採用の根幹はクレドへの共感とリーダーシップ【ジョンソン・エンド・ジョンソン】

ジョンソン・エンド・ジョンソン(以下、J&J)は、74期連続で成長を続ける世界最大の「トータルヘルスケアカンパニー」だ。「分社分権化経営」という特徴的な経営スタイルと、J&Jの経営の根幹となる「クレド」(理念)に基づく採用や手厚い人材育成制度などが注目される。J&Jの採用戦略を、メディカルカンパニー人事総務本部人事部採用グループマネジャーの加藤豊氏に聞いた。

ジョンソン・エンド・ジョンソン

ジョンソン・エンド・ジョンソン
加藤 豊 メディカルカンパニー 人事総務本部 人事部 採用グループマネジャー

ビジネスを成功に導くための特徴的な「分社分権化経営」

1886年、米国で創業されたJ&J は、消費者向け製品、医療機器・診断薬、医薬品の3つの事業分野を通じて、人々のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上に貢献することをめざしている企業である。

J&Jと言えば、救急絆創膏「バンドエイド」など、消費者向け製品の会社というイメージが強いが、実際は医家向けの医療機器・診断薬、医薬品の分野が売り上げの約8割を占めている。

特徴的な経営スタイルのひとつとして「分社分権化経営」があげられる。「分社分権化経営」とは、ビジネスをマネジメントしやすいサイズに構成し権限を与え、それぞれのマーケットで独自の戦略でビジネスを展開していく経営スタイルである。

日本では、1961年に事業活動をスタートさせ、ビジネスの拡大を図ってきた。現在、日本のJ&Jは社内カンパニー制度を取っており、3つのカンパニーから成り立っている。

医療機器を中心に医家向け総合医療品の輸入・製造販売を行うのが「メディカル カンパニー」。

救急絆創膏「バンドエイド」や虫歯予防の「リーチ」歯ブラシ、「ジョンソン」ベビーローションやベビーパウダーなど消費者向けのトップシェア商品やロングセラー商品を扱うのが「コンシューマーカンパニー」。

そして、日本初の使い捨てコンタクトレンズ「アキュビュー」の輸入・販売を手掛けているのが「ビジョンケアカンパニー」だ。

他のグループ企業としては、臨床検査業界のリーディングカンパニー「オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス」と、医療用医薬品開発の「ヤンセンファーマ」、抗体医療に特化した「日本セントコア」がある。

このように日本国内でも「分社分権化経営」が実現されており、ビジネスの拡大において大きな成功要因となっている。

クレドーを理解し、共感できる人材かどうか

J&Jのビジネスを語るのに欠かせないのが、「我が信条(OUR CREDO =以下クレドー)」だ。企業活動を続けていく上で「企業が果たすべき責任は何か」を定義したもので、その対象は「顧客」「社員」「地域社会」「株主」であると明確にうたわれている。

1943年に提唱されて以来、J&Jの企業理念・倫理規定として社員の一人ひとりに確実に受け継がれている。したがって、J&J グループが求める人物像は、第一に「クレドーを理解し、共感できる人材」かどうかということだ。

加藤氏は、「クレドーでは、J&J が果たす第一の責任として『顧客に対しての責任』を掲げています。例えば、医療機器メーカーから医療現場の医師、看護士に優れた医療技術の提供をすることが、患者さんに対してより良い治療に繋がり、その結果、患者さんの“ クオリティ・オブ・ライフ” の向上に貢献することができる、といったことにやりがいを感じて仕事に取り組むマインドを持っていることが、非常に重要です」と解説する。

責任と権限を与え、リーダーシップを発揮

次に重視しているのが「リーダーシップ」だ。リーダーシップとは、普通役職が上がるにつれ求められるものだが、同社では研修が終わった新人でもリーダーシップを発揮することが求められる。そのために、社員には責任と権限を与え、自分で考えたことを自分でビジネスに生かせるような環境作りを進めている。

