2016年度の中途採用がスタートした。中途採用に最も影響を与えそうなのが一層の景気拡大による人材需要の増加だ。中国経済の減速による不安定化を指摘する声もあるが、産業全体が好調なことに加え、東京オリンピック開催までのインバウンド需要などで国内外の人材需要はさらにひっ迫しそうだ。
- 専門性の高い人材の中途採用意欲が高まる
- 2016年度の採用を成功に導くための6つのポイント
- 女性活躍推進法で次世代の女性リーダーの採用始まる
- 専門家に聞く「中途採用成功のポイントと人材の定着・活躍への取り組み」
- インテリジェンス(現パーソルキャリア) 福本 貴司 キャリアディビジョン 採用企画事業部 事業部長
- ネクストエデュケーションシンク 斉藤 実 代表取締役
- エム・アイ・アソシエイツ(現アジャイルHR) 松丘 啓司 代表取締役
- 兆 近藤 保 代表取締役
- マイケル・ペイジ・ジャパン バジル・ルルー マネージング・ディレクター
- SThree ヴィジェイ・ディオール 代表取締役
- Waris 河 京子 代表取締役
- HRソリューションズ 武井 繁 代表取締役
- レジェンダ・コーポレーション 高橋 良郎 採用支援事業部 マネージャー
- リブ・コンサルティング 髙瀬 毅 人事部 チーフコンサルタント
- イー・ファルコン 立部 恩香 採用選考支援ユニット リーダー
- カナエル 真壁 由光 代表取締役
- アルー 落合 文四郎 代表取締役社長
- 理系の転職 葛原 武典 代表取締役社長
- リサーチ&サーチ・コンサルティング 樋口 拓摩 コンサルティング・ディレクター
- Indeed 竹嶋 正洋 ディレクター/セールス
専門性の高い人材の中途採用意欲が高まる
TPPや政府のインバウンド施策など経済のグローバル化の影響もあり、引き続き日系企業ではグローバル事業で必要な経営幹部や管理系の人材、国内では外国人の観光や消費需要にともなうバイリンガル人材のニーズが高まっている。
厚生労働省が3月発表した「労働経済動向調査(平成28年2月)の概況」によれば、正社員の不足を感じている事業所は今年2月の調査時点で37%に上り、これに対し過剰とした企業はわずか3%で過不足判断D.I.は34ポイントとなった。D.I.の不足超過は、調査産業計で19期連続となる。
すべての産業で不足超過だが、特に「運輸業、郵便業」(D.I.49)、「医療、福祉」(D.I.48)、「建設業」(D.I.40)、で人手不足を感じている割合が高い。実際に未充足の求人がある事業所割合も「医療、福祉」(70%)、「宿泊、飲食サービス業」(62%)、「サービス業(他に分類されないもの)」(58%)、「運輸業、郵便業」(55%)、「卸売業、小売業」(52%)などで高く、必要な人材が採用できていない状態だ。
リクルートキャリアによれば、特に採用が難しい職種はIT系エンジニアの「インターネット専門職(Webエンジニア含む)」「SE」、機電エンジニアの「組み込み・制御ソフトウェア開発エンジニア」「機械エンジニア」「電気エンジニア」、「建設エンジニア」、「不動産専門職」などで、同社が運営する転職支援サービス「リクルートエージェント」における3月末時点の転職求人倍率は、いずれも2倍を超えている。
●転職求人倍率の推移
●職種別の転職求人倍率(求人倍率が特に高いもの)
また、企業の事業拡大と新規事業開発で資金調達やM&Aを担う経営企画、財務などの職種、大量採用のための採用担当者などの管理系職種の採用も活発だ。
2016年新卒採用の動向も中途採用に影響を与えそうだ。前出の厚生労働省調査では、新規学卒者の採用内定が計画数に達していない事業所は大卒文系で29%、大卒理系で41%にも上り、企業が採用に苦戦している姿が浮かび上がる。その不足分を埋めるため、企業規模を問わず第二新卒や既卒者で充足しようとする傾向がでてきている。
今後、少子高齢化で若年人材の確保は難しくなっていく。組織の高齢化を防ぐために、どうしても若手人材を確保しなければならないという企業では、労働力人口の減少も見据えていかなければならない。
生産年齢人口(15~64歳)は2013年に7901万人と32年ぶりに8000万人を下回り、2015年7月時点では7715万9000人とさらに減少を続けている。
