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インターンシップ選考とリファラル採用が広がる【2019年新卒採用動向】

2019年卒の採用活動が始まる。人材不足が叫ばれる中、どのような手法で優秀な人材を早期に獲得していくかが焦点となってくる。最近の採用トレンドを踏まえ、2019年卒の採用活動をいかに乗り切るかについて語る。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

インターンシップ選考とリファラル採用が広がる【2019年新卒採用動向】

1dayインターンシップが大半を占める

2月に入り2019年卒の採用活動が本格化している。経団連が1dayインターンシップを解禁したことで2月のインターンシップ実施企業はリクナビ・マイナビ・キャリタスの主要就職サイトの合計で延べ1万3000社を超えている。

そのうち1dayが約76%を占める。言うまでもなく1dayは事実上の会社説明会であり、3月1日の広報活動解禁は有名無実化している。19年卒の採用活動が前年よりさらに早期化しており、会社説明会、選考、内定出しの時期も早まるだろう。

志望業界1位は「情報・インターネットサービス」

すでに選考も始まっている。ディスコが19年卒の学生1028人を対象に実施した調査(1月1日~10日)によると、インターンシップを除き「選考中の企業がある」と答えた学生は20.3%、平均社数は2.0社だった。前年とほぼ同率だが、今年は志望業界に変化も生じている。

全体の1位は「情報・インターネットサービス」(19.1%)で前年の9位から大きく躍進した。反対に前年の1位だった「銀行」は17.8%で2位に転落した。メガバンク各行は業務効率化を目指した中・長期の構造改革や大幅な人員削減を公表しているが、予想される将来のリストラが影響したものと考えられる。

採用方法の多様化

大手企業の選考も始まっている。従業員1000人超のインターネットサービス業では技術職と総合職の計100人の採用を予定しているが、すでに技術職は1月から会社説明会を実施し、1月末には面接を開始。2月中には内々定を出すことにしている。総合職も3月末までには内々定を出すことにしている。同社は経団連の加盟企業ではないので採用活動の時期が縛られることはない。

同社の人事部長は近年の採用活動の変化についてこう語る。
「以前は他社が採用に向けてどう動くのかを気にしていましたが、伝統的大企業を除いて他の会社の動きを考えて動くのは意味がないと思い始めました。就活サイトを使わない企業も増えており、会社によってはサイトに登録する学生をとらないという切り口で採用するなど、採用方法も多様化しています。採用手法を含めて独自の採用活動をする企業も多く、採用戦略自体の見直しが迫られています」

採用直結型のインターンシップの高まり

採用戦略の大きな変化は採用直結型のインターンシップの隆盛だろう。インターンシップとは言うまでもなく在学中に働きながら仕事の内容や業界の知識を学び、将来のキャリアに生かす就業体験のことだ。これまで大学の単位型インターンシップは広く実施されてきたが、日本では採用活動に利用することは禁止され、インターンシップを通して取得した学生情報を広報活動や採用活動に使用してはならないことになっている。

だが実態は採用直結型インターンシップが主流になっている。経団連加盟企業の住宅関連企業は毎年約400人の新卒を採用している。インターンシップ採用に踏み切ったのは17年卒採用からだ。最初の年はインターンシップを通じてどれだけ採用できるのか手探りでスタート。インターシップ選考と並行して正式選考解禁日の6月1日以降は一般選考という2段階の選考を実施している。

同社の人事担当者は「外に対しては、『一応6月1日は守っています。インターンシップは通常選考ではないので若干早めにやっています』というメッセージも含まれている」と語る。

18年卒のインターンシップ選考を通じた採用は6割

インターンシップを通じた前倒しの選考は、18年卒の採用では6割の内定者を出すなど高い比重を占めている。19年卒対象のインターンシップは昨年の夏に実施し、インターシップ参加者の具体的な選考は3月の広報解禁以降に始まる。

面接ではなく“面談”のスタイルで通常選考と同じように複数回実施し、最後の役員面接も変わらない。もちろん選考で落とされる学生も多数発生する。だが、合否を伝えることなく、合格した学生には「次の面談日の日程を連絡し、予定を入れておくようにと伝えるが、不合格の学生には不合格と言えないのでそのままになるが、ほとんどが理解する」(人事担当者)という。

19年卒採用でもインターシップ参加者から全体の採用人数の6割の確保を目指している。そして最終的に5月連休前後に内々定を通知する。「書面を提示することはないが、他社と同様に6月1日の選考解禁日に集まってもらい、内定承諾書にサインをもらう」(人事担当者)流れだ。さらにこれと並行して6月1日から一般選考の学生の面接が始まり、6月中にほぼ終了する予定だ。

採用の新手法が広がっている

こうしたインターンシップも含めて今年は一段と採用手法も多様化している。特徴的なのはIT技術の活用とリファラル採用の増加だ。住宅建材を扱う中堅の専門商社では50人の採用を予定しているが、新たに動画を用いた選考を実施する。

具体的には会社の行動指針のうち育成しにくい価値観などについて5分程度のドラマ風の動画を数本準備。その動画のどの部分に共感できるかを聞いて見極める。撮影では再現ドラマを作成している事業者のプロのスタッフや役者の協力を仰いだ。さらに地方採用においては試験的にウェブ面接を実施する。

社内外の信頼できる人脈を駆使したリファラル採用に踏み切るのは約30人の採用を予定している金融系のITベンチャーだ。会社の上層部や取引先などに積極的に声をかけるととともに、リクルーターを全社員に拡大し、全社を巻き込んだ採用活動を展開している。人と人の信頼関係を重視したアナログ的方法であるが、採用後の定着にもつながる可能性がある。

独自の採用戦略が人材確保のカギ

人手不足が続く福祉業界の企業の中には、親、友人、先生、バイト先の関係者の計5人の推薦状を持参すれば、筆記試験を免除する取り組みを今年から始める。選考時期の流動化を含めて従来の採用活動が大きく変化している。とくに中小企業にとっては独自の採用戦略が人材確保のカギを握っていることは間違いない。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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