野村不動産グループはダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進し、社員の個性や能力を発揮しやすい環境を整備してきた。取り組みの狙いや具体的な施策の内容などについて、同社グループ人材開発部長の宇佐美直子執行役員に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部)
野村不動産ホールディングス
宇佐美 直子 執行役員 グループ人材開発部長
「ダイバーシティ&インクルージョン推進方針」を策定した経緯について教えてください
当グループの基幹会社である野村不動産は1957年に設立しました。そして、2004年に野村不動産ホールディングスを設立、ホールディング体制に移行し、06年に東証一部(現東証プライム)に上場しました。ホールディングス設立時には「あしたを、つなぐ」というグループ企業理念を掲げ、当社の基本姿勢や考え方などについて公に定義しました。
こうした中で、2013年にダイバーシティ推進委員会、17年にダイバーシティ推進課、18年にウェルネス推進課を設置するなど、時々で求められるウェルネスやダイバーシティの推進に取り組んできました。2021年には、人権尊重の考え方や責任を明確にした、「野村不動産グループ人権方針」を打ち出しています。
一方、デベロップメント事業を主体とする当グループにおいては、9年という比較的長いスパンの中期経営計画を策定しており、2030年3月までの中計が22年4月からスタートしました。そこにおける「野村不動産グループ2030年ビジョン」のステートメントは「まだ見ぬ、Life & Time Developerへ」というものです。
そこにある価値創造の進化・変革を担うものとして、DXとともにサステナビリティが位置付けられ、中期経営計画に合わせる形で「サステナビリティポリシー」を掲げることにしたのです。
「サステナビリティポリシー」のステートメントは「Earth Pride ~ 地球を、つなぐ」というものですが、「人間らしさ」「自然との共生」「共に創る未来」の3テーマに分け、5つの領域で2030年までの重点課題を設定しました。その5つのうちの1つにダイバーシティ&インクルージョン(以下「D&I」)が位置付けられたわけです。
こうした経緯で、22年9月に「ダイバーシティ&インクルージョン推進方針」を策定しました。その中味は、「D&I推進の目的と意義」「当社グループにおけるD&I」などから成っています。
ダイバーシティ&インクルージョン推進方針の目的と位置づけ
グループ全体でD&Iを推進する理由は何でしょうか
D&Iとは、多様性を認識し、互いに尊重し合うことで個人の力を最大限に発揮できる環境を整え、新たな価値創造につなげるという考え方です。
当グループでは、高齢者向け住宅や商業施設、スポーツクラブ、さらにはホテル、そして海外展開と多角化を進めています。その背景には、お客様のニーズや社会の課題が多様化していることが挙げられます。これに応えていくには、当グループの人材や組織も多様化しなければ、よい商品・サービスを提供することは困難になるとの考えがあります。
そこで、人種、民族、国籍、年齢、性別、性的指向、性自認、障がいの有無、宗教や信条、社会的身分、ライフスタイルやライフステージといった様々な属性における多様性を尊重し合い、すべての社員が「自分は受け入れられている」と感じられる企業文化の醸成が不可欠であると捉えました。
その上で、それぞれの属性における課題を解消し、社員一人ひとりの違いに着目した実質的な機会均等を図るとともに、すべての社員がそれぞれの個性と能力を最大限に発揮し合うことで、新たな価値の創造に繋げて行こうという狙いがあります。このことを、当グループのD&Iと定義しています。
D&Iの効果としては、社内においてはエンゲージメントの向上や離職率の低下、社外に対しては人材獲得力や投資家からの評価の向上が考えられるとともに、多様な視点が持てることでイノベーションが創出しやすくなることを挙げています。
D&Iを推進していくための体制や施策、目標について教えてください
推進体制としては、2022年4月、新たに役員や幹部クラスからなる「ウェルネス・D&I推進委員会」を立ち上げ、グループ人材開発部内に「D&I推進室(現ウェルネス・D&I推進室)」を設置しました。役員や幹部クラスが中心となることで、グループ間でより強い一体感が生まれていると感じています。
施策としては、2030年までのマテリアリティ(重要課題)の目標として、次の5つを掲げました。
①女性マネジメント職層比率(※) 20% 達成
