組織・人事

社員の行動変容を促し、 新たな価値創造を起こす【三菱地所ホーム】

三菱地所ホームは本社移転に併せ、新オフィス「TOKYO BASE」にABW(Activity Based Working)型フリーアドレスを導入することで社員の行動を大きく変えた。ワーク・イノベーション推進部長の中村和博氏にどのような経営課題を背景に、オフィス・ワークスタイル変革を進めたかを聞いた。

三菱地所ホーム
中村 和博 ワーク・イノベーション推進部長

「社員の“意識”よりも先に“行動”が変わる仕掛けを発想すべきだと思います」

抜本的な変革に向けた大規模オフィス移転の背景

今回の大規模なオフィス移転は、どのような経営課題が背景になっているのでしょうか。

元々は旧オフィスがあった国際新赤坂ビル周辺のエリア再開発のため、本社の移転計画が検討されていました。旧オフィスで事業を行ってきた数年間、大きな変革が起こせないまま従前の古い人事制度や業務オペレーション、インフラ環境が続いてきていたため、社員も「自ら変化する」ことに後ろ向きになっていました。

このように凝り固まった会社の在り方を打開するために、今回のオフィス移転を単なる引っ越しではなくDX(デジタルトランスフォーメーション)実装や事業変革、ワークスタイルの変革を含めて抜本的な変革を行うという経営トップの判断のもと、2年前に組成されたワーク・イノベーション推進部を中心に企画検討を重ねてきました。

今回の大変革は当社社長の加藤の強い意向であったため、トップ自らが当社には変革が必要だという危機感を持って率先垂範してくれたことで計画をスムーズに推進させることができ、会社全体を巻き込んで動かすことができました。私自身、人事と経営企画の双方を経験していたこともあり、今回のオフィス移転は、組織・人事という視点だけでなく、経営目線で変革を推進する必要があると感じていました。

オフィス・ワークスタイル変革の検討経緯を教えてください。

まず初めに、会社のあるべき姿を社員に浸透しやすい言葉で伝える必要があると考え、翌年に設立35周年となる2018年7月に次の35年を見据えたミッション・ビジョン・バリューをボトムアップで策定する全社プロジェクト「NEXT35プロジェクト」を発足させ、年次や部門の垣根を越えて内容について検討しました。その後、プロジェクトで決まった内容を浸透させるためにワークショップなども開催し、企業変革の土台を固めていきました。

2019年に「Work Change Booster」というワーキンググループを組成し、本社移転を前提とした新オフィスの考え方や働き方について、中堅クラス以上の社員が集まり議論しました。

実は、職制組織として移転準備室の立ち上げを経営に提言したのも、このグループの成果の一つであり、その結果として2020年4月に社長直轄のワーク・イノベーション推進部(当時はワーク・イノベーション推進室)が発足しています。

一方で、ワーク・イノベーション推進部の策定する移転方針だけではなく、全社の考え方や意向も企画内容に取り入れていくため、2021年に「Office Transformation 2022」というワーキンググループを置き、当部だけでなく各部署、部門の若手社員にも参加してもらい、オフィスの在り方からレイアウト、これからのワークスタイルについて合意形成を行いました。

その後、新しい働き方をリードすべき管理職に求められる行動規範「マネジメント・アクション」を10人の部長職と経営層が一体となって策定し、その浸透を図るために管理職や全役員を対象とする研修も実施しました。

社員の「行動変容」を促す新オフィス

そのような経緯を経て実現した新オフィスですが、どのような特徴があるのでしょうか。

まずは、社員がイキイキと主体的に働くことができる環境を整備した「ABW (Activity Based Working)」です。オフィスのスペースを圧縮しながらも、生産性を上げるために10の特性あるワークポイント(座席)を設け、業務の内容に合わせて自由に座席を選択できるABW型フリーアドレスに移行しました。固定費削減はもちろん、社員が主体性を持って自立していくきっかけになっています。

次に感性をより豊かに高めていく機能です。当社には外部関係者との共創空間であるカフェ空間「Ground」、執務エリアには社員が休息するリチャージスペース「Mori」を設けています。

