従来と比較して個々の多様性や幸福がますます重要視されており、採用戦略や生産性の観点から企業も従業員との関わり方を考え直す必要があります。その一環として本記事では、今注目されている「ウェルビーイング」に焦点を当て、その意味や注目される理由、企業が取り組むメリット、実際の事例もあわせて紹介するのでぜひご覧ください。
目次
ウェルビーイングとは
ウェルビーイング(Well-being)とは、良いという意味の”Well”と、状態という意味の”Being”を組み合わせた言葉で、身体的・精神的・社会的に健康な状態であることを意味します。
従来の「健康」という言葉が身体的に良好な状態を表していたのに対し、ウェルビーイングは身体だけでなく、精神的や社会的にも良好な状態であることを意味します。
WHO(世界保健機関)が「健康」の定義を行う中で初めてウェルビーイングという言葉が言及され、その後の世界的な健康ブームによって、現在でも広く知れ渡るようになりました。
【1948年の世界保健機関 (WHO) 憲章における定義】
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。
(出典:「WHO憲章(日本WHO協会訳)」)
幸福度を測る指標
ポジティブ心理学を提唱した米国のマーティン・セリグマン博士は、「持続的な幸せ」の重要性を説き、幸福の法則(PERMAの法則)として、2011年にウェルビーイング理論を構築しました。
PERMAとは、ウェルビーイングを構成する5つの要素の頭文字を取った言葉です。従来の単調な幸福理論から脱却し、多面的な評価によって幸福度の測定を試みている点が大きな特徴といえるでしょう。
ウェルビーイング(Well-being)とは、良いという意味の”Well”と、状態という意味の”Being”を組み合わせた言葉で、身体的・精神的・社会的に健康な状態であることを意味します
- Positive Emotion(ポジティブな感情):喜び、愛、娯楽、感動など
- Engagement(エンゲージメント、没頭):時間を忘れて何かに没頭できる
- Relationship(ポジティブな人間関係):サポートを受ける、与える
- Meaning and Purpose(意味や目的):人生の目的を持つ
- Achievement/ Accomplish(達成):何かを達成する
ウェルビーイングが今注目されている理由
ポジティブ心理学を提唱した米国のマーティン・セリグマン博士は、「持続的な幸せ」の重要性を説き、幸福の法則(PERMAの法則)として、2011年にウェルビーイング理論を構築しました。
ウェルビーイングに注目が集まっている背景に、価値観の変化や現代社会における課題があります。ここでは、ウェルビーイングが今注目されている理由について解説します。
2012年World Happiness Report(世界幸福度報告)が発行された
ウェルビーイングが注目される以前は、GDP(国内総生産)によって国ごとの「経済的な」豊かさだけを測るのが一般的でした。しかしGDPは生産量しか計測できず、幸福度を測る指標としては不十分であるという指摘が多かったのも事実です。
2012年に、国際連合の持続可能開発ソリューションネットワークによるWorld Happiness Report(世界幸福度報告)が発行され、世界中の人々のWell-beingを可視化している指標ができました。それを機に、ウェルビーイングはGDPに代わる新たな指標の1つとして注目され始めます。
2015年SDGsの目標の中に組み込まれた
2015年には、持続可能な開発目標(SDGs)の目標3の中で「Good Health and Well-being」として、ウェルビーイングが組み込まれました。これにより、ウェルビーイングは一層世界からの注目を集めます。
さらに社会の風潮が変化し、以前よりも多様性や一人ひとりの幸福がフォーカスされるようになったことも、ウェルビーイングが注目を集めるようになった要因の1つでしょう。
働き方改革の推進
日本では2019年に働き方改革がスタートし、すべての従業員が働きやすい環境を整備するため、さまざまな企業が従来の制度や仕組みを見直し始めました。
また、昨今は人材採用の競争が激しく、単に高い給与を支払うだけでは、優秀な人材を確保することが難しくなっています。このような時代背景もあり、各企業は従業員の幸福度について検討する機会が増え、それに伴いウェルビーイングに対する注目度も高まっていきました。