特に若年労働力の不足は深刻で、大学などへの進学や就職の年齢でもある18歳人口はこれまで約120万人を維持してきたが、5年後の2021年から減少傾向に転じ、2030年には約20万人減少して100万人にまで低下すると推計されている。
2016年度の採用を成功に導くための6つのポイント
売り手市場化で、どの企業も求めるようなスキルや経験を持った人物には複数のオファーが集中する。必然的に従来の採用手法では人材を確保できない場合が多くなる。事業戦略の達成に必要な中途採用を実現するためには、昨年度までの採用活動全体を見直す必要がでてきている。
そこで、売り手市場でも採用数を確保して2016年度の採用を成功に導くために、「採用ブランディング」「採用要件の見直し」「採用ルートの多重化」「採用プロセスの見直し」「面接力の強化」「採用カルチャーの醸成」の6つのポイントから採用活動を見直してみたい。
採用ブランディング
これまで以上に自社の魅力や自社で働くメリットをより積極的にアピールしていく必要がある。経営理念や価値観を整理して社内で共有し、候補者に自社の魅力を強く訴求する。
採用担当者だけが活動するのではなく、社長、役員から社員一人一人が自社の魅力を広く伝えていかなければ候補者は集まらない。採用ホームページの充実はもちろんのこと、Facebook、Twitter、ブログなどSNSの活用や、広報を巻き込んだメディアへの露出など、全社で魅力を伝えるようにする。
採用要件の見直し
競合を含めて外部労働市場と同等以上のキャリアアップの機会や賃金・処遇の見直しで、働きやすい環境づくりなどの対策が講じられているかどうか考慮したい。また、採用後には人材育成という観点からも、より早いキャリアアップの機会を与えて役職に就けることが候補者には魅力的な条件となる。
採用ルートの多重化
これまでの求人サイトや人材紹介会社のルートだけではなく、求める人材に応じたターゲットが明確な求人サイトや人材紹介会社、ダイレクト・リクルーティング、社員紹介など様々な採用手法を活用する。同時に人材紹介会社との関係の見直しにも着手したい。自社を優先してくれるように求人情報だけでなく事業内容や組織風土まで理解を深めてもらい、担当コンサルタントと密接な関係を築く。さらに選考結果などを詳細にフィードバックして、コンサルタントが推薦してくる候補者の面接通過率や採用決定率を高めていかなければならない。
採用プロセスの見直し
優秀な人材には複数の内定が出るため、他社より早く内定を出すために一次面接から内定を出すまでのリードの短縮を目指す。そのためには最終面接に至るまでのプロセスをより柔軟にする。例えば採用担当者がこの人材はかなり優秀だと判断した場合は、次の面接で社長や最終面接者が同席するなど候補者のポジションによって柔軟にスケジュールを変える。
面接力の強化
採用担当者にとってはチャレンジとなるが、人材紹介会社のコンサルタントとほぼ同じ働きができるように面接やスカウトのスキルを身につける。求人サイトや人材紹介会社経由の面接も同様で、売り手市場の今は候補者に自社の魅力を伝えなければ入社に導くことはできない。特にダイレクト・リクルーティングの本格導入のためには、採用担当者のスキル向上は必須だ。
面接担当者のスキル向上は必須
●面接において最も改めて欲しいこと
採用カルチャーの醸成
これらすべての条件を上手く機能させるためには、採用担当者だけの頑張りでは限界がある。魅力的な組織を作るためには、採用だけでなく社内制度を変える必要もでてくるだろう。社長、経営幹部、人事部、全社員で採用に取り組むような社内の「採用カルチャーの醸成」を図らなければ採用は成功しない。
企業の魅力の伝え方について、人材紹介会社のディスコグローバルサーチ久永祐喜社長は次のように指摘する。
「求人が多い中で確実に候補者を獲りにいくためには、経営者層が自ら会社の魅力を伝えていく必要があります。経営トップとの距離感が近いということは候補者には大きな魅力の一つだからです。また、面接では複数内定が出ている候補者に面談者が『志望動機は?』というような質問はNGです。相手に自社の魅力を伝えるためには、対等な目線に立って語らなければ伝わりません。面接をしながら相手の適性を見極め、同時に会社の魅力を伝えていくことが採用の成功につながるのです」
