海外での事業展開を本格化する企業では、グローバルなスキルを持つ人材の不足が深刻化している。グローバル人材を確保するためのダイバーシティ・マネジメントについて、人材紹介会社のヘイズ・ジャパン クリスティーン・ライト代表に聞いた。
ヘイズ・ジャパン
クリスティーン・ライト 代表取締役
英国ブライトン大学卒業後、ヘイズ・グループに入社。英国で3年、オーストラリアのリージョナルディレクターを11年務めた後、2009年9月にヘイズ・ジャパンの代表取締役として来日。日本での実績とヘイズ・グループでの17年にわたる功績がたたえられ、2012年4月にアジア地区オペレーション・ディレクターに就任。日本、中国、シンガポール、香港におけるヘイズの全業務を統括する。ヘイズに15年以上在籍し、人材サービス事業の豊富な経験を有している。
日本企業は、海外での事業展開を本格化する上で、組織や人材のグローバル化という問題に直面しています。
企業組織のグローバル化の問題は、いまや日本だけでなくどの国の企業にも存在していると思っています。日本企業は、特にグローバルなスキルのある人材とバイリンガル人材の不足という問題に直面しています。
昨年、当社では1000人以上の人材を日本の企業に紹介しましたが、そのほとんどがバイリンガルなグローバル人材でした。日本企業が海外事業を自ら展開し始めているためにグルーバル人材の需要は急拡大しています。
しかし、実際に海外における事業展開を支えることができ、なおかつバイリンガルであるという人材は非常に数が限られているために採用が困難になっています。
このような問題を解消する鍵の一つが、ダイバーシティだと考えています。ダイバーシティを理解することで、最適な人材に接触できる機会が高まり、より良い人材の採用が可能になります。
ダイバーシティを積極的に推進している企業では、海外事業の成功には適材適所の人材配置が重要だということをよく理解しています。企業組織のグローバル化においては、ダイバーシティを十分に理解してマネジメントを行う必要があるのです。
日本の企業のダイバーシティ推進の状況は?
ダイバーシティには、ジェンダー(性別)、国籍、年齢などがありますが、当社では、その中のジェンダーにスポットを当てて企業の人事責任者、採用担当者、2011年11~12月に登録していた女性候補者約1000人を対象に調査を実施しました。
その結果、企業側と女性候補者ではダイバーシティの推進についての認識に大きなずれがあることが分かりました。人事・採用担当者の70%以上が自社にはダイバーシティに関係するプログラムがあると回答しているのに対して、女性候補者の約65%は経営側がダイバーシティをよく理解しているとは思えないと回答しているのです。
経営側と従業員側の認識にずれが生じている理由ですが、企業がダイバーシティに関する方針について、従業員と十分なコミュニケーションが図れていないことが要因として考えられます。ダイバーシティの推進ではトップダウンで方針を徹底し、実行していくことが重要ですが、方針を文章に書きまとめておくだけでは浸透しません。
年齢、性別による仕事への評価の違いを排除していくことが必要ですし、人材の採用にあたっては、性別や年齢ではなく、該当する職種に応募する人たちの職務遂行能力、職務スキル、行動様式で判断していくことが重要です。このようなダイバーシティについての考え方は、リーダーが率先して推進していかなければ普及しません。
当社では、5月にダイバーシティ・セミナーを人事・採用担当マネジャー、経営者を対象に開催して、いくつかの提案を報告しました。報告の中で参加者に注目してもらえたのは、過去5年間で女性の50%が転職をしているという実態です。 つまり、女性社員が「自分の能力をより正しく評価されたい」と考えたことで、これだけ多くの人材が企業から流出していることになります。
グローバル人材の採用競争の中ではダイバーシティという視点で、企業に勤めるすべての人にあてはまるパフォーマンス重視の企業組織を持った企業が勝ち残っていくことになります。
グローバルな経験を持った候補者は、有名企業だから、大手企業だから、給与水準が高いからというよりも、ダイバーシティという価値基準で企業を判断して、その会社で働いてみたいと思いますし、結果として従業員の定着率も高まっていくのです。
今後、さらにダイバーシティを推進させるためには何が課題ですか?
