「人当たりもよく、良い若者だけれど、何を考えているかよくわからない」
「言ったことはちゃんとやってくれるけど、自分から仕事を探したり、チャレンジしたいと意欲を見せたりはしない」……。
これらは、よく言われる最近の新人・若手社員の傾向だといいます。
そこで今回は、なぜ、Z世代の若者がこのような態度を見せるのか、それにどう対処すれば、より彼らのポテンシャルを引き出せるのかを就職・採用アナリストの斎藤幸江氏に解説してもらいました。(文:斎藤幸江、編集:日本人材ニュース編集部)
デジタル基準のZ世代
いまどきの新人・若手社員は、「ソツがなくてきれいだけど、面白くない」、「もうちょっとガツガツしてほしい」という声があがる一方、先に挙げたように総じて「良い若者」であるという点が育成・支援を難しくしています。
彼らに対して、もう少しガツガツとすることを期待したくても、そこに減点要素はないため周囲も妥協しがちになってしまいます。
デジタルネイティブであるとは
まず、認識しておきたいのは、前回取り上げたように、彼らはデジタルネイティブである点です。2019年(2020年はコロナの影響で、ネット利用時間が急増しているため、前年データを使用)の年代別のネット利用時間、コミュニケーションにおけるソーシャルメディアの利用時間(いずれも平日1日あたり)をみても、10代、20代は特に40代以上に比べて非常に長くなっています。
単年ではなく、生涯で考えた場合、他世代との生活へのデジタル浸透度の違いは、さらに大きいと考えられます。また、個人のデバイスだけでなく、世の中の多くのものがデジタル化しています。つまり、Z世代を構成する若者は、「デジタルへの対応」を基準に生きていると考えると、理解しやすくなります。
ルールは、自分が合わせるもの
デジタル対応の特徴とは何でしょうか。ここで、こんな場面を考えてみましょう。
明日の朝、急な予定が入り、そのために必要なものを買いに行くことになった。近くの販売店へ閉店間際に駆け込み、セルフレジに進んだ。
支払い額は2500円。財布に現金は1000円しかない。電子マネーは2000円分あるが、バッテリーがギリギリで、「チャージか支払いか」のどちらか一択である。
あなたなら、どうしますか?
ひとつは、電子マネーで払える分だけの商品を購入という選択、もうひとつは、うまく組み合わせて2回に分けて支払うという方法です。2000円以下ギリギリの組み合わせを電子マネーで払い、残りを現金で、というわけです。
では、支払い対応が、機械でなく人だったらどうでしょう?
「すみません。これ、明日の朝、どうしても必要なんです。でも、こういう状況で」と説明したら、「それなら、現金と電子マネーの合計で払ってもらえれば、処理しますよ」と言ってくれるかもしれません。あるいは、「家はすぐ近くなので、10分以内に戻ってきますから、取り置いてください」と頼んだら、「お待ちします」と対応してくれるかもしれません。
この違いはなんでしょうか?
それは、「誰のルールに、どこまで縛られるか」です。デジタルの場合、必ず守らなければいけない手順・ルールがあり、それを逸脱したら機能しません。利用者側からのルール変更はできないのです。もし、目的を達成しようとしたら、自分が相手のルールに合わせていく―ここでは、2回に分けて支払う―ほかありません。相手が人なら、自らのニーズに合わせた「ルール変更」を提示し、目的を達成させる可能性が出てきます。
これが、「言ったことはちゃんとやるが、挑戦はしない」、「何を考えているかよくわからない(余分なことは言わない)」という彼らZ世代の背景です。多くの若者は、「相手のルールに合わせて行動すること」に慣れていて、「自分がルールを変更できる」という発想を持ちにくいのです。そう読み解くと、今の若者に接しやすくなります。
・言われたことはちゃんとやる=相手のルールに則って対応する→できる
・挑戦=自分でルールや新たなスタイルを作る→何をどこまで変えたり、作ったりしていいのかわからないから、できない
・必要最小限なことしか言わない=相手の質問に対する情報提供以外に、裁量で自分の意図を伝えられない(=ルール変更ができない)
というわけです。
「ルール」という視点で接する
彼らと円滑にコミュニケーションを図り、ポテンシャルを引き出すには、どう接すればいいのでしょうか?
