クロスアポイントメントとは、研究者が公的研究機関や大学、民間企業の組織のうち、二つ以上の機関とそれぞれ雇用契約を結んで、研究業務に就くことをいいます。
クロスアポイントメント制度を取り入れることによって、研究者が組織の垣根を越えて活躍し、それぞれの組織のパイプ役として強化が図れます。有能な人材の知見を研究や教育の場において享受できることで、技術面・教育面の活性化やイノベーションの促進を目的としています。
クロスアポイントメント制度が誕生した背景には、有能な人材が活躍できる場を広げ、不利益になることなく従事できる環境を設ける必要があったからです。
研究者はこれまでも、大学や企業など複数の機関に携わり従事することは可能でしたが、雇用契約の方法が整備されていない懸念点がありました。どちらか一方とだけ雇用契約を結び、もう一方とは契約を締結していない事例が多く、社会保険や退職金などあいまいな部分が多かったのです。そのため、平成26年12月に経済産業省と文部科学省によって、クロスアポイントメント制度が取りまとめられました。
クロスアポイントメント制度を導入することで、研究者が研究機関で研究し、大学では教鞭をとり、企業に所属して開発などの活動を並行して行えます。研究者の雇用は各機関で分担され、かつ給与もそれぞれの機関によって分担されます。そのため、クロスアポイントメント制度は、「混合給与制度」といった別名もあります。
クロスアポイントメント制度の仕組みは、在籍型出向です。研究者の出向元と出向先が各機関での業務比率や給与支払いについて取り決めを行います。研究者と各機関の雇用契約の締結だけでなく、出向元と出向先のクロスアポイントメント協定書の策定も必要です。そして給与はどちらか一方が一括して支払い、各種社会保険や年金、退職金なども管理します。
クロスアポイントメント制度を導入する機関が増えれば、有能な人材が多方面で活躍でき新たな価値創造の可能性が広がります。企業は知見をもった人材によって開発を進め、人材育成によってノウハウを蓄積でき、大学や研究機関は活動の活性化や発展につながるといったメリットがあります。
まだまだ事例が少ないため、クロスアポイントメント制度の実務的な調整などに課題があるものの、今後は導入する組織が増えるかもしれません。