定型業務は省人化 HRBPの増員が急務【人事の役割はAIでどう変わるか】

定型業務はAIに任せて、社員をより生産性の高い部門へ再配置する動きが出てきている。人事部門でも定型業務は省人化が進むことが予想される一方、人材の価値を最大限に引き出すために人的資本経営を推進する企業では、人事担当者に新たな役割が求められている。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

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AIに代替される業務に携わる社員を再配置

AIが加速度的に進化し、今ではさまざまなビジネスの現場に浸透している。従来、人間が担っていた定型業務などがAIやデジタル技術によって代替される動きも進行している。今後は職務そのものをAIが担い、仕事を奪われるのではないかという恐怖感も広がっている。

顕著な例が米国だ。2025年7月、マイクロソフトが約9000人の従業員を解雇したように、AIが仕事を奪う現象も発生している。ジョブ型社会の米国では大学新卒の「エントリーレベル」の仕事はAIが代替できることから大卒の求人数が減少し、就職できない若者が増えているとも報道されている。

また、ILO(国際労働機関)は2025年5月、全世界の労働の4分の1がAIに代わる可能性があると公表した。列挙している職業はいずれも従来の定型業務か、それに近い職業だ。

具体的には①データ入力事務員、②タイピスト、③会計・経理事務員、④統計・財務・保険担当事務員、⑤証券・金融のディーラー、⑥金融アナリスト、⑦給与計算事務員、⑧ウェブ・マルチメディア開発者、⑨貸し付けの審査や融資の担当者、⑩一般事務員、⑪人事担当事務員――となっている(「日本経済新聞」2025年12月22日電子版)。

日本でも業種を問わず、多くの職場でAIの活用が進んでいる。ただし、日本では人手不足の状況が続いており、業務の効率化による生産性向上が中心だ。生成AIの活用では、例えば①顧客からの問い合わせ対応に24時間対応可能なAIチャットボットや自動音声対話システムの利用、②社内の情報検索で過去の問題事例や規定をすばやく探しだし、要点の自動抽出・要約、③AIによるプログラミングコードの作成――などだ。

また、AIツールが組み込まれたアプリケーションも数多く販売され、活用によるオフィス業務の効率化も進んでいる。例えば①返信メールの作成、文章推敲、会議議事録の自動生成、データ分析サポート、プレゼン資料作成、翻訳、アイデア出し、情報整理、②文章・資料の作成と画像や動画コンテンツの生成、③膨大なデータ処理による市場や顧客のニーズ調査・分析――などだ。

こうした業務の効率化によって定型業務に携わっている社員をより生産性の高い部門への再配置の動きも進みつつある。

みずほフィナンシャルグループはAIの活用で社内業務を効率化し、全国に約1万5000人いる事務職員を今後10年間で最大5000人減らすと発表している。傘下のみずほ銀行は口座開設や送金手続きに必要な書類の確認、システムに顧客情報の登録手続きをする業務にAIを導入し、資料の読み込みやデータ入力を代替して事務作業を軽減する。それによって余剰となる人員は法人営業向けの情報収集や分析業務、資産運用部門に再配置するという。

人事の定型業務やタレントマネジメントにAIを活用

前述のILOの発表ではAIに代替される職業に人事担当事務員が入っているが、日本の人事部門でも大手企業を中心に人事管理や人事業務の効率化などにデジタル技術や生成AIを駆使したHRテクノロジーが活用されている。

例えば、給与計算や勤怠管理など従来は手作業で行っていた業務のデジタル化や勤怠データの分析による法令順守のアクションを自動で実行するAIエージェントも注目されている。さらに、個々の社員が持つスキル、経験や人事評価などをデータベース化し、育成・異動・配置に活かすタレントマネジメントシステムでもAIが活用されている。

実際に、大手広告代理店の人事担当者は「従業員からの育児休業取得などさまざまな問い合わせに対し、生成AIの機能により自動で回答するチャットボットを使っている」と語る。

●AI活用スキル水準の定義(左)、スキル水準に基づく目標・達成度の評価(右)

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(出所)パーソルキャリア「企業のAI 活用実態と人材戦略に関する調査白書