新型コロナウイルスの感染拡大
2020年に起こった新型コロナウイルス感染症の拡大も、ウェルビーイングが注目されるようになった要因のひとつです。コロナの影響により働き方が多様化したことは、人々が自分自身の働き方を見直す大きなきっかけとなりました。
またリモートワークの普及により、メンタルの不調を訴える従業員が増えたことで、企業側は従業員とその家族の幸福を改めて重要視するようになります。
人手不足や終身雇用という概念の希薄
日本は少子高齢化が加速しており、人手不足が深刻な問題となっています。また、現代では若者を中心に、より良いワークライフバランスが実現できる職場を求めて転職することが一般化しており、終身雇用という仕組みは薄れつつあります。
このような背景などから、企業側が人材確保のために従業員やその家族の幸福を考える必要性が高まり、ウェルビーイングが注目されてきました。
企業がウェルビーイングに取り組むメリット
企業がウェルビーイングに取り組むことは、そこで働く従業員にメリットがあるのはもちろん、企業側にも多くのメリットをもたらします。ここでは、企業がウェルビーイングに取り組むメリットをご紹介します。
生産性の向上
企業がウェルビーイングに取り組むメリットのひとつは、生産性の向上につながることです。ウェルビーイングの考え方を取り込むことは、従業員の企業に対する不安や不満を抑え、労使間での良好な状態を保つことにつながります。
従業員のモチベーションを維持し、やりがいを持たせることができれば、従業員一人ひとりの生産性が高まり、企業全体の生産性向上につながるでしょう。
優秀な人材の確保
企業がウェルビーイングに取り組むことの2つ目のメリットは、優秀な人材の確保につながることです。
ウェルビーイングの考え方を取り込み、企業側から従業員とその家族の幸福を追及することで、福利厚生などの面から魅力的な企業へと変化していきます。
職場環境を充実させ、働き方の多様性を認めていけば、求職希望者からの注目も集まるでしょう。その結果、優秀な人材の確保につながっていくことが期待できます。
離職率の低下
企業がウェルビーイングに取り組むことの3つ目のメリットは、離職率の低下につながることです。
ウェルビーイングを通して、企業や仕事に対する従業員の満足度が上がれば、離職者の減少につながっていきます。離職率が低下すると、業務習熟度の高い人材が増えて生産性が上がるだけでなく、新入社員に対する教育費用を抑えられます。
さらに「離職率の低い企業=長く働ける企業」として、企業の社会的な評価も高まっていくでしょう。
ウェルビーイング実現の企業事例
Google LLC(グーグル)
Googleでは「20%ルール」という独自のルールを設け、業務時間の少なくとも20%を、普段の業務とは異なる業務(新規事業の立案など)に充てることを推奨しています。この制度により、Googleからは数々の画期的なサービスが生み出されており、従業員もよりクリエイティブに働くことができるため、企業内で好循環が生まれています。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車は、2020年に「幸せの量産」という新たな経営理念を掲げました。そこでは、日本のリーディング企業として、自社の利益だけでなく社会全体に必要なものを作り出せる企業を目指すことを公言しています。
具体的には、高齢者を支援するための「パートナーロボット」の研究開発など、自社の技術や知見を活かしてさまざまな事業への展開に取り組んでいます。
楽天グループ株式会社
楽天グループでは従業員一人ひとりだけでなく、チームでのウェルビーイングも実現させるため「コレクティブ・ウェルビーイング」という独自のガイドラインを策定しています。
また楽天グループでは誰もがこのガイドラインに沿って行動できるよう、独自に開発したツールをオンライン上で無料公開しました。これにより、自社内だけでなく社会全体にウェルビーイングを浸透させようと取り組んでいます。
ウェルビーイングに取り組み、企業の成長に繋げよう
以前にも増して多様性が尊重されるようになり、ウェルビーイングに対する注目度は今後も高まっていくことが予測されます。
ウェルビーイングは個人だけでなく、組織や社会にも大きなメリットをもたらす考え方です。企業がウェルビーイングに取り組み、従業員の幸福を追求していけば、従業員のパフォーマンスも向上し、結果的に企業の成長につながっていくでしょう。