人材採用

在宅勤務でできる管理職とできない管理職が明らかに

コロナ禍の出社制限で在宅勤務中心の働き方に変わり、職場の風景も大きく変わった。顔を合わせて仕事をする機会が減る中、管理職はどのように部下をマネジメントするべきか。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

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在宅勤務中心の働き方が生む弊害

コロナ前は定時に全員揃って出社していたが、今は出社する社員も半分、しかも時差通勤で出社も退勤もバラバラだ。

当然、上司と部下が顔を合わせる機会が減り、頻繁にコミュニケーションができなくなり、職場ではさまざまな問題が発生している。

建設関連業の人事部長は「日頃から課長と部下がよくコミュニケーションをとって連携し、報・連・相がしっかりできている部署は支障なく在宅勤務に移行できている。一方、出社しても上司や先輩と余計なことは話さないタイプの社員もいるが、在宅になるとメールはできても、電話をするのはハードルが高くなる。その結果、作業に余計に時間がかかるし、チームの連携にも支障を来しているケースがあるようだ」と語る。

管理職の中にもITが苦手な人もいる。

「会議をオンラインでやるようになり、操作が分からなくてついていけない管理職もいる。たとえばZoomでも共有ファイルを出す必要があるのに出せないとか、うっかり消してしまったりする。あるいは今日はオンライン会議の日であることを忘れ、間違って会社の会議室に行くと、誰もいないので「何で皆いないんだ」と言う。下の世代は何の抵抗もないが、オンラインデバイドがあるために仕事の効率が悪いと考える人もいる」(人事部長)

出社制限下でも出勤したがる管理職

実は出社制限下でも出社率が高いのが管理職という会社もある。本人は「こんな大変なときだからこそ自分が出社しなければ」と、責任感が人一倍強いという。しかし、出社しても部下はほとんどが在宅勤務だ。サービス業の人事部長はこんな光景を目にしたことがある。

「ある部署を覗いたら、課長がぽつんと一人だけ座ってPCに向かってぶつぶつつぶやいている。『何しているの』と聞いたら、毎日Zoomで朝礼と終礼を30分ずつやっているそうだ。部下の仕事ぶりが不安な気持ちも分からなくはないが、1日1時間、週5時間、月20時間も費やしていることになる。ムダとはいわないが、本当に必要な会議なのか吟味する必要があると思う」

最終決裁者である管理職の中には部下が提出した決裁書類に押印するためにだけ出社せざるを得ない人もいるが、「俺が出てきているのに部下はどうして出てこないんだ」と思っている人もいる。

在宅勤務における管理職の悩み

もう1つの管理職の悩みは部下の行動プロセスが見えづらいので人事評価がやりづらいことだ。

広告業の人事部長は「人事評価では成果以外の行動評価や行動プロセス評価も重視している。部下が『コミュニケーションを取りながら周りと連携しながら仕事を進めていた』『後輩の育成・指導を熱心にやっていた』といった項目は、在宅勤務に入ってから見えづらくなっている」と語る。

以前は部下の仕事ぶりをみれば大体分かった。定時前に出社して仕事の準備をしていると「おっ、がんばっているな」と思ったし、ギリギリに出社すると「何だ、あいつは。やる気があるのか、ダメだな」と観察していた。

また、飲みに誘っていろいろ話を聞いて、がんばり具合を確認することができたが、今は社内の宴席禁止で飲み二ケーションがほとんどなくなった。

これについてIT企業の人事部長はこう語る。

「在宅勤務になって日頃の管理職の一人一人コミュニケーションの質が炙り出されている。管理職にも2つのタイプがいて、日頃からコーチングの勉強をして1on1の面談をやっていた管理職はWebの面談やZoom会議に移行しても全然大丈夫な人もいる。逆に昔ながらの『俺の背中を見て学べ』というコミュニケーション下手の管理職は結構きつい状況になっている。各部門にヒアリングしたり、クレームを聞いているうちによく分かってきた。実際に部下とのコミュニケーションが上手く取れない管理職がいる課とそうでない課との組織の成果もはっきり出てきている」

マネジメントスタイルの転換が求められる

在宅中の仕事の基本は、課で取り組むタスクの一覧をつくり、タスクの目的とゴールを共有し、タスクの目標が部員一人一人の目標に紐付いていることだ。いつまでに何をやるかというタスクの目標の進捗状況を事前に記録し、週1回の会議で部員同士や上司が確認しあい、部下の誰かが悩んだり、困っていることがあれば上司や仲間と相談し合えるルールをつくっておくことも必要だ。

しかし、それが徹底できない管理職も多い。仕事の進捗状況や個々の成果を在宅勤務であっても把握できなければ評価ができない。

IT企業の人事部長は「しっかりコミュニケーションがとれていれば、人によって報・連・相が上手いか下手か、業務遂行力などの能力発揮のレベルも見えるだろうし、それに対する課長の指導力も分かるはず。それができないのは、今までちゃんと管理職が指導してこなかったツケが露呈していると思う」と手厳しい。

前出の広告業では業務効率の見直しの一環として「タスクの見える化」のシステム開発に着手している。管理職と部下が話し合って業務を週単位・1日単位で個人がやるべきタスクがシステムに落とし込まれる。そして進捗状況が日々確認され、全員が同じ画面で共有する仕組みだ。

「全員の仕事を見える化することで、在宅でも日々の仕事ぶりやプロセスも分かるし、日々の成果物も明確になる。問題点があればチャットで上司が指示することも可能だ。これまで何となくごまかしていた作業もできなくなり、働かないおじさんも一目瞭然となる。残業管理もやりやすくなるかもしれない」(人事部長)と期待する。

いずれにしても旧来型の管理職のマネジメントスタイルの転換が必要になる。学習院大学経済学部の守島基博教授はは次のように指摘している。

「一番変わらなければならないのはマネジメントだと思う。分散したメンバーのモチベーションを上げ、最終的なアウトプットをコーディネートすることが重要になるからだ。今までのように、問題が起こったら集まって協議しようではなく、きちんと目標設定を行い、達成状況を把握し、最終目標が達成されているかどうかを見極める。人の管理からプロジェクト・マネジメントのノウハウが必要になる」(『生産性新聞』2020年8月25日号)

今年はオンライン元年といわれる。管理職はオンラインスキルの上達だけではなく、新たなマネジメントスキルの修得も求められている。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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