選考の早期化で10月に内定出しも、インターンシップが事実上の採用選考に

マイナビ調査によると、2025年卒学生の89.5%がインターンシップ・仕事体験に参加しており、調査以降最も高い割合となっている。現在、各社ではどのようなインターンシップを開催し選考に活用しているのか、内容について取材した。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

日本人材ニュース

約9割の学生が参加、インターンシップの実施が例年より早まる

2025年卒の学生からインターンシップで得た学生情報を採用活動に使用できる「採用直結型インターンシップ」が今年から始まった。といっても採用直結型は以前から始まっており、政府が追認したにすぎない。

また、政府が認定するインターンシップは週5日間以上(汎用的能力活用型)であるが、1~2日程度の企業説明会まがいのインターンシップも増えている。

今では約9割の学生が参加し、インターンシップへの参加が事実上の採用選考にもなっており、しかも今年は例年よりも実施が早くなっている。

小売業の人事担当者は「就活の早期化が一層進んでいる。採用直結になったことで夏期インターンが実質的な採用選考になった。とくに大手企業の中にはインターンシップの事前エントリーが始まる3年生の4月以降から学生に接触し、インターンシップに誘い込む企業も登場した。インターンシップで内定を出すことはないにしても、気に入った学生には『君と一緒に仕事をしたい』とか、シグナルを送るなど、選考モードに入っている」と語る。

外資系では3年生の10月に内定出しも

実際に住宅メーカーの人事担当者は「夏期インターンシップから事実上の選考が始まるといってもよい。参加者が限定されるのでエントリーシートを提出し、適性検査を実施するが、それでも倍率は数十倍になるので絞り込む必要がある。秋も1~2日のインターンを繰り返し、冬のクリスマスまでに終了する」と語る。

このように、通常の採用選考と同じようにエントリーシートの提出と適性試験も実施しており、人気企業ほどインターンシップ参加者も限定される。

また、外資系企業の中にはすでに内定を出している企業もある。

サービス業の人事担当者は「夏期インターンシップに参加していたMARCHの学生が『外資系コンサル企業のインターンシップに参加した友人は最終面接も終えて10月には内定をもらっています』と言ったのには驚いた。例年通りなら外資やコンサルは12月の内定出しが普通だったが、今年は本当に早くなっている」と語る。

見極めポイントは入社後の活躍がイメージできる人かどうか

ではインターンシップでは参加者のどこをチェックしているのか。

前出の小売業では、チームごとのグループワークと実習を実施している。ビジネスに近いテーマを設定し、チームごとに課題を与えて解決策を出し、最後に発表させる。実務では実際に店舗に出て接客など一連の業務を担当させている。

人事担当者はこう語る。

「見極めるポイントは当社に入って活躍のイメージができる人かどうかである。自分で考えて能動的に動き、アクションを起こす、もしくは何かを生み出せる自立した人材がほしい。グループワークや実習をやらせるとすぐに分かる。例えば課題を与えたとき、『どうやればいいんですか』と質問してくる学生は、教えられないとやらない人だなと思ってしまう。逆に自分の頭の中で咀嚼し『こうやりたいと思うんですが、この方向でいいですか』と、自分なりのアプローチのやり方が考えられる人はいいなと思う」

実習では学生をより深掘りする。

「現場の実習では店長の上のエリアマネジャーになれる人材かどうかを見ている。店長は誰よりも仕事ができて、リーダーシップがある人だが、店長候補の人材なら簡単に採れる。問題はその上のエリアマネジャーなど幹部人材の資質があるかどうかだ。目の前の仕事を一生懸命にやるのも大事だが、いろんなところに目が行き届き、業務改善の指示を出せる物事を俯瞰的に見るのがエリアマネジャーだ。そこに行き着くまでに折れずに、余裕で店長になれ、さらにその上にも行けるかどうかを見ている」(人事担当者)

社員全員で共通の評価シートでチェックし、総合点で評価

住宅メーカーでは個人ワークとグループワークをメインに実施する。

個人ワークは企画提案の課題を出し、学生が出した解決策について中堅の先輩社員が総括のレクチャーを行う。技術系は建築物のケースごとに顧客のニーズがどこにあるかを説明し、最後は実際に設計図面の課題を与え、完成した作品を社員が個別に講評するという流れだ。

同社では対応する人事部と部門の社員全員に共通の評価シートを与え、同じ目線でチェックしている。

人事担当者は「とくに最近は先輩社員とのコミュニケーションギャップが原因で辞めていく若手もいる。厳しい先輩に指導されてもついていけるのか、ストレス耐性があるかどうかはよく見ている。中にはうちではちょっと無理かなと思う学生もいる。書類選考や適性テストを通過しているので地頭は良いが、人柄はわからないのでインターンシップでしっかり見ている。もちろん技術系の学生も、彼は優秀だと現場が認めても、うちに会わない人が間違って入ったりすると、後々働きづらいことになる」と語る。

共通の評価シートで社員にチェックさせる会社は多い。サービス業の人事担当者は「現場の社員の評価だけで合格点を出さないようにしている。社員が個人的にこの学生と組んで仕事をしたいなと思っても、自分の部署に来るとは限らない。インターンシップ終了後に全体の評価会議を行い、総合点の評価が高い学生を囲い込むようにしている」と語る。

採用活動においてインターンシップは欠かせない

すでにインターンシップは終盤にさしかかっている。企業の中には1月下旬からインターンシップで評価された優秀な学生は特別枠として選考を開始し、3月には内定を出す企業もある。

また、一般選考は4月に始まるが、すでにインターンシップ参加者は書類選考を経ているので、面接からスタートさせたり、初期の面接を省いたり、優遇している企業もある。 採用活動においてインターンシップが重要な鍵を握っていることは間違いない。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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