人材採用

「グローバル」「専門性」「マスから個」の採用ニーズに応えるには【リーマン・ショックから3年 人材業界はどう変わったか】

世界同時不況のきっかけとなったリーマン・ショックから3年が経過した。多くの人材紹介会社が事業縮小や撤退に追い込まれたが、リストラ効果と企業の採用意欲の回復に伴って業績は回復傾向にある。リーマン・ショック以後の企業の採用ニーズ、人材業界の変化について取材した。

日本人材ニュース

売上急減でリストラ断行、利益が確保できる体質に

リーマン・ショックから3年が経過した。米国のサブプライムローン問題を契機とした金融危機は、証券会社リーマン・ブラザーズの倒産という象徴的な出来事をきっかけに、世界同時不況に突入した。企業業績は急落し、求人も全面的にストップすることになった。

求人の減少で人材紹介大手で上場企業のジェイ エイ シー リクルートメント(JAC)の業績は、リーマン・ショック直後の2008年12月期に77億7900万円を売り上げたが営業利益は赤字に転落。翌09年12月期の売上高は42億3100万円となり、たった一年で5割近く売り上げが減少した。

希望退職募集やオフィスの縮小などで経費削減を進めたが、08年12月期、09年12月期と2期連続で赤字となった。

その後、JACは新たなマーケットを模索する企業のグローバル人材の採用案件増加で、10年12月期には黒字化を達成。11年12月期の業績予測では、売上高49億8000万円(前年度比16.5%増)、営業利益6億8000万円(同29.8%増)と本格的な回復基調といえる状況だ。

ただし、人材紹介大手3社(リクルートエージェント、インテリジェンス、JAC)の転職紹介人数はリーマン・ショック直前のピークに比べて6割弱にとどまっている。人材紹介事業を中心とする人材各社へのヒアリング調査でも売上高の回復状況では同様の結果がでている。

人材紹介の業界規模はリーマン・ショック直前の5割~6割という状況だが、この3年間に進められたリストラの効果によって、営業利益はリーマン・ショック前に近づきつつある会社も増えてきたようだ。

日本企業のグローバル化による求人が増加

リーマン・ショック前と後の人材需要の変化について、日本企業を主な対象として経営幹部人材の紹介を行うリクルートエグゼクティブエージェント社長の波戸内啓介氏は、次のように話す。

「リーマン・ショック後、日本企業において、いままでの組織や事業を見直し、変革しようとするニーズが高まっています。新規事業の立ち上げや事業の拡大・強化を進めるための人材は、これまで社内で育成してきましたが、経営環境の変化も激しくなり、育成するだけでは間に合わないため社外から積極的に採用する企業が増えています」

世界同時不況によって、日本の消費市場の将来性の無さが顕在化し、世界経済を牽引する新たな成長市場が中国・アジアであるという紛れも無い事実にこれまで国内で活動してきた企業も気付き、グローバル化を真剣に考える企業がグローバル人材の経営幹部を迎え入れているという。

「特にグローバル化への対応では、中国だけではなくタイ、ベトナム、インド、インドネシアなど、これから成長するマーケットはアジアや新興国であることから、グローバル進出を本格的に考える企業が増えました。大手企業はより一層現地化を進め、中堅・中小企業では大手企業の現地化に合わせて海外進出したり、新規需要の獲得を目指す企業も急増しています。こうしたグローバルな事業にかかわる人材の求人案件が、リーマン・ショック前と比較すると非常に多くなっています」

同社とリクルートグループでは、中国・アジアでグローバルな拠点を確立し、日本にいながら世界の優秀な人材を採用することができるような体制を整え、日本企業のグローバル化を支援する計画だ。

外資系企業では、専門性で採用基準のハードル上がる

日本に進出している外資系企業の動向はどうだろうか。世界32カ国164カ所にオフィスを持つマイケル・ペイジ・インターナショナルは、日本では外資系企業を中心にバイリンガルを紹介している登録型の人材紹介会社だ。

同社マネージング・ディレクターのリチャード・キング氏は、「リーマン・ショック直後、外資系企業の求人は止まり、当社の売り上げも下がりました。特に金融セクターの求人はほぼ全面的に止まりました。優秀な候補者も、07年までは転職マーケットで動いていましたが、転職への不安から動かなくなりました」と当時の状況を振り返る。

しかし、外資系企業の求人の回復は、日本企業よりも早かったようだ。

「外資系企業の求人ニーズは09年中盤から回復し始め、10年にはすべての分野で求人が急速に回復しており、当社の業績も過去最高の売り上げを記録しています。11年からは、企業の採用意欲の回復はさらに著しくなっており、3月の震災直後こそ採用活動がストップしましたが、すぐに需要は戻ってきています。職種別ではサプライチェーン、IT、人事という分野でプロフェッショナルの採用が増加しています」

