2024年問題で人手不足倒産増加? ゆるブラック企業化で人材流出も

2024年4月1日から時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務となっていた建設事業、自動車運転業務、医師に適用される「2024年問題」が間近に迫っている。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

人手不足倒産の発声も懸念

2024年問題は物流業においては、労働時間の制約で荷物の遅延などユーザーのデメリットなどが強調されがちであるが、深刻な人手不足による人手不足倒産の発生も懸念されている。

中小企業基盤整備機構の「中小企業・小規模企業者の人手不足への取組状況に関する調査(2023年)」によると、人手不足の状況について、「大変深刻、経営に支障が出ている状況」と回答した企業は7.8%、「深刻、このままでは経営に支障が出る」が23.8%となり、計31.6%が深刻な経営状態にある。

また、「深刻な状態ではないが、重要な問題になっている」企業が37.6%もあり、大半の企業が人手不足に苦しんでいる。

業種別で深刻度が高いのは、上限規制が適用される建設業が43%(大変深刻と深刻の合計)と最も高く、運輸業も32%となっている。

一方、帝国データバンクの2023年10月時点の「人手不足に対する企業の動向調査」によると、全業種の正社員の過不足状況は、「不足」と感じている企業の割合は52.1%。2018年10月(52.5%)に次ぐ高水準となった。業種別のトップ3は「旅館・ホテル」の75.6%、「情報サービス」の72.9%、「建設」の69.5%だった。また、時間外労働の上限規制が適用される物流業(道路貨物運送業)では68.4%の企業が人手不足を感じている。

人手不足倒産の過半数が建設・物流(2023年1月‐10月)

建設業、物流業の両業種の人手不足と感じる割合は、2020年5~6月以降、右肩上がりに上昇している。また、人手不足感を持つ企業の中で、前年同月と比較して正社員が「増加した」と回答した割合は、建設業で21.0%、物流業で20.9%にとどまる。

一方、正社員数が「減少した」企業は建設業で22.9%、物流業で30.8%。「変わらない・減少」企業は建設業が79.1%、物流業が79.0%で、両業種とも慢性的な人手不足が続いている。

このまま4月1日を迎え、従業員の稼働時間が制約されることになると、経営を圧迫しかねない状況に陥るかもしれない。

実際に人手不足倒産も増加傾向にある。帝国データバンクの「人手不足倒産の動向調査(2023年1-10月)」によると、年間の累計は206件に達した。10月時点で年間ベースの過去最多を更新しており、2014年以降で初めて200件を上回る高水準になった。業種別の内訳は建設業が77件、物流業が32件。両業種が全体の52.9%を占める。「2024年問題」に伴う人手不足倒産が現実味を帯びている。

人手不足の背景には労働環境の問題も

人手不足を解消するには省力化など業務効率の改善も必要であるが、採用力強化のための職場環境の改善も不可欠だ。

人手不足の背景には労働環境の問題もある。

厚生労働省の「自動車運転者を使用する事業場に対する監督指導、送検等の状況(令和4年)」によると、トラック業界の監督実施事業場数3079件のうち、労働基準関係法令違反事業場数は2549件で、82.8%を占めている。

主な違反事項で多いのは「労働時間」の49.8%、次いで「割増賃金」の20.5%となっている。改善基準告示違反の監督実施事業場数3079件のうち違反事業場数は1790件で58.1%を占めている。主な違反事項は「最大拘束時間」(1日当たりの拘束時間)が42.8%、「総拘束時間」(1カ月又は1週当たりの拘束時間)が32.9%となっている。

賃金等の労働条件もさることながら長時間労働等の職場環境の悪化が求人難や離職を招いていると推測できる。

入社前後でのギャップによる退職も多い

特に求人情報や面接などの入社前後でギャップを感じ、退職する人も少なくない。

エン・ジャパンの「就業前後のギャップ調査」(2023年8月30日)によると、就業前後にギャップを感じた経験のある人は79%。そのうちギャップが原因で仕事を辞めたことがある人は55%もいる。

退職の原因となったギャップで多かったのは「職場の雰囲気」(29%)と「仕事の内容」(24%)だった。「時給・給与」は9%とそれほど多くはない。

「職場の雰囲気」と回答した人の中には「みんな仲が良いと聞いて安心して入社したが、新しい人を受け入れる雰囲気ではなく、仲が良い人たちだけでいれば良いというような排他的な雰囲気であった」(20代/女性)という声も上がっている。仕事内容についても「軽作業と説明があったが、実際は力作業がメインだった」(30代/男性)という声もある。

また、ギャップが原因で仕事を辞めたことがあると回答した人に入社から退職までの期間を聞くと、最も多かったのは「1カ月以内」が26%、「2~3カ月以内」が25%で、半数が3カ月以内に退職している。職場の雰囲気や仕事内容に違和感を持つ人ほど比較的短期間で離職していることがわかる。

人材の確保と定着に向け、労働環境の整備が喫緊の課題

さらにエン・ジャパンの「ブラック企業・ゆるブラック企業調査」(2023年12月20日)によると、転職活動の企業選びの際、気にする条件で多かったのは「労働時間・休日数が適切か」の80%、続いて「会社の雰囲気がいいか・社員の同士の仲が良いか」の61%だった。長時間労働やプライベートの時間を持つことが少ない企業、職場の人間関係が希薄な企業ほど嫌われる傾向が高い。

2024年問題は企業が存続していくには、働く人にとって快適な職場環境を醸成していくことが何より重要になる。

また、近年では「仕事は楽だが、成長できず収入も上がらない企業」を指す「ゆるブラック企業」を敬遠する人も増えている。「ゆるブラック企業だから」という理由での転職をどう思うかの質問では、「同意できる」が39%、「どちらかといえば同意できる」が37%。計76%がゆるブラック企業からの転職に肯定的だ。20代は81%を占めるなど若年層ほど肯定する人が多い。

建設・物流業界は中小企業も多い。2024年問題を克服するには、人材の確保と定着に向けた労働環境の整備が喫緊の課題だ。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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