「目先のルール」に囚われてしまう
ルールに沿って何かを進めることは得意なので、そこを利用するとうまくいきます。例えば、最近は面接で回答の長さに悩む学生が増えています。
面接官「あなたが、学生時代に力を入れたことはなんですか?」
学生「個別指導の学習塾のアルバイトです」
このように、一文で終わる学生がいる一方、何をどこまで話していいかわからず、長くなってしまう学生もいます。短く答える学生は、「聞かれた内容の情報を提供すればいい。面接官がもっと知りたいなら、続けて質問すればいい」と考えています。長く答える学生は、「すべての内容を網羅すれば、過不足ないだろう。思いつく限り伝えよう」と捉えています。
両者の問題は、採用側の質問の意図を考えていない点です。そこで、学生のカウンセリングでは「面接は職場で働いてもらいたい人を見極めるのが目的で、質問はそのための手段です。つまり、回答する時は、採用のための判断材料を入れるという暗黙のルールがあるのです」とアドバイスします。その後、学生から「たとえば?」と聞かれることが多く、「アルバイトなら、仕事の量や幅といった情報を提示しながら、あなたの対応を説明すると、人材像につながりますよ」と答えています。
何をどこまで話せばいいかの目安がわかり、だんだん、面接らしい回答ができるようになります。
このように「目先のルール」に囚われている若者に、「実際のルールは違うので、そこに合わせてほしい」と求めると、コミュニケーションがうまくいきます。
利他の要素がモチベーションに
2020年、コロナの感染拡大が始まり、大学の講義は一斉にオンラインに移行しました。大学生活のノウハウもわからないまま、前期の終わりを迎えて不安を募らせる一年生も多くみられました。
授業の最後にレポート課題を求めて反応を聞いたところ、「無理です」、「締切を延ばしてください」、「やれます」など、短い反応が多く返ってきました。
「YES、NOの2択で答えないでください。急遽、全面オンラインになって何が起きているか把握しきれず、不安なのは教員も同じです。今回の課題は、みなさんが将来のキャリアを考えていく上でのヒントや示唆が多く、役に立つと考えて求めています。ぜひ書いて欲しいというのが私の願いです。
それを踏まえて、何が起きているかを教えてください。どうして書けないのか、状況を説明してください。困っている学生へのアドバイス、他の学生へのエールなどもあれば、ぜひ、お願いします」と投げかけました。
すると、「オンラインで学生がサボっていると疑う教員が多く、過剰な課題が課されている」、「PCが家族共用で、親もリモートになったので使える時間が制限されている」、「自分はこんな方法で、課題を進め、うまくいっている」などの意見が数多く寄せられ、それをもとに対応を検討できました。
このように、質問の際に、意図をルールとして説明すると、より深い意思疎通が図れます。
「頼んだ作業、どうかな?」と聞くだけでは、「大丈夫です」しか返ってこないでしょう。でも、「○○の報告書をまとめるのは、初めてだよね? どんなふうに進めているの? 未経験の人が仕事に慣れていくプロセスも知っておきたいから教えてくれない?」と聞けば、より多くの答えが得られるはずです。
その際、キモになるのが、上記のように「あなたを知りたい」だけでなく、「あなたが提供する情報は、ほかでも役に立ちますよ」という視点を入れておくことです(学生のレポート課題の場合は、「他の学生へのアドバイスやエールを求める」)。利他的な要素がモチベーションにつながりやすいのも、この世代の特徴だからです。
新人・若手社員のルールを考える
与えられたルールに従って動くことに関しては、経験値もスキルも高いZ世代。こちらが期待する動きにつながるルールを提示することで、コミュニケーションや行動は変えられます。より深く考えることを求める投げかけを続ければ、自分でルールを変えてみよう=挑戦しよう、という意識も育ちます。
なぜ、この新人・若手社員はこんな言動をとるのかと考える際、「彼(女)は、どんなルールで動いているのか」と分析し、そこから修正を図ってはいかがでしょうか。