組織・人事

そもそも人事評価とは? 新任最年少課長が挑む目標管理の基本【初任者でも分かる!ワインバーで学ぶ目標管理と人事評価】第1回

本連載では目標管理と人事評価について、牛久保潔氏にストーリー形式で数回にわたり解説してもらいます。ワインバーを舞台に、新任最年少課長に抜擢された主人公の涼本未良と共に目標管理と人事評価について分かりやすく学べます。

登場人物

あらすじ

涼本未良は新商品・新サービスを担当する営業二課に勤務する入社5年目。
通達により突然最年少女性課長に抜擢されるが、課員には厳しい先輩や元部長・次長も…
果たして未良は課員をうまくマネジメントし、正しく評価することができるのか。

私は最年少女性課長

通達
3月16日より、新組織を発足する
組織名:営業二課(新商品・新サービス担当)
課長:涼本未良(昇格)

未良は、昨夜遊びに来ていた高校時代からの友人、奈堀由貴と明け方まで飲んでしまったせいか、朝起きられなかった。痛みの残る頭を押さえ、「おはようございまーす。フレックスでーす」と言いながら出社した。
すると、人事部にいる同期の紫門美宇が気づいて、「この後これ、メール流して、廊下の掲示板にも貼り出すよ」とヒソヒソ声で近寄ってきた。

「え~っ! 何これ?!」
未良は、見せられた通達を見て目を丸くした。
「か、課長……? やめてよ、美宇! どういうこと?」
「女性活躍推進委員会の推薦があったみたい。5年目で課長なんて、うちじゃ、男子も含めて同期ナンバーワンだよ。すごいじゃない!」
「……って言うか、営業系で私より年上の女性がいないだけでしょ?!」
「そうだっていいじゃない、課長だよ!」
「これって断れるの?」
「え~、断りたいの? どうかなあ、もう無理だと思うけど……」
「だって……、えっ、来週……?」
未良は、日付を指差しながら眉間にしわを寄せた。
「そうなの、社長が来週、女性経営者の団体に呼ばれて講演する時に、このこと話したいみたい」
「じゃあ、講演でいい顔するため?」
「……まあ、そういう面もあるかもしれないけど、お給料も上がるし、これはチャンスだよ。毎週2人でスイーツ食べに行ってもおつりがくる!」
美宇は目を輝かせた。
「ちょっと、どうして2人分なの!」
「だって、未良、1人で行くのイヤでしょ?!」
「そうだけど……、そうじゃなくて……」
「とにかく今晩、お祝いしよう!」
美宇は未良を遮って言うと、人事部の方へ戻って行った。

夜、東京の幾つかの部門に配属されている同期10人程が駅近くの小さなワインバーに集まった。
同期の1人、丹羽恭一が学生時代にアルバイトをしていた店で、丹羽の計らいで貸し切りとなり、急ごしらえの装飾もされている。

パン、パーン!
美宇に引っ張られるように未良が入ってくると、一斉にクラッカーが鳴った。

「未良、おめでとう!」
「すげえな、おまえ!」
「課長さん、かっちょえ~!」
美宇が小さな台の上に立ち、シャンパングラスをフォークではじいた。
「みなさーん、もう知っての通り、未良が来週から、課長さんになりまーす。大変なこともあると思うので、みんなで助けてあげましょうね!」
美宇は嬉しそうに言うと、「じゃ、新課長さんからご挨拶でーす!」と、未良を台の上に立たせた。
「えっ、……私? ……えっと、今日は急だったのに、こんな会を開いてくれて本当にありがとう。なぜかこういうことになっちゃって、正直、気持ちの整理もまだついてなくて……。でも言えるのは、私にはいつも同期が一番ってこと! みんな、ずっとよろしくね。……じゃ、とにかく飲も! 飲も! カンパーイ!」
未良が自らグラスを掲げると、乾杯の発声をする予定だった丹羽も慌てて、「カンパーイ!」と声を上げ、締まりなく会が始まった。

「どう? 先を越された同期ナンバーワン営業としては、納得がいかない?」

しばらく歓談した後、営業一課の舘野晴美が、カウンターの端で飲んでいた吉住徹に話しかけた。
「まあ、不公平であることは間違いないだろ! でもしょうがねえよ、うちは女性管理職が少ないし、特に営業部門にはゼロだからな……」
「去年入った女性課長も辞めちゃったしね……」
「俺、今回の発表、実はつぶれていなくなっても問題ない涼本に、白羽の矢を立てたと思ってんだ……」
吉住がそう言ってフッと息を吐くと、舘野も小さく頷きながら冷笑を返した。カウンターの中でマスターを手伝っていた丹羽が、ワインを注ぎながら静かに聞いていた。

