2019年 人事動向の振り返り

2019年は平成から令和へ変わる時代の大きな節目に当たり、労働環境にも大きな変化が起こった。残業時間の上限規制や年休取得の義務化、改正出入国管理法による外国人労働者の受け入れ、そしてパワハラに対する法的規制など、今年1年間で起こった人事動向を振り返る。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

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平成から令和へ、労働者を取り巻く環境に大きな変化

2019年は元号が平成から令和に変わる大きな節目の年だったが、人手不足が続く労働市場を含め、働く人を取り巻く環境が大きな転機を迎えた年だった。

4月1日、これまで青天井だった残業時間に罰則付きで上限を設ける改正労働基準法が施行された(大企業)。同時に世界的に取得率が低い有給休暇の年5日の取得義務が課された。

そして改正出入国管理法によって、実質的な移民解禁と言われる新たな在留資格「特定技能」が設けられ、4月から外国人労働者の受け入れがスタートした。

日本は「専門的・技術的分野」の高度人材しか受け入れてこなかったが、深刻な人手不足に対応するために単純労働者にも門戸を開いた。

外国人労働者の受け入れは、人手不足解消の一手となるか

通算5年滞在できる「特定技能1号」と在留資格が更新できる専門技術的な労働者の「特定技能2号」の2つだが、単純労働者に近い1号の対象者は農業、介護、建設など人手不足が深刻な14業種。

政府は2019年度から5年間の累計で最大34万5000人を受け入れる見込みだ。しかし、特定技能2号は高度専門職と同様に家族帯同も可能であるが、1号は家族帯同が許されない。それでも最低賃金以下で働かせる法違反、人権侵害、失踪などのトラブルが後を絶たない技能実習制度よりもましだとされていた。

ところが、政府は初年度に最大約4万7000人の特定技能の入国者を見込んでいたが、12月13日時点でわずか1732人にすぎない。その背景には送り出し国のルールが整備されていないことに加えて手続きが煩雑という事情もある。

逆に技能実習生は増加している。19年6月末時点で36万7000人。半年で約3万9000人増加し、12月末までに40万人を超えると見られている。

技能実習制度の問題点を改善する目的で登場した特定技能資格が機能しなければ、外国人労働者をめぐるトラブルが一層増えることになりかねない。

相談件数は7年連続トップ。放置されていたパワハラに法的規制

職場環境に関しては、これまで放置されていたパワーハラスメント(パワハラ)にようやく法的規制がかかることになった。

5月末に改正労働施策総合推進法が成立し、20年4月から施行される。すでにセクシュアルハラスメント(セクハラ)やマタニティハラスメント(マタハラ)は事業主に雇用管理上必要な防止措置を義務づけている。

2018年度のパワハラなどの「職場のいじめ・嫌がらせ」の相談件数は8万2797件。厚労省がまとめた「民事上の個別労働紛争の相談」の中で最も多く、しかも前年度比14.9%増で7年連続トップとなっている。今回のパワハラ規制はセクハラ、マタハラ同様に事業主に雇用管理上の措置を講じることを義務づけるものだ。

パワハラとは、法律では①優越的な関係を背景とした、②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、③就業環境を害すること(身体的もしくは精神的な苦痛を与えること)と定義し、この3つの要素をすべて満たせばパワハラとなる。

今回の改正によってパワハラを禁止するとともに、事業主に防止義務を課すだけではなく「他の労働者に対する言動に注意を払うことなどを関係者の責務」とした。関係者とは上司、部下、同僚や取引先の社員も含み、社外の関係者もハラスメントをしないことを規定を盛り込んだ。さらに「事業主に相談した労働者への不利益取り扱いの禁止」を明記した。

社員の中には会社の窓口に相談すると、上司の評価や昇進に影響するなど不当な扱いを受けることを恐れて泣き寝入りする人も少なくない。そのため労働者が躊躇することなく相談できるように「解雇その他の不利益な取り扱いをしてはならない」と法律に明記した(セクハラ、マタハラも同様)。

したがってハラスメントについて「相談したことを理由に解雇その他の不利益な取り扱いをしない」ことを就業規則に明記するだけではなく、経営トップ自らパワハラ防止に向けたメッセージの発信が求められる。被害を受けた労働者のケアや再発防止の対策として加害者に対する懲戒規定を就業規則に明記し、パワハラが発生したら、すぐに調査し、被害者を保護することが必要になる。

人手不足が突き付けるコンビニ経営の課題

また2019年は、数多くのパート・アルバイトの労働に支えられてきたコンビニ経営を揺るがす事態も明るみになった。

全国のコンビニでは60万人超の従業員が働いている。しかし人手不足による人件費の高騰がコンビニ経営を圧迫し、24時間営業を巡る本部とFC(フランチャイズチェーン)の対立が表面化した。

発端は「24時間営業」を原則とする大阪府東大阪市のセブンイレブンの店主が人手不足を理由に営業時間を短縮したところ、セブン本部に契約解除と違約金1700万円を要求されたことに始まる。

セブンの店舗の98%を占めるFC(フランチャイズチェーン)店との契約では「年中無休、連日24時間開店」が定められ、加盟店主に営業時間の裁量がない。セブンなどコンビニ加盟店の経営は、店舗の売上高から商品原価を差し引いた粗利益を本部と分け合い、その中からアルバイトの人件費や水道光熱代、食品廃棄ロスを引いた残りが儲けになる(営業利益)。本部が受け取る粗利益の割合は4~6割であり、セブンの場合は平均約5割と言われている。

その結果、24時間営業すればどんなに客が少なくても本部の利益は毀損しないが、加盟店は深夜にお客が少ないとアルバイトの人件費などに持っていかれる。24時間営業の見直しを求める加盟店主の苦境がメデイアでも報道されるなど社会的にも大きな問題となった。それに伴いコンビニ各社も24時間営業を見直す動きも起こった。

加えてセブンは加盟店従業員の残業手当の一部未払いも発覚した。セブンは店舗によって無欠勤の場合の「精勤手当」とリーダーなどの「職責手当」を月額で払っている。本来であれば残業すれば、その手当も残業時間に応じた手当を払う必要があったが、代行していた本部の計算式に誤りがあり、一部が支払われていなかったのだ。しかもかなり前から続いていたとされる。ミスとはいえ、コンビニで働く人たちをないがしろにしていたことには間違いない。

人手不足が深刻化する中で、主婦パートや学生の採用も難しくなっている。加盟店との利益配分のあり方を含めてコンビニのビジネスモデルも大きな転機を迎えているといえるかもしれない。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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