LINEヤフーは生成AIで月間1600時間以上の人事業務削減を見込む

LINEヤフーは人事総務領域において生成AIを業務補助ツールと位置づけ、2026年春までに新たに10件のAI活用ツールの運用を順次開始するとしている。

同社は「人材育成、労務管理、採用支援、各種申請・問い合わせ対応など人事総務の主要業務に生成AIを活用することで、担当者の業務効率化に加え、従業員の自律的なキャリア形成を支援します。これらの取り組みは、個別業務に閉じた活用ではなく、人事業務全体を横断する形で組織的に展開していきます」(ニュースリリース、2月26日)と述べ、人事総務業務で月間約1600時間以上の工数削減を見込んでいる。

運用を開始する新たなツールの1つが、採用戦略検討のためのデータ整理支援。アンケート等の自由記述を含む定性データのゆれ補正や分類・ラベリングに生成AIを活用し、集計・可視化を効率化し、得られた結果は、人による分析と併せて検証し、採用ブランディング等の戦略策定の精度向上に役立てる。

そのほか、キャリア自律支援AIもある。従業員が自身の経験や関心事項を入力すると、生成AIが社内の公募ポジション情報を横断的に参照し、条件に合う職務を整理・提示し、公募情報の要約や適合ポイントを示すことで、従業員自らのキャリアを主体的に検討できるよう支援するツールだ。

●人事施策や業務効率化に関するAI活用の取り組み

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人的資本経営先進企業の人事部門の体制・役割

こうした支援ツールの登場は人事部門の効率化にとどまらず、既存の人事部門のあり方などに変化をもたらすことにもつながる。現在、人事の最大の使命は「人材の価値を最大限に引き出す」人的資本経営だ。組織にキャリアを預けるのではなく、一人一人がキャリアを自分で考えるキャリアオーナーシップを持って自らのビジネススキルを磨きながらキャリアを形成することで、パフォーマンスや生産性の向上につなげていくことが求められている。

日本で初めて「HRテクノロジー」を命名した慶応義塾大学大学院経営管理研究科講師・山形大学客員教授の岩本隆氏は、人的資本経営先進企業の人事部門の体制・役割は①「人材戦略」、②「ビジネスパートナー(HRBP)」、③「オペレーション」の3つに集約されるという。

③のオペレーションとは定型的な人事業務を指す。岩本氏は「生成AIなどHRテクノロジーで代替できるものは多くあり、クラウドアプリなどHRテクノロジーをフル活用し、人の持つ時間をそれに費やさないようにしていくことだ」と語る。

まさにLINEヤフーの人事総務領域のAI支援ツールなどがこれに当たる。そうなると従来のオペレーション業務の省人化が進むことになるが、「いろんな企業の方と議論していると、半分ぐらいに減らせるみたいな感覚を持っている」(岩本氏)。

①の「人材戦略」とは、経営戦略と連動した人材戦略を担う人たちだ。その要件について「経営戦略と人材戦略を連動させる以上、従来の勘と経験に頼るのではなく、データを駆使した客観性、論理性、定量性が求められる。人材戦略について財務やCFOと対等に議論できる能力が必要になる」と語る。

一人一人の活躍・成長を支援するHRBPを増やす

AIの活用でオペレーション部門の省人化が進んだとしても人事部の人員を減らすことが目的ではない。②の従業員一人一人の活躍や成長をサポートするビジネスパートナーを増やすべきだと岩本氏は指摘する。

「HRBPは従来の部門付人事ではなく、あくまでCHROの代理でビジネス部門に派遣され、全社視点でビジネス部門をサポートする。例えばあるビジネス部門の従業員は別の部門に異動したほうが本人も成長すると思ったとき、部門付人事は絶対離さないが、HRBPは全社視点で異動を提案する役割も担っている」

日本CHRO協会はHRBPの役割をこう定義する。「CHROとともに、①事業で勝つのに必要な組織能力の開発に向けて、人材戦略と組織戦略を立案、提案し、実施する。②社員一人一人が持つ能力や資質を引き出し、活かして活躍できる環境を作る。以上を通じて事業戦略と人材戦略の連動を含む人的資本経営を実現し、最終的には企業価値の向上に貢献する」

HRBPの要件としてビジネスの知識はもちろんファイナンスの知識も不可欠になる。重要なのが「一人一人に寄り添い、成長をサポートするためには人間科学の理解も不可欠」(岩本氏)になる。最近はHRBP養成講座も流行し、転職市場での価値も高まっている。

AIの活用によってオペレーションの省力化にとどまらず、人材戦略部門と連動したHRBPの増員など、本当の意味で人に寄り添った人事にシフトし、従業員のパフォーマンスや活躍をどう支えていくのか。AI時代における人事部門の役割が問われている。


溝上憲文 人事ジャーナリスト

溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。
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人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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