店の前で記念撮影をして解散すると、終電に間に合おうと急ぐ人、次の店を探し始める人、夜風に吹かれて酔いを覚まそうとする人、それぞれ帰途についた。
未良と美宇が荷物を取りに戻ると、丹羽がマスターの栗村洋治を手伝って片づけをしていたので、2人も加わった。
「すいませんね。お2人にまでこんなことさせちゃって……」
栗村が笑顔で頭を下げた。
「いいえ、とんでもないです!」
美宇は、胸の前で両手を振ると、「とっても美味しかったし、楽しかったし、こんな飾り付けまで……、本当にありがとうございました!」と微笑んだ。
「2人とも近くだし、大丈夫です。 それに今日のパーティーで何となく、『やってみるしかないか!』って気になってきました」
未良も照れながら答えた。
「それはよかった! 開いた甲斐があったね」
栗村がグラスを洗いながら丹羽に微笑んだ。
「本当ですね! 前向きな気持ちになれたなら嬉しいな……」
丹羽は笑顔で答えると、未良、美宇に向かって、「ボクがいなくてもいつでもこの店利用してね。栗村さんはもともと大手の会社で営業部長とか人事部長なんかしてたから、仕事のことでも相談に乗ってくれると思うよ」と続けた。
「ははは、私にできることならお手伝いしますよ。いつでも遊びにきてくださいね」
「ありがとうございます。心強いです」
未良は深々と頭を下げた。

翌朝、未良は社長の大杉力に呼ばれた。呼ばれることは美宇から聞いていたから驚かなかったが、直接話すのは入社の時以来だし、緊張した。
「今回の通達、驚いたか?」
「はい、突然だったので少し……」
「うん、〝少し〟なら大丈夫だ。抜擢人事だから、このチャンスをしっかり活かしなさい」
「……はい、ありがとうございます」
「昨日、同期が集まったらしいな」
「そうなんです。みんなのおかげで、〝頑張らなくちゃ〟と改めて思いました」
未良は、大杉の肩越しに、秘書をしている同期の山本朋奈をチラッと見て答えた。
「うん、それはよかった。……二課には涼本さんをしっかりサポートできるメンバーを入れたから安心しなさい」
そう言うと、大杉は営業二課の課員リストを滑らせた。

「……」
未良は言葉が出なかった。
部下8人中、年下は2人だけで、残りは同期が2人、先輩が2人、定年を迎えて再雇用になった社員が2人だった。何かとしかりつけてくる再雇用者も、厳しい先輩も入っている。
正直言って、未良は出世欲なんてないし、年上の部下を持つことで自尊心がくすぐられるタイプでもない。ただ同僚と楽しく仕事をしたいと思ってきただけだ。
昨日僅かに湧き出て来たやる気や自分への期待が、砂に染み込む波のように心の奥底へと消えて行った。
「このメンバーなら大丈夫だ。みんな言いたいことは言っても、それは会社を考えてのこと、論理立てて話せばわかってくれる連中だ」
未良は背中に汗がつたうのを感じながら、「これは決定ですか?」と聞くのが精一杯だった。


美宇が、通りかかった未良を給湯室に引っ張り込んだ。
「ねえ、呼ばれたんでしょ? どうだった?」
美宇が上を指差して聞いた。
「このこと知ってたの?」
未良は美宇の質問には答えず、ついさっき大杉にもらった営業二課の課員リストを美宇の目の前に突き出した。
「え~、ぜんぜん知らないよー。でもこれは大変そうだね。いつも未良に怒鳴ってる再雇用の田島さんが入ってるんだ……」
「そうだよ、4つ上の土井さんもいる。何か言ったら、『うるさい!』って怒鳴られるか、無視されるかのどっちかだよ」
未良は口を尖らせ、左右に振った。
「ホントだね! どうする?」
「どうにもできない! ああ、もう自信なくなった!」
「あっただけでもすごいじゃない」
「違うの! なかったけど、今じゃできない自信がついたってこと……」
「課員リストまであるってことは、もう変更はできないと思うけど、どうしてそうなったのかは、一応、人事の中で聞いてみるよ。夜、昨日のお店で待ち合わせしよっ!」
「うん、わかった……」

