ハードウェア製品の開発、製造、販売を行うサトーホールディングスは、“健康経営”や“働き方改革”への取り組みを通じて働きやすい会社づくりだけでなく、生産性向上を目指している。人事部門を統括する江上茂樹氏に、人事施策の取り組み状況などを聞いた。
サトーホールディングス
江上 茂樹 執行役員 最高人財責任者
「施策のベースにあるのは、人を大切にし、個人力を高めるということです」
「健康経営銘柄」と「健康経営優良法人(ホワイト500)」にダブル選定されました。そのように力を入れている“健康経営”の内容や狙いについて教えてください。
“健康経営”の目的は、社員に健康情報や健康増進機会を提供し、身心共に健康となってパフォーマンスを高め生産性の向上に繋げることにあります。また、医療費の抑制を通じた収益性向上や社会貢献も目指しています。
グループを統括するサトーホールディングスに最高健康経営責任者(CWO)を置き、グループ会社のサトーヘルスケアの社長である小沼宏行が就任して“健康経営”の諸施策に取り組んでいます。一方、私が責任者を務める人事部門が通常業務として社員の労働安全や健康管理を担い、“車の両輪”的な推進体制を敷いています。
主な取り組み目標として、当年付与有給休暇取得率100 %と社員個々の「わたしの健康目標」の100%提出を掲げています。後者においては、提出者に月額2000円の「健康増進アクション手当」を支給し、個々の健康目標に向けた取り組みを支援しています。“健康経営”の達成状況としては、定期健康診断受診率100%をはじめ、2016年度の運動習慣者比率(同社基準による)が前年比13.6%増の63.8%といった成果が出ています。
そのほか、各拠点や部門の健康経営責任者や健康経営推進担当者が中心となって、それぞれ独自に健康増進施策を企画・実施しています。ある部門では目黒の本社から神宮球場まで歩いてプロ野球の観戦に行きましたが、レクリエーションや親睦を深める機会にもなっていますね。全社の取り組みとしては、各地で運動会やスポーツイベントも開催しています。
“働き方改革”について、何か取り組まれていますか。
部門や拠点のコアメンバーによる「いっしん会議」という会議体をつくって、2カ月に1度実施しているのですが、最近この会議では、現場の納得感を第一に、“働き方改革”とはそもそも何のためにあるのかといった次元から議論を進めているところです。ちなみに“いっしん”には、一致した心を持つという“一心”や、“一新する”という意味と、経営会議に諮る前の“一審”といった意味を込めています。
進め方の特色としては、PDCAを回すようにまずは考えられる施策をテスト的に実践し、現場の意見や効果を吸収しながらあるべき“働き方改革”の中味を突き詰めていくことが挙げられると思います。
施策には、第2金曜日の午後を休みとする“サトー版プレミアムフライデートライアル”を3カ月限定で実施したり、7時までに出勤すると朝食を提供する“朝型勤務”、1日2回1時間ずつヒーリング音楽を流す“集中タイム”、フリーアドレス制とその延長上にある在宅勤務などの“どこでもワーク”、1時間単位で有給休暇が取得できる制度など数々あります。
この狙いとしては、当社には労働組合がないこともあって、人事から一方的に通知することによる受動的な取り組みではなく、社員自ら腹落ちできる施策を考えていこうというところにあります。
また、全社員が毎日会社の経営トップに直接報告や提案を行う「三行提報」というものを40年間行っています。ここで出される意見が“働き方改革”につながるケースも少なくありませんし、この制度そのものが当社の風通しを良くしている施策となっていると思います。
社内の風通しの良さが、社員の働きやすさを生む
●経営トップに報告、提案を行う「三行提報」
●働きやすい職場づくりのために取り組んでいる主な施策
“働き方改革”に何か具体的な目標を置いていますか。
明確に取り決めたものではありませんが、経営や人事としては“残業ゼロ”を実現させたいとの思いはあります。しかし、この取り組みは何かのゴールを目指すというよりも、恒常的に継続させるところに意味があると捉えています。当社では「個の強みを生かし、チームで勝ち、会社として持続的な成長を図る」ことが重要と考えていますが、施策のベースにあるのは、人を大切にし、個人力を高めるということです。
そこで一つ明確にしているのは、サトーが目指すのは生産性向上によってより多くの付加価値を生むことであり、例えば残業が減ること等による人件費削減を目指しているわけでは決してないということです。例えば、2015年にIoTの概念を取り入れた「SOS」(SATO Online Services)という状態監視および遠隔サポート機能を搭載した世界初のラベルプリンターをリリースしました。
これにより“予防保守”が可能となり、サポートスタッフが無駄のない巡回ルートを組めるようになるなど大幅な省力化を実現させることができます。これにより捻出された時間を人員削減に回すのではなく、お客様との接点を増やしサービスの付加価値を上げることに活用していく予定です。
つまり“働き方改革”の真の目標は生産性や創造性を向上させ、より付加価値の高い業務にシフトして会社としての持続的な成長につなげることにあると言えます。
「“働き方改革”の真の目標は生産性や創造性を向上させ、より付加価値の高い業務にシフトして会社としての持続的な成長につなげることにあると言えます」
このような取り組みは、人材採用にも好影響を及ぼすように思います。
そのとおりですね。“サトーホールディングス”や“株式会社サトー”という社名を知っている方はそんなに多くはありません。スーパーマーケットでアルバイトをしたことのある学生ならば、ハンドラベラーのメーカーとして知っている人がいるかもしれません。
そんな当社がこのほど「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人(ホワイト500)」にダブル選定されたり、2016年度の第6回「日本でいちばん大切にしたい会社」の経済産業大臣賞、2013年には「ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれるなど、人を大切にする経営を高く評価していただけていることは、学生や求職者の方が当社に関心を深める契機となっていると思います。安心して働ける会社であることが納得性高くアピールできているのではないでしょうか。
採用において、ほかに工夫していることはありますか。
採用人数は、2017年入社の新卒は目標50人のところ47人でした。学生の皆さんにまずは当社のことを知っていただこうということで、新卒採用においてはスカウト型の採用サービスを利用したり、学生が集まる就職イベントに参加してこちらから仕掛けていく活動に力を入れています。
また、現在ワンデーで行っているインターンシップを来年度から拡大する予定で、より会社のことを知ってもらうきっかけにしたいと考えています。さらに、大学に限らず高専や高校、そして専門学校にも採用対象を広げています。
中途採用では概ね毎年60~70人を採用しています。こちらは、現場で不足しているポストを補充する形で、転職サイトなどを使いながら都度個別に行っている形です。
最後に、人事部門としての課題を教えてください。
当社グループは国内で約2000人、海外には約3000人の従業員を擁していますが、個の強みを高めるとともに、どこにどんな強みを持つ人財がいるのかを可視化することが課題です。そのためにタレント・マネジメントの仕組みを構築することが必要と考えています。
従来は経験値に頼ってマネジメントをしてきましたが、さすがにこの規模では難しくなっています。このため、人事部門では中期経営計画に基づいた人財戦略のロードマップを組み、取り組んでいます。また、グローバルで活躍する人財の育成にも積極的に力を入れていきたいと考えています。
サトーホールディングス株式会社
代表者:代表取締役社長兼CEO 松山一雄
設立: 1951年
資本金: 84億円
従業員数: 5012人(2017年3月31日現在、連結)
事業内容: グループ経 営戦略の策定・経営管理(純粋持株会社)
本社:東京都目黒区下目黒1-7-1 ナレッジプラザ
売上高: 1063億円(2017年3月期、連結)