チャレンジなる無理難題な要求を重ねていた経営トップ

東芝の業績評価制度は2001年に導入した「ポジションリンク年俸制」が原型になっている。

従来の仕組みは社内資格分と個人業績分で構成されていたが、新たに賞与を担当部門の業績数値の達成度で決めるというものだった。当初はカンパニー社長、副社長、事業部長、コーポレートの執行役、部長など約100人に導入された。

具体的にはポジションごとにランク分けされた標準額を設定し、業績評価に応じて支給額が35%の範囲で増減するというものだ。評価はS〜Dの5段階でBが標準だ。

Sは標準額プラス35%、最低のD評価は標準額マイナス35%になる。おそらくその後、報告書にあるようにD評価は0倍(不支給)にするなど成果色を強化したのだろう。

問題なのはこの制度を逆手にとってチャレンジなる無理難題な要求を重ねていた経営トップの姿勢だ。パソコン部門では、調達したパソコンの部品を組み立てメーカーに押し込み販売し、利益のかさ上げ(損失の先送り)を繰り返していたことが知られている。

2011年1月28日。10年度下期四半期報告会において当時の佐々木則夫社長はパソコン部門の責任者に対し、「3Qで出た利益を使って借金を余分に返済して前回通り、借金だけ返済して、予算は達成しましたなんて言うことがあれば、賞与の査定は2段階引き下げるから」(報告書)と発言している。

ここでいう「借金」とは見かけ上の利益かさ上げ額のことだ。つまり、佐々木氏は利益かさ上げ額だけを処理するだけではなく、それ以上の利益を出さないと評価を2段階下げると言っているのだ。

単純に先の5段階評価であるとすれば、標準のB評価を2段階下げたらD(不支給)評価となる。まさに中・長期的経営を無視した短期的利益至上主義の姿勢を露わにしている事例だろう。

経営ガバナンス強化や企業風土改革に取り組む

●経営刷新推進体制(9月30日以降)

日本人材ニュース
(出所)東芝「2014年度決算説明会資料」

日本企業が苦境に陥った原因は経営者の劣化

東芝に限らず、日本では業績悪化を招いた経営者は引責辞任しても、会長、相談役、顧問として会社に残ることが多い。

サービス業の元人事担当役員はバブル崩壊後の20年間に日本企業が苦境に陥った原因は「経営者の劣化」にあると指摘する。

「経営に失敗して辞任しても、後継社長を指名する権力だけは手放そうとしません。しかし、経営がだめだった人物が次の経営者を選ぶともっとだめになる。それが3代続くと会社がおかしくなる。会長、相談役に退いても経営に口を出すことをやめない。その結果、いつまでも会社は浮上することはありません」

東芝の社外取締役である伊丹敬之氏はその著『よき経営者の姿』で、経営トップは「自分の思うようなことをやってくれる、自分を大切にしてくれる、しかし自分を超えない人間を後継者に指名する」という企業の役員の言葉を引用し、こう述べている。

「劣性遺伝の法則が多くの企業でこの20年間しばしば成立しているようだ。であれば、日本全体の経営者の器量の長期低落傾向は、起こるべくして起こっている現象だと理解すべきであろう」

経営環境が激変する中、従来の日本企業の経営者を生み出す人事・組織風土や後継者指名のあり方を抜本的に見直さない限り、真に必要とされる経営者は育たないだろう。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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