「ごめん、まわりに聞いてみたんだけど、どうしてああいうメンバーになったかよくわからなかったの……」
「いいよ、いいよ。ありがとう、感謝してる」
未良は微笑みながら小さく首を振った。
「ただね、先輩から聞いた話なんだけど……」
「何……、美宇、あ~、何かイヤな表情してる……」
「あのね……、これまで定年で再雇用になった社員は、どこの組織でも部長付きになってたでしょ?」
「うん……えっと、若手の指導係だよね?」
「そうそう、でもこれからは、普通に一担当者としてそれぞれの組織に入って仕事して、評価の対象にもなるんだって……。それで未良の課にも2人配属されたみたい……」
美宇が曇った表情で言った。
「え~、じゃあ、私、あの2人を評価するの? いつも怒ってくる田島さんのことも、新人の時に指導してもらった宝田さんのことも? 元は部長と次長だよ。そんなの無理!」
未良は首を振りながら、カウンターに座ったまま地団駄を踏むように足を動かした。
「いいじゃない! 厳しく指導しちゃえば、スカッとするかも!」
美宇が悪戯っぽい表情で言った。
「スカッとなんてする訳ないでしょ」
「じゃ、いつもは優しくしておいて、評価の時に黙って低くしちゃえば……?」
「そんなことしたら、きっと田島さんから理由を追及されるし、会社のナントカ委員会に駆け込まれちゃう。……ああ、もうヤダ!」
未良は2杯目のグラスを開けた。

「あれ? 昨日と違って難しい雰囲気ですね……」
栗村が微笑み、「これはお店から!」と、2人のグラスにワインを注いだ。
「ありがとうございます! 未良が大変なんです。課長になったら、苦手な人たちが部下になってて……。これまでよく怒られた人たちを指導とか評価とかしなくちゃいけないんです……」
美宇が、頷く未良の両肩を撫でながら言った。
「わあ、それは大変だ。精神的にもかなりきつそうですね……」
「そうなんです! 元部長たちをマネジメントしろ、評価しろって言われても、無理があると思うんです……」
未良が困った表情を見せた。
「あっ、そう言えば今、新しい目標管理と評価の仕組みを作り始めてて、1年後には正式スタートになる予定だから、そしたらルールがはっきりしてやり易くなるかも……」
美宇が目を大きくして言った。
「私、1年も持たない自信ある……」
未良が両手で頬杖をついた。
「目標管理と評価の仕組みですか……。基本的な考え方を理解できると、目標管理や評価の方法はもちろん、上司と部下、つまり評価者と被評価者のコミュニケーションや仕事の進め方にもプラスになると思いますよ」
栗村は、カウンターを挟んで椅子を置きながら、ゆっくりとした口調で言った。
「美宇さんが言う通り、これから制度を作るなら時間がかかるだろうし、でも基本の考え方はそう変わらないだろうから、もしボクでよければ、ボクが理解する目標管理評価制度はどんなもので、どういったところに気を付ければいいか、お話しましょうか……」
「わっ、本当ですか?」
「よかったじゃない!」
「じゃあ、店のオープン前、何回か小さな勉強会でもしますか?」
栗村が微笑んだ。
「本当にお言葉に甘えてもいいんですか?」
「もちろんです!」
「何だか楽しみ~!」
「お願いします!」 未良と美宇が手を取り合って小躍りした。

ドラッガーさんの目標管理

翌日、午後五時少し前。
「今日からよろしくお願いします!」
「こんにちは~」
「いらっしゃい! 早いですねぇ。おっ、しかも三人……」
仕入れた食材の確認をしていた栗村は、未良、美宇の後ろからひょっこり顔を出した丹羽を見て微笑んだ。
「教えてもらう間、何かお手伝いできることがあれば、丹羽くんにしてもらおうと思って連れてきちゃいました。ねっ、丹羽くん?!」
美宇は笑顔で頷く丹羽の腕を引き寄せながら言った。
「あはは、それは心強い。でも、こんな早い時間に抜け出して大丈夫なんですか?」
栗村が腕時計に目をやった。
「フレックスでーす」
未良が小さく手を挙げた。
「すごいやる気ですね。私も頑張らないと!」
「来週から新しい組織が始まっちゃうから、その前にちょっとでも勉強しておきたくて……」
「マスター、仕込み、任せてください。ボクやっときますから」
丹羽がキッチンの方に歩きながら言った。
「悪いねぇ、それは助かる。……じゃあ、一回目の勉強会を始めますか」
「はい」
「お願いします!」