インテリジェンスの採用支援サービス「DODA Recruiters」(デューダ リクルーターズ)を企画運営する同社福本貴司キャリアディビジョン採用企画事業部事業部長は採用ルートの多重化について、「知名度や規模に関係なく採用に成功している企業は、採用担当者が積極的に動いているという点で共通しています。専任の中途採用担当者を配置して、ターゲットとなる候補者に合わせて求人サイト、人材紹介、SNSなどを効果的に活用することで採用ルートの多重化に成功しているのです。そのような企業では採用担当者のスキルが専門化しており、ダイレクト・ソーシング(リクルーティング)の導入もうまくいっています」と強調する。
女性活躍推進法で次世代の女性リーダーの採用始まる
少子化による慢性的な人材不足によって、女性やシニアの労働力活用も一層進みそうだ。2016年4月からは女性活躍推進法が施行され、行動計画で301人以上の企業では女性管理職の数値目標を掲げなければならなくなった。
この数値目標達成のために女性社員数が少ない企業では、社内人材の育成だけでは間に合わないため、外部人材の採用に積極的に動き始めている。
しかし、次世代リーダーの30代はライフイベントで離職が多い年代でもある。外部からの採用は、そうした離職者が多く、現役が少ない労働市場から人材を調達しなければならないわけだから採用は難しい。
女性の活用では能力の高い人材をどう処遇するのかが喫緊の課題だ。柔軟な働き方を考慮した制度の導入と制度を利用しやすくするため職場風土を変えていく必要も出てきている。短時間労働、在宅ワーク、モバイルワークなどの導入を検討する企業も多く、生産性の高い優秀な人材の採用と定着施策ともなっている。
人材不足に陥っている流通・サービス業や製造業では、一足早くパート・アルバイトを契約社員や地域限定社員として社員化をはじめている。シニアの活用では、ホンダが昨年12月、社員の定年を現状の60歳から65歳に引き上げる方針を発表した。
このような多様な雇用形態の労働力を活用するためには、適切な評価システムと明確なフィードバックが不可欠だ。これまでの労働時間を重視した能力主義から、成果を基準にした評価システムへと組織全体の変革が求められている。
企業競争力を高めるためには人材の強化が急務
●現在の企業競争力と今後強化すべきもの
専門家に聞く「中途採用成功のポイントと人材の定着・活躍への取り組み」
知名度や規模に関係なく、採用専任者を配置している企業が成功
インテリジェンス(現パーソルキャリア)
福本 貴司 キャリアディビジョン 採用企画事業部 事業部長
人材採用がますます難しくなる一方で、採用担当者は採用経費の削減という課題にも迫られている。このような環境で採用を成功させるためには、求人サイトによる募集、人材紹介会社の活用、セミナー参加といったこれまでの採用チャネル以外に、本格的にダイレクトソーシングに取り組む必要がでてきている。
最近の求人企業の傾向は、採用に成功している企業とうまくいかない企業が二極化してきている。要因は知名度や規模に関係なく、採用体制と採用担当者の取り組みの違いが大きい。
採用に成功している企業では、中途採用専任者を配置して体制を強化している。採用担当者は、これまでのチャネル以外にスカウトメールや面談方法などアプローチを変え、社内にタレントプールをつくり効率的に採用を行っているのが特徴だ。
適材適所の配置ができているかを定期的に確認して離職を防止
ネクストエデュケーションシンク
斉藤 実 代表取締役
これまでは社員の定着率が高かった企業からも新卒・中途を問わず入社後の早期離職に関する相談が増えてきている。採用選考の際に適性診断で自社に合わない人材を見極めることは欠かせないが、今後伸ばしたい事業のために必要な人材の条件を明確にしないまま、どの能力も平均的に優れている人材を採用している企業が多いように感じる。
特に最近の若年層は仕事に対するやりがいを重視しており、「この会社で自分は何ができるのか、早く成長できる機会があるか」という見極めを以前に比べ短期間で判断する傾向が強く、早期離職の一因となっているようだ。
