“よりジョブ型的”制度の導入でキャリア自律や若手抜擢を促進【大日本印刷】

大日本印刷(DNP)は新しい価値の創出に向けて人事諸制度の再構築を進め、積極的に「人への投資」を行っている。取り組みの狙いや具体的な施策の内容などについて、同社人事本部労務部の野村聡彦氏と向田暁氏に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部

大日本印刷 野村 聡彦 人事本部 労務部 第2グループ リーダー

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野村 聡彦 人事本部 労務部 第2グループ リーダー

「人的資本ポリシー」について教えてください。

野村 当社では、2018 年の社長交代を機に、社会環境の変化も踏まえ、新しい価値の創出に向けて、その基盤となる人事諸制度の再構築を進めてきました。

2019年の第一弾では「オールDNP」の総合力の発揮に向け、広く社会全体を意識した仕組みや制度を志向するなかで、主に社内外の多彩なキャリアを持つ人材や若手社員、ICT人材を対象にした制度改定などを行いました。

2020年の第二弾では「社員を大切にし、大切にした社員によって企業が成長し、その社員が社会をより豊かにしていく」という方針のもと、選択定年制の導入や表彰制度の見直し、同一労働・同一賃金に対応した制度改定などを行い、さらに2021年の第三弾では「ニューノーマル時代」の働き方と新しいマネジメント、複線型キャリア制度の導入と専門職制度の拡充など、様々な人事諸制度を再構築して積極的に「人への投資」を行ってきました。

また、それ以前からも、新しい価値を創出していくためには、チーム力強化に向けたより良い組織風土の醸成や、多様な個の成長に資する取り組みが必要であると考え、「人材育成ビジョン」や「ダイバーシティ宣言」、「安全衛生憲章」、「健康宣言」、「福利厚生ビジョン」など、人に対する方針・ビジョン・宣言を打ち出して継続的に取り組みを進めてきました。

そこで、2022年5月に、こうした取り組みの前提に据えてきた社員に対する普遍的・基本的な考え方を「人的資本ポリシー」として最上位の概念に位置づけ、「社員を大切にする」ことによって「一人ひとりが強みを伸ばし、社内外で活躍できる人材として育ってもらいたい」という会社の思いを、社員に向けて明確化しました。

「人的資本ポリシー」に基づき設定された「よりジョブ型も意識した処遇・関連施策」の概要について教えてください。

野村 これは、「人的資本ポリシー」に込めた会社の思いをさらに進めていくための、社員の自律的なキャリア形成をより一層支援する処遇および関連施策です。

根幹となる考え方は、若年層の人材育成に適しているメンバーシップ型雇用と、職務・職位・ポストに応じて処遇が決まるジョブ型雇用を組み合わせ、双方のメリットを活かした当社独自のハイブリッドなキャリア自律型の仕組みを目指していくということです。

具体的には、入社後の若年層においてはメンバーシップ型で育成を図り、中堅クラスでは人事諸制度再構築第三弾で導入した複線型キャリア制度により、管理職を目指すのか、専門職を目指すのかを自律的に選択してもらいます。そして、上位レイヤーにおいては管理職もしくは専門職などの職務・職位に応じた等級格付を行い「よりジョブ型的」に処遇していく、というものです。

今後は若手の管理職への抜擢も含め、この上位レイヤーの運用をより強めていくとともに、それに連動した専門職制度の拡充も行っていきます。

メンバーシップ型とジョブ型を活かした「キャリア自律型」の仕組み

どのような関連施策を設けているのでしょうか。

野村 大きく分けて次の6つのテーマがあります。
①上級幹部向け 「職務(ポスト・職位=管理職・専門職)をより重視した等級格付(昇降級)」 ※専門職制度の拡充含む
②管理職向け「360 度フィードバック」の実施(部下からのマネジメントフィードバック)
③自律的キャリア支援の拡充―社内人材公募の拡充並びに公募型社内複業の導入
―自己啓発支援制度のリニューアル(社外副業支援等含む)
―スタートアップ企業派遣の正式制度化
―事業分野・コース別採用の拡充
④高度専門人材(プロフェッショナルスタッフ、アソシエイトスタッフ)のジョブ型・無期雇用の仕組み、社外副業人材の受け入れ拡充
⑤ ICT プロフェッショナル制度の拡充(ICT サービスマネジメント手当の導入)
⑥転勤(転居を伴う異動)にかかる施策の導入
―転勤者インセンティブ制度
―社宅貸与年限等見直し
―地方採用・地域限定社員制度

