2026年度より、健康保険の被扶養者認定における年間収入要件、いわゆる「130万円の壁」の取扱いが変わる。「年間収入」の考え方が従来の「今後一年間の収入見込」から「労働契約上の年間収入見込額」による判断へ変更となる。社会保険手続きを担当する実務担当者にとっては重要な変更となるため、丸山博美社会保険労務士に解説してもらう。(文:丸山博美社会保険労務士、編集:日本人材ニュース編集部)

大原則となる、社会保険被扶養者認定のための3要件
2026年4月からの変更点を解説する前に、まずは社会保険の被扶養者となるための「親等要件」「生計維持要件」「収入要件」を確認しておきましょう。2026年度以降も、これらの要件自体に変更はありません。
①親等要件
・被保険者の三親等以内の親族であること
三親等の範囲は、図の通りです。

②生計維持要件
・被保険者と同一世帯に属している場合には、被保険者の年間収入の1/2未満であると認められる場合
1/2未満の要件を満たさない場合でも、被扶養者となる者の収入が被保険者の年間収入を上回らない場合には、当該世帯の生計の状況を総合的に勘案して、被保険者がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認められるときは、被扶養者に該当するものとして取り扱われることがあります
・被保険者と同一世帯に属していない場合には、被保険者からの援助による収入額より少ない場合
被保険者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹以外の者に関しては、被保険者と同居して家計を共にしている必要があります
③収入要件
・原則:年間収入130万円未満
・60歳以上または一定の障害がある方:年間収入180万円未満
・19歳以上23歳未満(配偶者を除く):年間収入150万円未満
※事業収入のある方は原則として被扶養者になれませんが、家計補助的な小規模事業等であり、被保険者の援助なくして生活できないと認められる場合は認定対象となります
参考:協会けんぽ「被扶養者とは?」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3160/sbb3163/1959-230/
2026年4月からは、収入要件に係る「判定方法」が変更に
社会保険の被扶養者となるための3要件のうち、2026年4月以降変更となる「③収入要件」の判定方法について解説します。
2026年3月31日まで
過去の収入、現時点の収入または将来の収入の見込み等から検討した「今後一年間の収入見込」により判定
2026年4月から
「労働契約で定められた賃金から見込まれる年間収入」により判定
「労働契約で定められた賃金から見込まれる年間収入」の定義を、掘り下げて確認しましょう。
被扶養者認定の判定基準は、労働契約において明示されている「基本給」「諸手当」「賞与」
「労働契約で定められた賃金から見込まれる年間収入」を考える際、基準となるのは「労働条件通知書等に規定される賃金」です。具体的には、所定労働時間や所定労働日数等から算出される基本給、諸手当、賞与が含まれます。なお、時間外・休日労働に対する賃金は、労働契約に明確な規定がなく労働契約段階では見込み難い場合、被扶養者認定における年間収入には含みません。ただし、固定残業代(毎月定額で支払われる手当)が規定されている場合は、「固定的賃金」として年間収入算定対象となります。
健康保険被扶養者認定の判定方法変更に伴う、実務対応のポイント
企業における実務対応上、重要なのは「健康保険被扶養者(異動)届の提出時における確認の徹底」及び「パート従業員等への労働条件通知書の適切な交付」です。
・健康保険被扶養者(異動)届提出時における確認の徹底
2026年度以降、健康保険上の被扶養者となるかどうかの確認を行うために、被扶養者となる者の「労働条件通知書」等の労働契約の内容が分かる書類の提出、及び「給与収入のみである」旨の申立てを求めることとなります。「給与収入のみである」旨の申立ての方法としては、健康保険被扶養者(異動)届の「扶養に関する申立書」欄に被扶養者となる者自身が記載する方法、もしくは健康保険被扶養者(異動)届の添付書類として被扶養者となる者本人が作成した「給与収入のみである」旨の申立書を添付させる方法等による対応が想定されているとのことです。詳細は、2026年4月以降、協会けんぽのホームページ等からご確認ください。
・パート従業員等への労働条件通知書の適切な交付
130万円の範囲内で勤務するパート従業員等を雇用する企業においては、労働条件通知書を正しく作成・交付しましょう。労働契約の内容については雇い入れ前や契約更新の際に労使で十分に話し合い、法定の記載事項について、実際の働き方に則した内容で通知ができるようにしましょう。労働日や労働時間に関して、特にパート・アルバイトについてはその時々で変動が生じやすいため、曖昧な書き方になりがちです。しかしながら、「週3日勤務(シフト制)」とした上で想定されるシフトパターンを明記する等、極力具体的に記載しておく必要があります。
労働条件明示ルールに関しては、2024年4月に改正された点も踏まえ、今一度見直されておくことをお勧めします。
参考:厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html
「130万円の壁」は実質的な要件緩和へ。パート従業員等による就業調整解消となるか
このたびの被扶養者認定における収入要件の判定方法変更は、いわゆる「年収の壁」を意識したパート従業員等の就業調整の解消に寄与するとされています。
現状、扶養の範囲内での就業を希望する場合、年収130万円を超えそうになるとパート従業員等が就業調整を行うケースが目立ちます。もっとも、人手不足による残業で一時的に収入が増加した際には、「年収の壁・支援強化パッケージ」における事業主証明により被扶養者資格の継続が可能ですが、当該措置は「一人につき原則として連続する2年間まで」という上限があります。
この点、2026年4月以降はあくまで「労働契約上の年収」が認定要件となるため、残業等で実際の年間収入が130万円以上となった場合でも、その超過が社会通念上妥当である範囲に留まる場合、これを理由として直ちに被扶養者認定取り消しとはなりません。もちろん、労働契約内容の賃金を不当に低く記載する等での被扶養者資格の維持は論外ですが、適正にルールに則るのであれば、実質的な被扶養者要件の緩和と言えるでしょう。
2026年4月からの健康保険被扶養者認定時の判定方法の変更が、働く意欲のある潜在的労働力の活用や深刻化する働き手不足解消につながっていくのか否か、大いに注目されるところです。
参考:
厚生労働省「労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いについて」
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T251006S0060.pdf
厚生労働省「労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いに係るQ&Aについて」
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T251006S0070.pdf

丸山博美(社会保険労務士)
社会保険労務士、東京新宿の社労士事務所 HM人事労務コンサルティング代表/小さな会社のパートナーとして、労働・社会保険関係手続きや就業規則作成、労務相談、トラブル対応等に日々尽力。女性社労士ならではのきめ細やかかつ丁寧な対応で、現場の「困った!」へのスムーズな解決を実現する。
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