求人は以前のように回復したが、採用基準は厳しいまま継続しているという。「リーマン・ショック前は英語によるコミュニケーション力が重視されていたのですが、いまは採用基準が厳しくなり、英語によるコミュニケーション力は大前提であり、より業務に対する専門性が要求されるようになりました」

外資系企業でも、英語力プラス専門性という2つの採用基準が重視されるようになっている。

新卒採用は、マスから個別へ採用方法の変化始まる

新卒採用のマーケットでも大きな変化が生じている。

企業に採用システムを提供しているヒューマネージ社長の齋藤亮三氏は、「リーマン・ショック後、新卒採用のマーケットは縮小し、売手市場から買手市場になりました。この変化で、企業はより優秀な人材を採用できると思われがちですが、逆に難しくなっています。これまでのように計画された採用数だけではなく、人材の質に対しても一層こだわりが出てきているためです」と、新卒採用でも厳選採用が進んでいると指摘する。

さらに、「草食化」といわれる学生の気質の変化や著しい学力低下などが、採用を難しくしているという。

「厳選採用で採用難易度が上がった結果、特定の学生に内定が集中してしまい、選考辞退や内定辞退が急増しています。これまでのように学内セミナー、合同説明会、インターンシップ、求人広告掲載とすべてのことをやっているのに、なぜ決まらないのか採用担当者は非常に悩んでいます。また、今年から始まる日本経団連の倫理憲章による採用活動の開始時期の変更で、知名度の低いBtoB企業は、学生に会社の内容を知ってもらうための広報期間が短くなるため、どう対応したらいいのか頭を抱えています」

こうした問題に対する解決策として、「これまでのようにマスで広報をするのではなく、新卒マーケットの中でセグメントを定め、One to Oneマーケティングを取り入れていくことが重要ではないでしょうか」と話す。これまで以上に、優秀な人材とのつながりを活用することが採用成功の鍵を握るというのだ。

同社が提供する採用選考支援システムでも、リーマン・ショック後、企業と応募者とのOne to Oneコミュニケーションで辞退を防止するマイページを利用する企業が増加している。

これまでの採用活動は企業から学生へ同じ情報を伝えるだけの一方通行だったが、マイページ機能で先輩の談話や説明会情報など、応募者一人一人に欲しい情報を提供できる機能が好評だという。

本格的な回復局面に入った日本の人材会社

今、人材市場は、どのような状況にあるのだろうか。1962年設立で、日本で最も歴史のある人材紹介会社の一つケンブリッジ・リサーチ研究所社長の橋本寿幸氏は次のように話す。

「リーマン・ショックから3年が経過し、企業では事業の強化や新規分野進出といった展開の中で、新たな人材需要が出てきています。新規事業進出では、事業を構築できる事業部長クラスの求人も増えています。既存事業の強化や拡大では、より高い専門的な能力を持つ人材が求められるようになっています」

厳選採用の流れは変わらないが、企業の業績回復にともない求人は確実に復活しつつあり、それに合わせて人材会社の売上実績もようやく本格的な回復局面に入ってきているようだ。

日本人材ニュースの7~9月期のDI調査によれば、「建設・設備」「金融・不動産」「医療」を除いてすべての分野で人材会社の業績は上昇基調に入っている。 特にこれまで横ばいだった「電気・電子・半導体」「素材・エネルギー」「流通・販売」「サービス・消費財」「マスコミ・広告」が上昇基調に転じている。医師・看護師が対象の「医療」はこれまで好調だったが新規参入も多く競争が激化しており、各社の求人決定率は下がっているようだ。

7~9月期の実績については、「通信・ネット、メディカル、自動車などを中心に求人数が増加傾向。

下期についても決定数、決定金額ともに堅調に推移するとみている」(インテリジェンス片岡秀夫氏)、「4~6月期の求人は流通・サービス系が主であったが、7~9月期は製造、IT、建設・不動産、コンサルティングなどに広がりが出た」(アソウ・ヒューマニーセンター嘉村友宏副部長)、「建設・不動産、医療、インターネット業界で売上が拡大」(ヒューマンリソシア髙本和幸部長)など、求人が広範に拡大していると見られるコメントが目立っている。

対前年同期比でみたDIも70.9とリーマン・ショック後、最高を記録している。こうした状況について、橋本氏は次のように分析する。

「欧州の金融危機など不安定な要因はありますが、すべての分野で求人が増えており、求人の回復には力強さを感じます。リーマン・ショック後、3期ぶりに黒字決算となった人材会社も多いのではないでしょうか。採用が難しい特殊な人材をリテーナーで探そうとする企業もあり、これまでのような登録型だけのスタイルでは企業ニーズに対応することが難しい状況です。専門的な人材の求人案件に対応できるコンサルタントでないと売り上げは上がらない時代になってきています」

リーマン・ショックから3年を経過し、企業の求人意欲と人材会社の業績は回復しつつある。しかし、厳選採用が定着していることから、高度で専門的な人材を求める企業ニーズに応えられない人材会社やコンサルタントは、生き残れない時代になっている。

エナジード
経営者JP

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