また、入社後の定着と活躍を促すためには、一人一人がどのような価値観を持って入社してきたのかを十分に理解して、個別に対応していくことがより重要になっている。
意欲を高めて強みを引き出す「ピープルマネジメント」が必要
エム・アイ・アソシエイツ(現アジャイルHR)
松丘 啓司 代表取締役
先行事例がない中で試行錯誤しながら進めていく仕事が増えているため、結果やプロセスだけを見るような従来型の評価の仕組みが合わなくなっている。
中途採用でも「わが社にふさわしい振る舞いができるか」という基準で判断していては、自社にはない知見や経験を持つ人材を獲得することは難しい。画一的な基準で人材を評価しない「No Rating」という考え方が海外では出てきており、日本でも今後取り入れられていくのではないだろうか。
企業がこれまで以上に多様な人材を生かしていくためには、一人一人の意欲を高めて強みを引き出す「ピープルマネジメント」が必要。「ピープルマネジメント」ができるマネジャーを増やすために、「気づきの場」と「職場での実践」を繰り返す機会を与えて意識改革を進めている企業もある。
幹部採用の成功企業は、経営トップや担当役員が採用にコミット
兆
近藤 保 代表取締役
社外取締役や女性の経営幹部をはじめ、人材サーチの依頼は増加している。業績堅調な企業が多いこともあり、採用の目的は抜本的な経営改革よりも既存事業または新規事業の強化が中心となっている。
採用に成功している企業は経営トップや担当役員が採用にしっかりコミットしている。候補者と面談を重ねても入社後に少なからず認識のズレは生じるものだが、経営トップや担当役員が採用にコミットしていれば互いにアジャストしながら成果を上げられる。
リテインド・サーチの価値は、真に必要となる人材像を見出すコンサルティング力、一般転職市場では得られない人材や特別な技能者を説得して入社に導く力、クライアントのリクルーティング機能を担う点にある。サーチ会社の特徴を理解して上手に活用いただきたい。
転職潜在層にも自社の魅力や採用のビジョンの発信が重要
マイケル・ペイジ・ジャパン
バジル・ルルー マネージング・ディレクター
人材紹介の求人数は前年度から変わらず堅調に推移し、医薬、消費財、ビジネスサービス、小売など幅広い業種の企業からバイリンガルの求人が寄せられている。
外資系企業からはマネジメント人材、日系企業からはテクニカルスキルが優れた人材のニーズが多いが、日系企業では転職回数が多い候補者は好まれない。一方、候補者の最近の傾向で強まっているのは、企業の評判や業績の安定性を重視する点だ。求人に比べて候補者が不足しているので、求人企業は転職顕在層だけでなく、チャンスがあれば転職したいと考えているような潜在層にも広告などで自社の魅力や採用のビジョンを発信していくことが重要になっている。
また、優秀な人材には複数のオファーが出るので、選考期間を短くして他社に先んじることが大切だ。
人物像の明確化、情報公開、選考のスピードアップが欠かせない
SThree
ヴィジェイ・ディオール 代表取締役
外資系企業を中心にITとライフサイエンスの分野でプロフェッショナルを紹介しているが、いずれの分野も求人に比べて求職者が大幅に不足している。
IT分野ではデジタルを活用したビジネスを考えられる人材やオンラインマーケティングの専門家などの新しい領域で候補者を探すのが非常に難しい。ライフサイエンス分野ではクリニカルリサーチとメディカルドクターの求人が多く、ビジネスに長けて英語もできることが条件となっている。
日本はスキルを持つ人材の高齢化が進んでいるにも関わらず、年齢を問わずに採用しようという動きがあまり進んでいないように感じる。採用を成功させるためには、求める人物像を明確にすること、候補者が求める情報をできるだけ公開すること、選考スピードを上げることが欠かせない。
女性管理職の採用は転勤や長い勤務時間が障害になっている
Waris
河 京子 代表取締役
女性管理職の数値目標が義務付けられたことで、女性の中途採用に取り組む企業が増えている。企業の人材ニーズが高いのは営業、研究開発、エンジニアなど現場の人材だが、次世代リーダーとなる30代はライフイベントで女性の退職が多い年齢でもあるため人材は少ない。
管理職候補の採用が難しい理由は、昇進の要件としての転勤や長い勤務時間などで、採用や定着の障害となっている。採用を成功させるためにはこのような制度を変更する必要もある。