カウンターの両サイドから、三人それぞれがノートパソコンを開き、栗村が共有したファイルを見る形で始まった。「本題に入る前に、一つ質問ですが、評価するってどんな意味だと思います?」
栗村はそう言って、モニターに大きく、『評価って何?』と打ち込んだ。

「えっと、仕事の結果を見て点数をつけること!」
美宇が元気よく言うと、未良も、「あと、最後にAとかBとか成績もつけること……?」と自信なさげに付け足した。
「そうですね。二人とも正解! ……でも、目標管理評価制度において、評価をする人、つまり上司であれば、このくらい幅広く捉えておくといいと思います」
栗村はそう言ってモニターに映した。

「長~い。覚えられるかな……」
美宇が心配そうな表情になった。
「あはは、暗記する必要はないですよ。ただ、評価を行う上司の仕事って、部下の成績をつけるだけじゃないってことを知って欲しいんです。特に上司がこうした幅広い意識を持てるかどうかは、実績の把握だけじゃなくて、マネジメントにも大きな影響を与えることになりますから……」
栗村は、『アドバイスや指導』、『採点・調整・順位付け』、『処遇や教育』の三ヶ所を赤字に変えながら言った。
「あの……、つまり……、成績をつけるだけじゃなくて、一緒に考えたり、アドバイスしたり、教育にも役立ててこそ、いい評価になるってことですか」
未良が聞いた。
「すばらしい! その通りです。上司がそこまでの意識を持っていると、評価がいろいろな面でプラスに役立つと思います!」
栗村は微笑んで言うと、「じゃあ、この言葉、聞いたことありますか」と、続けて次のページを見せた。

「最初の二行だけなら、聞いたことある気がしまーす……」
美宇が小さく手を挙げた。
「うん、最初の二行が有名ですよね。でも本当はこんなに続くんです。……もしかしたら美宇さんは、この言葉のもとになったとされる、米沢藩上杉鷹山の『してみせて 言って聞かせて させてみる』っていうのをお聞きになったのかもしれませんね」
「どうだろう……」
美宇が首をかしげて微笑んだ。
「図3の、この言葉は、山本五十六海軍大将の言葉で、その後、警察予備隊、保安隊、自衛隊でも続けて指導者の心得として掲げられているらしいですよ」
「そうなんですか!」
「知らなかったです……」
「上杉鷹山の言葉であっても、山本五十六の言葉であっても、今と違って厳しい上下関係の頃だったと思うんです。まして武士とか軍隊なら、嫌な上司がいたら転職すればいいなんて考え方もなかったでしょうし……。そんな頃から、立派な指導者、上司になるためには、こういうことが必要だと考えられていたんですね……」
「驚きです~。『お前の命預けろ!』『はーい!』みたいな時代かと思ってました……」
美宇が眉を八の字に上げて言うと、「そこまで軽くないでしょ!」
未良が笑い声を上げた。


「みなさ~ん、ペペロンチーノパスタを作ったんですけど、食べませんか?」
黒い前掛けをした丹羽が、カウンターの奥から皿を持ち上げて見せた。
「おっ、丹羽くんの十八番だね。それは嬉しいな、じゃ、今日はここまでにしましょうか?」
「はーい」
「ありがとうございました」