テーマ②の管理職向け「360度フィードバック」は、原則として対象となる管理職の部下全員が、対象者の「チームマネジメント」「職務遂行」「大事にしたい基本姿勢」という項目ごとの行動発揮状態について5段階でフィードバックするというものです。対象者本人も自己評価し、部下からフィードバックされた内容や、全管理職平均とのギャップを明らかにして、自らの課題を知るための気づきを得ることを狙っています。

この制度のもう一つのポイントは、部下全員に実施してもらうことです。この設問の内容は、会社が管理職に対して期待したい姿勢であり、それを非管理職も含めた全体に認識してもらうといった狙いもあります。設問内容は、毎年大きく変えることはありませんが、その時々に管理職へ求めるものの変化に応じて見直していきます。

回答者は現時点では部下のみですが、ゆくゆくは同僚や上司にも広げ、さらに360度的にフィードバックできるようにしていく予定です。

テーマ③の自律的キャリア支援の拡充では、以前から制度として実施していた自己申告制度や社内FA制度、社内留学制度などに加え、さらに自律的なキャリア形成を支援する仕組みを導入するものです。このうち、スタートアップ企業派遣制度では、週1日程度のライトなものと、半年間ほど在籍出向して本格的に取り組むものの2パターンを用意しています。

向田 当社は多くの事業を展開しており、非常に多くの職種が存在しています。そこで、社内公募や社内複業に関しては、社内ポータルサイトに募集ページを設け、業務内容や勤務場所などで検索・応募できるように工夫しています。

また、 自己啓発支援制度をリニューアルし、オンライン学習サービスと、副業や社外越境を支援するキャリア自律スクールのサービスを新たに導入します。

野村 加えて、事業分野・コース別採用も拡充していきます。技術系総合職においては、従来のコースに加え、出版ソリューション、イメージングコミュニケーション、産業資材などの分野ごとに、事務系総合職は従来のコースに加え、経理、法務、購買などのコースを設けて募集を行います。応募者の希望分野や職種をより考慮して当社への入り口を設けるとともに、入社後も自己申告や社内公募などで自律的にキャリアを描いていってもらうという流れです。

テーマ⑥の転居を伴う異動にかかる施策としては、転勤者インセンティブ制度や地方採用・地域限定社員制度を導入します。

コロナ禍を機にテレワークが急速に広まり、当社もテレワークを常態化するなど、個人・組織双方にとって最適となる、より柔軟な働き方を展開しています。世間では、働く所を問わない企業も出てきています
が、当社は地方に工場を擁しており一定程度の転勤による人事ローテーションがどうしても生じます。

そこで、転居を伴う異動・人事ローテーションに対するより手厚い処遇を行う転勤者インセンティブ制度を新設し、社宅貸与年限の見直しも行うこととしました。加えて、地方採用・地域限定社員制度も導入し、地元志向の強い優秀な人材の確保を図ります。

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向田暁 人事本部 労務部 第2グループ

社内の反響や今後の課題について教えてください。

野村 より自律的にキャリアを描いていきやすくなることや、若手の抜擢につながる仕組みになることについて、管理職クラスや組合などからの評判は総じて良好です。

向田 今後の課題としては、ここ 5年ほど諸制度の再構築が続いており、制度改定に対する社員の理解浸透がまだまだ十分ではないことです。そこで、この課題を解決すべく、社内のオンライン学習やイントラネットで、制度改定を題材にしたマンガによる説明を設けました。

人事制度の説明資料はどうしても文字が主体となります。社員に対して、すべての内容を文章から読み取り理解を促すのはなかなか難しいと感じていました。そこで、マンガで説明したら制度の概要が簡単につかめると思い、関連会社にマンガ制作を依頼しました。社員からは「大体の制度概要がパッと見て掴めるので分かりやすい」「見てみようという気になる」と大変好評です。

大日本印刷株式会社

代表者:代表取締役社長 北島義斉
設立:1876年10月9日 
資本金: 1144億6400万円
従業員数: 3万6246人(連結)、1万107人(単体)(23年3月31日現在)
本社:東京都新宿区市谷加賀町1-1-1
売上高:1兆3732億900万円(連結)、9280億8400万円(単体)(23年3月31日現在)

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