「メディカル カンパニーは13の事業部制(事業部は30人~200人のサイズから成る)をとっていますが、基本的には各事業部長の責任でビジネスが進められています。この程度の規模ですと、事業部としての意志決定もスピーディーに行えます。また、大企業にありがちな歯車の一つということはなく、各個人からもトップの考えや動きが見えやすく、自分自身がビジネスを動かしているという醍醐味や存在感を感じることができます。これがリーダーシップの発揮につながっていくのではないかと考えています」(加藤氏)

事業部制は分社分権化経営の一端だが、結果的に社員がリーダーシップを発揮しやすくなるような配慮がなされているといえる。

採用者の条件は「リーダーシップ」と「プロフェッショナル」

採用活動は、新卒、中途、MBAの3つに分けて行っている。新卒者の昨年のエントリー数は約3万人、セミナー参加者は約5000人、採用した学生は約40人だった。

新卒採用は、リクナビなどのWeb媒体や学校のイベントを通してエントリーを受け付けた。「バンドエイドの会社」というイメージを払拭し、「医療機器・医薬品のJ&J」を理解してもらうため、昨年は「1日インターンシップ」を4回実施した。

「実際に内視鏡や血糖値測定器に直接触れてもらい、医師への製品紹介の場面をイメージしたロールプレイを行うことで、医療が身近で重要なものという認識を高めてもらいました。好評だったので今年も工夫を凝らしたイベントを開催します」(加藤氏) 中途採用は、メディカル・カンパニーだけで昨年は約120人を採用した。採用にあたって最も重視していることは、プロフェッショナルであるということだ。

それまでの経験をベースとして、自ら考えて行動し、時には周りの人を巻き込み、成果を上げてきたプロ意識を持った人材であれば、医療業界未経験であっても十分活躍でき、更に将来のリーダーとしての期待もできる、という考えで採用している。

社内紹介を通じての採用もあるが、主に人材紹介会社を活用する。人材紹介会社へは、候補者に会社の意図が明確に伝わるように、場合によっては営業担当者のみならず、直接候補者と面談するコンサルタントに採用方針を説明する。

MBA採用は、J&J US本社の採用チームと協働し、職務経験を持つ日本人MBAホルダーを採用している。職務経験がある即戦力であることに加え、語学力や海外生活も経験していることで、グローバル人材獲得のひとつの重要なチャネルとなっている。

成長目標を実現する研修制度とダイバーシティの推進

同社の採用活動では、「ダイバーシティ(多様性)の推進」と「人材育成の仕組み」は重要な要素となっている。

J&Jのような外資系企業ではダイバーシティの推進は基本ルールで、優秀な人材の獲得における重要な取り組みであり、戦略となっている。特に日本では、ダイバーシティ=女性活躍の場の拡大と位置付け、採用だけでなく職場の環境作りについても積極的に取り組んでいる。

「当社では性差や国籍など何かの属性で人を差別することなく、適性のある人を優先して採用してきました。また、営業職での女性活用を進めるため、女性営業経験者を集めてセミナーを開催したり、採用後の会社の受け入れ体制や働きやすい風土の醸成を進めています」(加藤氏)

人材育成については、「グローバル・リーダーシップ・プロファイル」(=クレドーを核とする求める人材像の基準)に基づく国内・海外の階層別研修や、自己の将来の成長目標を実現するための能力開発を行う様々な研修が準備されている。

海外で1年間ビジネスを経験する「IDP =インターナショナル・デベロプメント・プログラム」を用意し、グローバルな人材を作り出すための海外トレーニングなども行っている。

また、扱う製品の専門性が高く、命に関わるものであることから、製品や医療情報に関するトレーニングは常にアップデートされ、中途入社の社員にも新卒社員と同じ期間の研修を受けさせている。社会に対する責任が重い分、知識、経験を積んだ上で現場に出すよう徹底している。

「人材の獲得競争は激しいですが、人材のクオリティーを落としてまで採用しようとは思っていません。医療に関わる仕事を通じて、人々のクオリティ・オブ・ライフの向上にやりがいを持てる人に、働きやすい環境や成長できるフィールドを用意することが、よい人材獲得につながると考えています」(加藤氏)

PAGE TOP