翌日夕方、ワインバー。
「マスター、こんにちはー」
「今日もよろしくお願いしまーす!」
「はい、いらっしゃーい。あっ、お友達? はじめまして!」
栗村は、未良、美宇の横にいる女性を見て言った。
「そうなんです。今日、丹羽くんがいなかったから、お手伝いできそうな友達連れてきました」
未良はそう言うと、友人の由貴を前に押し出した。
「はじめまして! 奈堀です」
由貴は笑顔で頭を下げた。
ゴン!
何かがぶつかるような音がすると、頭を押さえながら丹羽が立ち上がった。
「あれ、丹羽くん、いるじゃない。……ねえ! 今日スケジューラー、在宅勤務にしてなかった?」
未良は、ヘッドフォンをしている丹羽を見つけると、気づくように大きく手を振り、ヘッドフォンを外すのを待って言った。
「ああ、してたよ。……今日はここで在宅勤務してた!」
「楽しそ~」
美宇が笑顔で手を叩いた。
「……じゃあ、由貴は私たちと一緒でも、丹羽くんと一緒でもいいけど、どうする?」
未良が由貴に聞いた。
「う~ん、私は、人事のお勉強よりはお料理かな……」
由貴はにっこりそう言うと、丹羽に向かって、「私、イタリアンレストランで少しだけキッチンやってたので、お手伝いさせてもらってもいいですか」と微笑んだ。
「えっ! も、もちろんですよ!」
丹羽が嬉しそうに大きく頷いた。
「じゃ、由貴はそっちね、私たちはこっち……」

「それじゃ今日も始めますか?」
栗村がノートパソコンを取り出すと。未良、美宇もカウンターに座って、ノートパソコンを開いた。
「今日は二回目。いよいよ目標管理についてです」
「はーい」
「待ってました!」
栗村はおもむろに、ⅯBOと大きく打ち込むと、モニターを指差し、「これ知ってます?」と聞いた。
「……」
二人は首を横に振った。
「これは、Management By Objectivesの略で、よく目標管理とか目標管理制度って訳されているものです。もともと一九五〇年代にピーター・ドラッガーさんが提唱して、六〇年代にはアメリカで広まり、二、三〇年遅れて日本でも広まった考え方です」
「『もしドラ』のドラッガーさんなら、私、映画のオーディション受けましたよ。落ちましたけど……」
美宇が笑顔で言った。
「そうでしたか! そう、そのドラッガーさんです。若い人にはそっちの方が有名かもしれませんね……。ドラッガーさんは、自ら目標を立ててそれに向かって進んでいくことで、やりがいも達成感も得られるし、効果も最大化するっておっしゃっていて、そうした考え方というか、マネジメント手法をⅯBOって呼んだんです」
「自ら目標を……?」
「そう、ドラッガーさんは、一人一人が自分で目標を決めて、自分で管理することを重視しました。ドラッガーさんはもともと、Management By Objectivesじゃなくて、Management By Objectives and Self-controlっておっしゃったんです」
栗村はそう言って、ⅯBOの後に、-Sと赤字で付け足した。

「ドラッガーさんが言ってるのは、評価の仕組みじゃなくて、仕事の管理方法の話なんです。整理するとこの図5みたいな感じになるのかな……」

「成果主義が広まって、ドラッガーさんの目標管理を多くの会社が評価にも使うようになる中で、自ら目標を立てることも、Self-controlも消えていったのかもしれません……」
「それって会社がいいとこ取りをしたってことですか?」
キッチンから丹羽が、身を乗り出すようにして聞いた。
「ん? まあ、そういう面もあるかもしれないけど、会社にすれば、社員が勝手に立てた目標をもとに評価するんじゃ、全員が目標を達成しても会社が目標を達成できないなんてこともあり得る訳だし、目標管理を評価に使うなら必然だったんじゃないかな……」
栗村は振り返って丹羽に答えると、未良、美宇の方に向き直り、「深く考えないまま、目標管理を評価に使おうとすると、ノルマ管理を助長するような息苦しい制度になり易いので、ここからはいよいよ、目標管理をどう評価に使って、目標管理評価制度と言えるものにしていくかをお話しますね。評価に結びつけないドラッガーさんの目標管理制度と区別するために、言葉も『目標管理評価制度』に統一してお話していきましょう」と付け足した。


「みなさーん、丹羽さんの特製カルボナーラパスタができましたよ~」
キッチンから、由貴の声が聞こえた。
「じゃあ、いったん、休憩にしましょうか?」
「はーい、ありがとうございま~す!」 「うわぁ、美味しそう!」

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第2回「目標管理評価制度の基本と運用ポイントとは? 新組織スタートで揺れる営業二課」

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牛久保潔

プロッソ 代表取締役社長/採用戦略コンサルタント。1964年、埼玉県生まれ。日本DEC(現、日本ヒューレット・パッカード)、日本オラクルを経て、2003年に独立し、プロッソを創業。業種を問わず、大手企業から中小の成長企業まで、採用と離職のコンサルティング、採用業務のアウトソーシング、面接担当者トレーニングなどのサービスを提供している。

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