NTT東日本は、データと対話を軸とした人的資本経営の高度化を開始した。同社CHROの井原智直氏に、近年進めてきたグループ全体の働き方・人事改革による従業員エンゲージメントの変化や、上司と部下の1on1やマネジメント支援の取り組みなどを聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部)

井原 智直氏
NTT東日本
総務人事部長
CHRO(Chief Human Resource Officer)
事業概要を教えてください
私たちは2023年に「地域循環型社会の共創」というパーパスをつくりました。もともとは通信会社ですから、東日本地域における情報通信ネットワーク事業が基盤にあります。その通信というインフラをベースに、地域課題の解決や地域活性化といったソーシャル・イノベーション事業にも注力しています。
具体的には、次世代教育やアグリ(一次産業)、スマート・インフラ、eスポーツ、防災、サステナビリティなどに取り組んでおり、私たちが日本の各地域を支えていくという気概を込めて、事業を展開しています。
組織変革に取り組むこととなった背景と取り組み内容を教えてください
ここ5年ほどかけて、NTTグループ全体で働き方ならびに人事改革に取り組んできました。働き方については、出社が必須だったのを出社とリモート勤務を組み合わせたハイブリッドワークに変えました。
居住地も出社可能な地域に限定していたのですが、その制限を取り払い、国内ならどこに住むのも可、としました。基本的には家がオフィスなので、会社に来ると出張扱いになり、旅費が支給されます。私が所属する総務人事部でも、北海道や宮城県に住んでいるメンバーもいます。
人事改革でいえば、いままで職能型だった人事制度を、管理職の場合、ジョブ(職務)型に変えました。年功序列による昇給や昇格が一般的だったのを改め、専門性の獲得や発揮度に応じた昇給や昇格に変えました。配置や異動に関しても、人事主導の面が強かったのを改め、社員自らの手挙げによる異動を主流としています。支店長職はその半分くらいが手挙げによる異動になっています。
こうした変革を進める一方、近年のNTT東日本の収益の要だった光通信サービスがコロナ需要の反動等の影響での鈍化の影響から、一時的に営業利益が下がりました。
それと同時期に、「良好」と答えた従業員エンゲージメントのスコアが、2022年には53%だったところ、2023年はNTTグループ内でも最低の数値である49%まで下がってしまったのです。これを何とかしないといけないと考えました。
そのような課題を解決するために実行したことを教えてください
まずは社員が共感できるメッセージを経営層が動画で社内に発信する「幹部車座対話会(ラウンドテーブル)」の放映を開始しました。自分の仕事と事業戦略の関係をわかりやすく説明するなど、「こういうことだったのか」と社員に仕事の意味を納得してもらったうえで、モチベーションの向上を図ろうとしました。
一方で、光関連ビジネス、法人ビジネスといったテーマを設け、「稼ぐ力の復活プロジェクト(通称:K―Pro)」を始めました。30代のミドルマネジャークラスがリーダーとなり、主には副社長と毎週対話を重ね、「この施策はここまでいった」「次はこれをやる」「利益はこれくらいだ」と、PDCAを高速に回しながら、結果が出るまでやり切る組織横断プロジェクトです。
経営に直結したK―Proとは異なり、もう少し柔らかい形で職場が盛り上がることや、ちょっとした改善をテーマに仲間をつくり、チームで実行する「ええやん祭り」も挙行しました。ビジネスの効率化にAI(人工知能)を活用するといったことから、若手社員と中堅社員のコミュニケーション活性化など、テーマは千差万別です。
「ええやん」というのは社長の澁谷直樹の口ぐせから取りました。活動チームは3340に上りました。2024年は一度きりでしたが、2025年は四半期ごとに代表チームが選ばれ、社長、副社長、役員たちが法被を着用して彼らを称賛し、その模様を全社に配信しました。
そのほか、社員の成長やキャリア形成を支援する取り組みを拡充しました。たとえば、国家資格を持つキャリアコンサルタント保有資格者が各自のキャリアの悩みを聞く面談を設け、約2000人がこれまでに活用しています。
当社の事業領域を俯瞰する「お仕事MAP」という図解も作成し、多様なキャリア機会が当社に揃っていることを理解してもらいました。2023年からは社内大学であるNTT EAST Collegeも開校し、2026年までに次世代リーダーコース(課長・係長対象)で96人、基礎コース(若手層)で400人が受講しています。
また、2026年4月から、各自のキャリアにふさわしい資格や研修、異動先などを生成AIがアドバイスするキャリア自律支援サービス「Boost Park」の運用が始まり、既に約6000人が使用しています。
こうした、職場を活性化し、社員のキャリアを充実させる施策を軒並み実施した結果、2024年に58%だったエンゲージメントスコアが65%までアップしました。NTTグループ内で2023年度の最下位から、いきなりトップクラスに返り咲いたのです。