「Ground」には全国4カ所で伐採された当社の構造材(国産材)を活用しており、林業に携わる人の想いや木が本来持つ力強さに触れることができます。「Mori」には原木と人工芝を施し、SDGsをはじめとする社会課題や最新の情報に関するデジタルサイネージと雑誌・書籍を配置することで、社員が休息しながら常に新しい情報に触れられる環境を整備しています。

イキイキと主体的に働くことができる環境を整備

業務内容に合わせた10のワークポイント(座席)

真に価値あるイノベーションや斬新な業務変革を起こすには、感性が非常に重要な要素になると考えているからです。また、これらは社会課題への関心にもつながります。山積する社会課題に向きあい取り組むことで、人間を含む全ての動植物も幸せに暮らせる理想的な社会の実現が、結果として収益拡大にもつながり、事業変革や社員の働き甲斐にもいい影響を生むことができると思っています。

新オフィスの名称は「TOKYO BASE」。これまでは本社と呼んでいましたが、社員が立ち返る場所であるベースキャンプのような存在を想起できるような愛称を付けました。

新オフィスをどのように組織変革に生かしていくのでしょうか。

通常、組織に変革を起こすには、まず制度や組織を整えることに着手しようとなると思います。しかし、これまで比較的経営に近い視点で社内外を見てきた経験から、制度や組織を作っただけで行動が伴わずに変革が頓挫してしまう例が数多くあるように感じていました。

そのため、今回の変革では、まず「行動変容」を促すためにオフィスの在り方を大きく変更しました。運用や制度が追いついていない中、このようなオフィスで働いていくと上手く機能しない部分も生じてきて、制度や規則の欠損部分が誰の目にも顕在化していきます。そのタイミングでさっと制度を変えると働きやすさを感じるようになり、自然と制度も根付いていくと考えています。

オフィスという大きなインフラを変えたことにより組織変革が起こしやすくなった今、新しい働き方やイノベーションを起こすための制度改革などに着手しています。

組織の枠組みとしては、ABW型フリーアドレスに移行したことで従前の組織の壁が無くなったので、今度は顧客に価値を提供する上でどのような組織が最適なのか、新オフィスを生かして再考しなければいけないと思っています。

オフィス入り口の商談・打合せスペースであるカフェ空間「Ground」

企業変革も小さな行動から始まる

人事が企業変革を起こしていくに際して、何かアドバイスはありますか。

経営トップを動かすことはなかなか難しいかもしれません。しかし、実は自分の半径3m以内でできることがあったりもします。小さく行動を起こしていくと、いつの日か一番大きな想いに届くことがあります。

人事は社員の“意識”を変えようとしがちです。それよりも、まず“行動”が変わるような仕掛けを発想していくべきだと思います。行動が変わっていくことで意識が変わることもあります。私自身も、このオフィス移転を通じて、行動変容につながるデザインを考えることの重要性に気付くことができました。

また、言葉も重要です。当社ではあえて社内の共通言語にキャッチーな言葉を入れています。それらが社内で聞こえてきた時は、本人は意識していないかもしれませんが、言葉に込められた想いを汲んでくれているはずです。社員が発しやすい言葉や発して欲しい言葉を丁寧に選ぶことも非常に大切だと感じています。

今後に向けて課題はありますか。

顧客に自社の魅力がアピールできているか、新たな価値創造が起きているか、社会課題に対する社員の意識は高まったか、生産性が上がったかなど、これから検証すべき内容はたくさんあります。社員が楽しい・ワクワクする・イキイキできるというような定量的に推し量れない要素も大切にし、オフィスが狙い通りにしっかり機能するような施策を考えていきたいと思います。

三菱地所ホーム株式会社

代表取締役社長 加藤 博文
設立:1984年7月2日
資本金:4億5,000万円
従業員数:491人
事業内容:戸建注文建築、集合住宅、リフォームの設計・管理・施工請負 他
所在地:東京都新宿区新宿6-27-30 新宿イーストサイドスクエア7F
売上高:282億円(2021年3月末実績)

エナジード
経営者JP

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