い側面には十分に留意するよう心がける必要があるのです。

「アンコンシャスバイアス」の多様な類型

ひと口にアンコンシャスバイアスといっても様々なパターンがあり、その類型は実に200を超えると言われています。ここでは、職場で問題となるアンコンシャスバイアスの4類型とそれぞれの具体事例を確認しましょう。

よくある職場のアンコンシャスバイアス① ジェンダーバイアス

性別に対する先入観や固定観念を元に、特定の役割や行動について決めつけたモノの見方をすること
・お茶出し、受付対応、事務職、保育士は女性の仕事だ
・子育て中の女性は、普通、長期出張は無理だ
・育児や子供の看病には女性が対応すべきだ
・男性が育児休業を取得するなんて、仕事に対するやる気を疑ってしまう

よくある職場のアンコンシャスバイアス② ステレオタイプ

学歴や世代、障がいの有無等の属性に対する先入観や固定観念を持ち、「みんなそうだ」と思い込む傾向のこと
・高齢者は頭が固くて融通が利かない
・パートタイマーは正社員と比べてお気楽に仕事をしている
・障がいのある人に〇〇はできない
・高卒の人は大卒の人と比べて能力が低い

よくある職場のアンコンシャスバイアス③ 権威バイアス

権威のある人の言動は正しいと思い込み、「従った方が良い」と思い込んでしまうこと
・上司が〇〇だと言うから、問題に気付いていても黙って従う方が良い
・上司より先に部下が帰るのは失礼だ
・定時で帰る人は、やる気がない

よくある職場のアンコンシャスバイアス④ サンクコスト効果

これまでに投資したお金や労力、時間にとらわれて、合理的な判断ができなくなり、明らかに無駄と分かっていても撤退を決断できない心理状況
・もう少し投資すれば何とかなるだろう
・どうにかコストを回収しよう
・ここで撤退したら、これまでのコストが水の泡になってしまう

「うちの職場でも問題になっている!」という事例があるでしょうか。

無意識の決めつけや押しつけをしないために、どのようなことを心がけるべきなのでしょうか。 アンコンシャスバイアスへの適切な対処法を考えてみましょう。

参考:日本労働組合総連合会「気づこう、アンコンシャス・バイアス~真の多様性ある職場を~」

職場にとって悪影響となるアンコンシャスバイアスへの対処法

アンコンシャスバイアスは人間の癖の一種なので、完全に取り除くことは困難です。しかしながら、自分自身のアンコンシャスバイアスを意識し、負の影響を及ぼしそうな思い込みには捉われないよう努力を講じることは可能です。各人が職場でできそうな思考の工夫に、積極的に目を向けましょう。

自分自身の価値観や思い込みで決めつけない

自分とは異なる考え方や意見に触れた時、反射的に、「いやいや、普通は〇〇でしょう」「その方法ではできるわけない」といった決めつけが頭によぎったら、それはアンコンシャスバイアスかもしれません。

一呼吸おいて、自分の考えを裏付ける根拠や客観的な理由を冷静に考え、意見と共に伝えましょう。その際、異なる意見を持つ相手を尊重する姿勢で、対話を心がけることが肝心です。

相手の表情や態度の変化を感じ取る

職場で人と意見を交わす際には、相手の表情や態度に注意を向けましょう。急に表情が曇ったり、声のトーンが変わったり等は、悪い方向への心境の変化を表すサインです。ご自身の直近の発言に決めつけや押しつけがなかったかを振り返りましょう。コミュニケーションの途中に生じた違和感はそのままにしないことが、アンコンシャスバイアス改善の第一歩です。

言動を振り返り、思考のクセを認識する

アンコンシャスバイアスは無意識に行われますから、意識的に発見し、修正していく姿勢が肝心です。

そこでお勧めしたいのが、「言動の振り返り」です。一日を振り返って、アンコンシャスバイアスだと疑われる言動がなかったか、その時の状況や相手の反応、自分の感情はどうだったか、これを受けてどんなフォローが必要なのかを考えましょう。

話し相手が黙り込んでしまった、人に言われたことで違和感を覚えた等の経験は、振り返りのきっかけとなります。また、人とのコミュニケーションの中でなくても、仕事上一歩踏み出せないような状況があれば、その根拠や理由を客観的に掘り下げてみることで、アンコンシャスバイアスに気が付くかもしれません。

アンコンシャスバイアスの払拭が、企業を変えるカギに

企業においては、各人がアンコンシャスバイアスを理解・認識し、悪影響が及ぶ決めつけや思い込みを払拭していけるのが理想です。

これを実現するためには、経営陣の働きかけが何よりも重要となります。まずはトップが言動を変えていくこと、さらに従業員に対してアンコンシャスバイアスを学ぶ機会を与えることで、職場全体の意識向上、働きやすい環境作り、さらにはイノベーション創出やダイバーシティ推進につながっていきます。

アンコンシャスバイアスの払拭は一朝一夕にはいかないかもしれませんが、職場で働く各人の地道な努力の積み重ねこそが、企業体質改善のカギを握ります。


丸山博美(社会保険労務士)

社会保険労務士、東京新宿の社労士事務所 HM人事労務コンサルティング代表/小さな会社のパートナーとして、労働・社会保険関係手続きや就業規則作成、労務相談、トラブル対応等に日々尽力。女性社労士ならではのきめ細やかかつ丁寧な対応で、現場の「困った!」へのスムーズな解決を実現する。
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