また、採用が成功しても女性が少ない職場では配属先で孤立してしまうこともあるため、メンター・メンティ制度などのカウンセリング体制を整えることも大事だ。経営トップ、人事、ダイバーシティの3者が課題を認識し、一体となって取り組まなければ女性の採用はうまくいかない。
「人材採用のオムニチャネル戦略」で採用決定力を強める
HRソリューションズ
武井 繁 代表取締役
求職者の行動様式はこれまでになく多様化が進み、一辺倒な採用手法だけで人材を充足させることは不可能となった。本来の目的=事業成果を得るために本当に相応しい手法は何か。今、再考に迫られている。今後の求人企業は、オン/オフラインのあらゆるチャネルの併活用と、求める人材の行動特性に添った情報発信と対応を行うこと、その反応データを定量可視化しそれに基づいて更なる戦略的具体施策を行うことが肝要だ。
求職者(応募者)との接点を複数かつ包囲的そして適切にもつことが、採用決定力を強め、採用効率向上も期待できる。言わば「人材採用のオムニチャネル戦略」だ。
加えて、ダイバーシティ推進(多様人材の活用)で生産性を高める組織こそが“真の採用力”の持ち主であり、人材獲得競争の勝ち組となるだろう。
採用面接は、応募者の「見極め」よりも「動機形成」を重視
レジェンダ・コーポレーション
高橋 良郎 採用支援事業部 マネージャー
人材需要の高い状態は続いているが、条件を下げてまで採用する企業の動きはほとんど見られない。正社員採用だけではなく、非正規雇用も適切に活用して人材を確保しようとしている。
企業からは採用面接トレーニングの依頼が増加しており、面接を応募者の「見極め」よりも「入社に向けた動機形成」に上手く使いたいという相談が多くなっている。
応募者はWeb等で様々な情報を入手しており、面接で自社の良い面だけを話しても響かない。企業と応募者が互いに価値観を共有しあうことがミスマッチを防ぎ、入社後のエンゲージメント(組織へのコミット)向上にもつながる。特に中途採用では、社内だけでなく外部のパートナー(人材紹介コンサルタント等)とも採用の目的を十分に共有しておくことが肝要だ。
選考段階で自社に引き付ける力が弱いと採用効率は上がらない
リブ・コンサルティング
髙瀬 毅 人事部 チーフコンサルタント
事業エリアの拡大を目指している企業の採用意欲は高く、特に専門職や理系人材の確保に苦労している企業が多い。
企業の採用力は、応募者を集める「知名度(ブランド力)」と、採用したい人材を選考段階で自社に引き付ける「営業力」の掛け合わせだが、「営業力」を高めてから応募者を集めないと入社に至らないため、採用効率を上げることができない。
「営業力」を高めるには、まず「競合他社と比較した自社の強み」「選考のどの時点で誰が応募者に会って何を伝えるか」などを明確にして、応募者に対する「価値付けのフロー」を設計することが必要だ。
人材が定着しない原因は、理念・価値観への共感に関する欠如
イー・ファルコン
立部 恩香 採用選考支援ユニット リーダー
「中途採用の人材が定着しない」という相談をよく受けるが、多くの場合、採用候補者の経験や顕在能力といった“スキル・マッチ”の確認にとどまり、その企業組織の理念・価値観への共感である“カルチャー・フィット”に関する観点の欠如が、本質的な原因となっているようだ。
我々は、高いパフォーマンスを発揮していることにとどまらず、求める理念を体現している人材をモデルに、内面のパーソナリティを照射することで、その企業の「らしさ」を明らかにするとともに、採用候補者の「心根」が一致するかどうかを検証するメソッドで、採用活動を支援している。
多くの日本企業が、あるべき姿と理念の再構築に基づいて進み始めようとしている今日、こうしたアプローチがますます重要になりゆくことは、間違いないだろう。入社後も一人一人がやりがいを持って能力を活かせるような適材適所の配置ができているかなどを定期的に確認していくことがより重要になっている。
仕事を切り分けることで、多様な人材を受け入れられる職場は多い
カナエル
真壁 由光 代表取締役
採用の相談内容が、「求人広告を増やしたり時給を上げて求職者を多く集めたい」から、「入社につながる募集・面接の進め方や入社後の定着施策」に変化してきている。