次の課題はエンゲージメントスコアを恒常的に伸ばしていくことですか
その通りです。というのも、エンゲージメントスコアが高い企業は低い企業と比較し、業績に20%以上の差が生じることが米ギャラップ社の調査で判明しているからです。しかも、そのスコアの約70%が上司と部下との関係性に深く依存していることもわかっています。
その関係性を象徴しているのが上司と部下の1on1です。当社の調査で、1on1を月1回以上、実施している社員は実施していない社員と比較し、エンゲージメントスコアに関する肯定的回答率が高いという結果が出ています。具体的には、月1回未満が39%であるのに対し、月1回以上が68%と大きな差が生じています。
1on1の頻度が重要ということですが、一方で質も大切です。いくら頻度が高くても、質が悪ければエンゲージメントスコアが低下してしまいますから。
その質の悪さは「上司部下のすれ違い」という形で現れます。たとえば、上司が社交的であるのに対して、部下は一人で仕事をするのが好きな場合、上司が部下に対し、頻繁に話しかけると、部下の集中力を奪い、ルーティンを崩してしまいます。また、挑戦が大好きな上司が安定志向の部下を相手にする場合、チャレンジをしきりに促すことになり、部下は余計なプレッシャーや不安を感じ、仕事の意欲をなくしてしまいます。
目標志向が強い上司の下についた人間関係重視の部下も不幸で、「結果で語れ」と言われがちですから、承認欲求が満たされず、離職を考えてしまうかもしれません。
こういったすれ違いをなくす目的で、2026年7月から上司と部下の対話支援ツールを導入しました。初回利用時にまず自分と相手(上司や部下)の性格特性を把握してもらいます。このツールを最初に使った時、私の性格特性を寸分違わず言い当てたのです。正直、怖いくらいに正確であると思いました。
そのうえで、仕事への活力、会社への愛着といった心身の状態と業務負荷の度合いを、月1回入力してもらうウェルビーイングサーベイがあります。この2つを通し、上司に部下の性格や現在の状態をしっかり理解してもらったうえで、実際の1on1が実施されます。
性格情報や対話内容から、次の1on1で何を話題にしたらいいかのアドバイスも行います。また、1on1の終了後も、対話内容からその振り返りと次に取るべきアクションをアドバイスしてくれます。
このように、このツールは1on1の質向上に向け、部下の性格特性や状態把握を容易にするという意味でのマネジメントの負荷軽減、特にメンタルケアへの活用、AIによるアドバイスを受けられることによるプロセスマネジメントの精緻化といったメリットをマネジャーにもたらしてくれています。

今後拡充したい内容や展望などを教えてください
フィードバック文化の醸成を進めていきたいですね。会社はもちろん、働き方や仕事のやり方が変貌していく中、人や組織が学び、成長し続けるには、社員全員が役職にかかわらず、長所も短所も、相互にフィードバックし合うことが大切です。
上司から部下はもちろん、部下から上司、部下から上司の上司へ、そして同僚同士と、誰にフィードバックしてもいい。その内容は相手のよい点を伝えるポジティブフィードバックだけではなく、現状と期待のずれを指摘するギャップフィードバックも含みます。
フィードバックは相手に対する“ギフト”ですから、ギフトがたくさん行き交う会社になってほしい。具体的には、専用アプリを開発し、活用することを考えています。
フィードバック文化の醸成により2つの効果を狙っています。1つは自分が「良かれ」と思ってやったことに対し、新たな気づきや改善ポイントを指摘する効果です。それには耳に痛い話でも前向きに受け止めるコーチャビリティという力が不可欠です。
もう1つは、自分が無意識でやっている良いことにきちんと気づいてもらうこと。それによって、自分の強みや長所を認識でき、それが次の良い行動に繋がっていくはずです。フィードバック文化を根付かせることで、社員の能力がさらに開花し、組織が強くなっていくはずです。
(2026年9月1日インタビュー)
NTT東日本株式会社
代表者/代表取締役社長 澁谷直樹
設立/1999年7月1日
資本金/3350億円
従業員数/4950人(NTT東日本グループ会社 3万2850人、2025年3月31日現在)
本社/東京都新宿区西新宿3-19-2
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