既にダイバーシティにかかわる制度がある企業においては、さらにキャリアパスを整理して明確にする必要があるでしょう。
きちんとキャリアパスを定めている会社であれば、従業員は将来的にどんなスキルが必要かを理解し、それに備えて自らトレーニングすることができるのですが、日本企業ではそのようなキャリアパスを明確にしている会社はあまりありません。
また、日本では特に、女性のロールモデルとなるリーダーがいないことが課題になっています。企業はキャリアパスを明確にし、トレーニングを継続的に行い、従業員自らが会社の変革を推進していけるようにレベルアップさせることが重要です。
一方、これからダイバーシティを取り入れていこうとする企業では、勤続年数や付き合いのよさだけで従業員を評価するのではなく、会社への貢献度や業績をベースに分け隔てなく評価しているということを従業員にメッセージを出し、示していく必要があります。
公正で平等な労働環境を整えることが人材流出を止め、人材を長く定着させることにつながり、深刻なスキル不足を解消することになるのです。
企業における女性候補者の採用の現状と採用されている女性の特徴は?
2011年7~12月の期間に、当社が企業に紹介した人材の40%が女性候補者でした。ミドルマネジメントを中心とした中途採用ではかなり高い数字です。専門スキルや行動様式と照合し、企業が求める人材と優秀な候補者をマッチングした結果がこうなっているのです。
特にホワイトカラーでは、会社への貢献度と業績による評価が最も重要な採用基準になるのです。現在、当社では13種類にわたる分野でスペシャリストを紹介しています。多くの女性候補者に共通していえるキャリアや経験としては、ダイバーシティを考えた採用活動をしている多国籍企業や外資系企業の働きやすさに魅力を感じて入社し、経験を積んでグローバルに通用するスキルを持っているという点です。
また、長年のビジネス経験はもちろんのこと、チームリーダー、管理職、そして経営幹部としてキャリアを積んでいます。技術職では該当分野における専門知識とスキル、さらにリーダーシップを発揮できる人材です。
いま、日本企業が求めている人材は、このようなグローバルな事業を展開している企業で活躍してきたキャリアや経験を持つ人材です。そのような候補者にとってダイバーシティはごく自然なことであって、入社する企業がダイバーシティを理解しているマネジメントであるかどうかは、とても重要な問題なのです。
ヘイズ社でのダイバーシティ・マネジメントの展開事例は?
当社のダイバーシティ・マネジメントですが、採用担当者や人材配置を考える人事責任者から人材コンサルタントまで、全社員にダイバーシティについてのポリシーを徹底しています。日本オフィスの従業員の男女比は50対50で、アジア太平洋地域の経営幹部も男女比50対50です。
常に適材適所で、その職に合った適切な人材を登用していくことがダイバーシティであり、ジェンダーの違いによる差はありません。ダイバーシティに関するポリシーは日本だけではなくグローバルで推進されており、常に実績に基づく人材登用が行われています。
例えば、東京オフィスには妊娠6カ月の女性が働いていますが、彼女はチームマネジャーの昇格対象者リストに載っており、業績目標を達成しましたので昇進させました。出産後は、再び同じポジションで復帰することになっています。
勤務制度にもフレックスタイムなどがあり、子育て中の女性などが利用していますが、フルタイムで働く人たちと遜色ない働きぶりで素晴らしい実績を上げています。このように母親であり、キャリア・ウーマンであることをサポートするシステムが整っています。
マネジメントにおいてダイバーシティを機能させるには、男女、年齢などにかかわらず、業績によって評価することが非常に大事だということが分かりました。
グローバルな事業展開の中では、同質の人材を採用するのではなく、年齢やジェンダー、バックグランド、将来性など様々な側面から検討して人材を採用していかなければいけません。当社のコンサルタントは成果をベースに登用していますので、クライアントに対しても同様に最大の結果を出していくことを重視しています。
また、人材ビジネスの経験から蓄積してきた人材を活かすためのマネジメントについてのさまざまな事例や人材採用の優れた方法を提供しています。企業と候補者のベストなマッチングによって、価値の高い最適な人材紹介を目指したいと考えています。