1日8時間・週5日勤務のような条件では採用が難しくなっており、「働き方を変える」という考え方がますます欠かせない。現在の仕事を見直し切り分けることで、今以上に多様な人材を受け入れられる職場は多い。
また、採用に大きなコストを掛ける一方で、現在働いている社員に対する投資が少ない会社が多いように感じる。メンバーのモチベーションを高められるマネジャーを増やすための研修を実施したり、アンケートなどで社員の不安や不満を把握して職場環境の改善に着実に取り組むことが人材の定着や活躍につながっていく。
組織ぐるみで社員の「精神的成長」を育む取り組みが重要
アルー
落合 文四郎 代表取締役社長
企業の競争力を継続的に高めるには、強制型マネジメントではなく社員の内発的動機に基づく創造性を発揮することが必要だ。その鍵は「精神的成長」にある。
精神的成長とは、物事の捉え方の広がりとともに、アイデンティティが形成されていくことだ。社員は自らの強みを認識し、強みに基づく創造的な貢献を自律的に行うようになる。こうした社員が集う企業となるためには、組織ぐるみで精神的成長を育むことが重要だ。具体的には部下の精神的成長を上司が支援する組織である。
当社の取り組みの一つに、目標管理制度に、業績面だけではなく人間としての成長について定期的に話し合う仕組みがある。会社組織は結局人と人で構成される。そこで働く社員が充足し、力を合わせるためには、精神面の成長を育む取り組みが必要である。
候補者のスペックを見直し、スクリーニングを変える必要がある
理系の転職
葛原 武典 代表取締役社長
化学、バイオに関する理系の求人はこれまで医薬・製薬が中心だったが、異なる業界からの参入もあり求人数は伸びている。求職者も増加しているが、双方のニーズが異なることもあってマッチングの難しさは変わっていない。
今年度の採用も引き続き厳しい状況にある。とくに即戦力のピンポイント求人で採用ができないケースが目立っている。難しい求人を成功させるには、採用担当者、現場責任者、人材コンサルタントの三者が十分な打ち合わせをして候補者に求めるスペックをもう一度見直して、スクリーニングのかけ方を変える必要がある。
例えば5年程度の類似経験を求めるならば、絶対に必要なスキルと別の経験でも応用が効くスキルなど、許容範囲を明確にして候補者の人材像を共有しなければならない。
有能な人材を引き付ける企業ブランディングへの投資が鍵
リサーチ&サーチ・コンサルティング
樋口 拓摩 コンサルティング・ディレクター
当社が専門とするマーケティングリサーチやブランドコミュニケーション領域の求人数は増加が続いているが、需要と供給のミスマッチで人材獲得競争はさらに過熱すると予想する。
特に市場のボーダレス化や急速に広がり続けるデジタル空間は様々な業種・業態にも連鎖し、採用活動や求める人材要件に影響を与えるだけでなく、自社の有望な若手社員にも急接近していることを認識する必要がある。
採用を成功させるには、①有能な人材を引き付けるための企業ブランディングへの包括的かつ持続的な投資、②日本の人口構造や変化する労働市場を前提とした人材確保から育成・定着までの人事戦略・体制構築、③高度な専門性と機動力を有する人材紹介会社の選定とコンサルタントとの強固なパートナーシップ開発―が重要な鍵となる。
採用サイトのメッセージや求人情報では検索ワードを意識
Indeed
竹嶋 正洋 ディレクター/セールス
求人の増加により、正社員、パート・アルバイトなどの様々な雇用形態で応募者が集まらず、採用が難しくなってきている。採用に苦戦している企業には、自社サイトを活用したダイレクトリクルーティングの強化を提案したい。
求人サイト・自社の採用サイトを含めたWEBページからキーワード検索で仕事を探している求職者は徐々に増えつつある。自社の採用サイトにも伝えたいメッセージや求人情報をきちんと掲載することや検索ワードを意識することで、求職者に企業の魅力伝えることが可能となり、自社の本質的な採用力強化につながる。
既に外資系やベンチャー系企業ではダイレクトリクルーティングに力を入れ始めており、その波が業界全体に押し寄せている。ぜひ早いうちに取り組んでいただきたい。