部下を信頼している上司は半数に満たず

部下を信頼している上司は半数に満たずーー。こんな結果がパーソル総合研究所が九州大学・池田浩研究室と共同で実施した「上司と部下の信頼関係に関する研究」で分かった。(文:日本人材ニュース編集部

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職場における上司と部下の信頼関係を類型化し、3つのパターンが導出したところ、上司が部下を十分に信頼していない状態の職場が52.4%を占めた。

調査を行ったパーソル総合研究所は、この状態を「信頼の一方向不全関係」(部下の片思い)とし、「一方向性の不全関係を改善するには、上司が部下の能力や行動について、リスクを取ってでも期待をかけることが重要である。具体的には、人の能力や行動は、適切な環境を用意すれば伸びると信じ、その成長を支援する姿勢が求められる」と指摘する。

一方で、パーソル総合研究所が2024年に実施した調査では、上司との面談で「全く本音で話していない」と回答した人が41.6%に上っており、上司を信頼していない部下も少なくないことがうかがえる。

上司と部下の双方が信頼している状態「信頼の“正”のらせん関係」の職場は26.4%、上司と部下の双方が信頼していない状態「信頼の“負”のらせん関係」の職場は21.1%だった。

パーソル総合研究所
(出所)パーソル総合研究所・九州大学「上司と部下の信頼関係に関する研究

信頼関係の違いによる職務パフォーマンス(個人)、業績(個人、職場、組織)、ウェルビーイング(はたらく幸せ実感)の差異を確認したところ、いずれも「信頼の“正”のらせん関係」が最も高い平均値を示し、次いで、「信頼の一方向不全関係」、最も低い傾向を示したのは「信頼の“負”のらせん関係」となった。

<信頼関係がない職場は大きな問題を引き起こす>

導入企業が増えている1on1ミーティングの信頼関係構築への影響について分析したところ、上司と部下の双方が相手を「信頼」する効果は小さいが、相手からの信頼(被信頼感)を得る効果が確認された。

具体的には、「実施頻度」よりも「メンバーの発言量」や「メンバーが個人的な深い内容を語れている程度」が相対的に強く影響し、特にメンバーの発言を多く引き出せていることがリーダーからの被信頼感・メンバーからの被信頼感を高めていた。

こうした調査結果を受けて、パーソル総合研究所の井上亮太郎上席主任研究員は、「信頼のらせん関係」を築く具体的な方策として、次のような内容を挙げている。

<リーダー>
●メンバーへの「他者基準」に基づく期待をかける重要性
調査結果から、メンバーを信頼するには、リーダーが部下の能力や態度の可変性を信じ、自分の経験的な基準ではなく、メンバーの職位やキャリアといった個々の状況に応じて期待をかけることが鍵となる。

●リーダー自身の「オーセンティシティ」の表明
リーダーが「オーセンティシティ」、換言すれば“脆弱性”(弱みや悩み、個人的内容など)を示すことで、メンバーも自分らしさを表現しやすくなり、相互信頼を強化する。

●拡張的な人材観の重要性
リーダーが、メンバーを自律的に成長する存在と見なす「拡張型の人材観」を持つことで、メンバーへの信頼が生まれやすくなる。価値観は変え難い面もあるが、人が介在することに付加価値が期待される職務では、メンバーの能力の可変性に期待する姿勢は大事にしたい。

<メンバー>
●能動的な行動が信頼を高める
上司からの信頼を得るには、問われる前に適切なタイミングで報連相を行う先取り行動や、迅速なレスポンスが有効であることが確認された。一方で、例えリーダーへの貢献を意図した果敢な挑戦も、指示範囲を超えた行動は信頼を損ねる可能性もあるため、日頃からのコミュニケーションに注意したい。

●自己開示が「被信頼感」を高める
調査では、1on1の場でメンバーが個人的な内容を共有することが、リーダーにとっては、「メンバーから信頼されている」と感じさせる重要な要因であることがわかった。個人的な深い内容を開示することに抵抗があるならば、最近の関心事に関する話題でも良いだろう。個人的に学んでいる事や読んでいる本について雑談的にアピールしてみてはどうか。自分らしさ(オーセンティシティ)の表出のみならず、上司からすれば、部下であるあなた自身の「能力への期待」を高める効果も期待できそうだ。

人材不足は慢性化し、事業環境も目まぐるしく変化する中で、働く人たちに高い成果が求められている。特に、初任給アップや若手の処遇改善に取り組む企業が目立つが、職場で働く人の多様化やハラスメントへの対応などで管理職の負担は年々増しており、企業全体として職場のマネジメントや人材育成などを考えないと、管理職を担える人材が流出する恐れがある。

大手企業の人材戦略を支援しているベリタス・コンサルティングの坂尾晃司代表は「これまで多くの企業では人材育成を現場任せにしていたという感が否めません。今後は人的資本情報の開示義務化により、必要な人材をいつまでにどうやって確保するかという計画と達成状況がより厳しく問われるようになります。企業価値を高めるために戦略性を持って人材を育てないと投資家にアピールできないため、市場の評価を意識する経営者や人事責任者からの相談が寄せられています」と話している。

パーソル総合研究所・九州大学「上司と部下の信頼関係に関する研究」の詳細はこちら
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/spiral-relationship-of-trust.html

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