※女性管理職数+女性管理職候補数/全管理職数+全管理職候補数
②男女育児休業取得率100%達成
③人権D&I研修参加率100%達成
④インクルーシブデザインの商品・サービスの提供
⑤1on1ミーティング実施率100%達成
この達成に向けたロードマップとして、2023年から2年ごとにステップⅠ、Ⅱ、ステップⅢを5年間の期間で区切り、それぞれの目標を決めています。
ステップⅠでは「D&I意識醸成」をテーマに、課題の把握と必要な施策の検討・実行を行います。
ステップⅡでは、「D&Iが事業活動に組み込まれる文化形成」をテーマに掲げています。意識づくりだけではなく、それを実際に事業活動に落とし込まなければ意味がないからです。
そしてステップⅢにおいて「イノベーション文化形成」をテーマに、まだ見ぬ新たな価値をより多く創出していくことを目指します。
そこでまず、ステップⅠのキーゴールとして、「年次有給休暇取得目標達成」と「男女育児休業取得率100%達成」を掲げました。この目標は、ボウリングの1番ピンの位置づけで、達成することによる波及効果を狙っています。
「男女育児休業取得率100%達成」に向けた具体策の一つとして、「出生時育児休業(産後パパ育休)」を100%有給化する制度、およびプラス5日間の特別休暇「バース休暇」を導入しました。
育児・介護休業法が改正され、2022年10月から「産後パパ育休」が創設されました。当グループでは改正に伴い独自に最大28日間を有給化し、休業前賃金の手取り額の100%を保障する制度を設けました。これによって、育休取得による経済的な不安を緩和し取得を促進する狙いがあります。
キーゴール達成による波及効果のイメージ
その他のポイントについて教えてください
「女性マネジメント職層比率20%達成」については、採用増による母数増、継続就業促進、マネジメント職への登用促進の3方向からアプローチしていきます。継続就業促進の一環として、4月に女性向け特別休暇制度「エフ休暇」を新設しました。
従来の生理休暇のネーミングを改め、生理だけでなく不妊治療や更年期症状といった女性特有の体調不良などに対象を広げ、月1回取得できるものです。なお、月1回では足りない場合もあるので、同時に有給休暇の積み立てを認め、活用できるよう制度改正も行っています。
「人権D&I研修参加率100%達成」は、全社員がD&Iを正しく理解する上で不可欠です。
「インクルーシブデザインの商品・サービスの提供」は、マンションなど商品・サービスの企画・設計プロセスに障がい者や高齢者といった多様な方々の生の声を反映させ、D&Iを事業活動に組み込み、真に価値のあるものづくりを行うことです。
「1on1ミーティング実施率100%達成」は、1on1を通じて新たな気づきを得るなど、社員一人ひとりの成長支援の機会をつくることを狙っています。
D&I推進方針の発表後、社内からの手応えや、今後の課題について教えてください
2022年9月末に発表したばかりですべてはこれからですが、管理職以上向けの会議体でD&Iについて発表した動画や資料を用いて、自らの部署で実際に今後どのように取り組んでいくかを考える研修を行ったグループ会社があるなど、すでに反響があります。とは言え、経営幹部や管理職の間には理解が進んではいますが、全一般社員への浸透はこれからだと思います。
当グループには毎年600人ほどの社員が入ってきます。そこで、組織の血流を良くすることを目的に、2018年から毎年、CEOやCOOが課長職やリーダーと対話する「ウェルネスミーティング」を行ってきました。これを、グループの全部長職約270人を9人程度の小グループに分けて行っていきます。組織のハブとなる部長職を支援することで、末端までの浸透を図ることを狙っています。
社員からは先ほど触れたボウリングのピンの図が「わかりやすい」と好評です。推進していく上で最も重要なのは、その意義や内容などを全社員にいかにわかりやすく説明し、理解してもらうかです。
これからも全社員にD&I推進が浸透するように、制度だけでなく告知方法も工夫し、グループ全体で力を入れて取り組んでいきたいと考えています。
野村不動産ホールディングス株式会社
代表者:代表取締役社長 兼 社長執行役員 グループCEO 新井聡
設立:2004年6月1日
資本金:1190億5400万円(2023年3月31日現在)
従業員数:7695人(2023年3月31日現在、連結ベース)
本社:東京都新宿区西新宿1-26-2
売上高:6547億3500万円(2023年3月期)
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