人材採用

要注意!給与の不満から考える転職活動

転職市場は引き続き活況であり、これを機に自身の転職について考える人も多いだろう。その中で「現状より給与アップ」は転職理由ベスト3に入る。しかし転職によって給与は上がるのか、現在の転職市場の状況を踏まえながら解説していく。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

働き方

転職市場は年齢を問わず活況

転職市場が活況を呈している。人手不足を反映し、今年6月の有効求人倍率は1.37倍、正社員も0.88倍(厚労省調査)。6月の転職者の求人倍率も1.80倍と求人が求職者を大幅に上回る状況が続いている(リクルートキャリア調査)。

35歳以上のミドルの転職も増加している。人材紹介経由の転職者は2005年上期を100とすると、2017年上期の36~40歳の転職者数は266%、41歳以上は439%と増大している(日本人材紹介事業協会「人材紹介大手3社転職紹介実績の集計結果」)。

また、リクルートワークス研究所の調査によると、2017年下期の企業の中途採用者の年齢層は40代が39.4%、50代が19.1%を占めている(中途採用実態調査)。 40歳以上のサラリーマンにとって、今は転職の好機といえるかもしれない。実際の給与に不満を持ち、転職して給与を上げたいと思っている人もいるだろう。

パーソルキャリアの「転職理由ランキング2018」(5月24日発表、転職希望者約8万人を対象)によると、40代以上の転職理由のベスト3は「会社の将来性が不安」(21.4%)、「ほかにやりたい仕事がある」(15.8%)、「給与に不満がある」(8.5%)――となっている。

とくに給与に不満がある人は前年度から順位が1つ上がり、8位の「会社の評価方法に不満がある」と答えた人の割合も前年度を上回るなど待遇に不満を持つ人が増えている。

転職しても給与は上がらない?

しかし、転職しても給与が上がる保証はない。ロバート・ウォルターズ・ジャパンの調査(2018年7月24日)によると、いわゆるグローバル人材といわれる優秀層の人でも転職で年収が増えたと回答したのは56%である。日系企業に限定すると、前職に比べて給与が「変わらなかった」と答えた人が31%、「下がった」が24%。計55%の人が上がっていない。

しかも不思議なことに給与が上がらないばかりか、求人企業の提示する給与が全体的に下がっているのだ。エン・ジャパンの「エン転職」では求人企業に経験者と未経験者の年収下限と上限を出してもらうが、2017年9月時点ではいずれも前年同月比97%と下がっている(中央値)。

業種別でもほとんどの業種で低下し、流通・小売は84%、運輸・交通、物流・倉庫87%と人手不足感が高い業種ほど下がっている。前年同月の年収を上回っているのは絶好調の不動産、建設、設備のみである。

最大の理由は未経験層の増加

最大の理由は未経験者の採用比率が高まっていることに加えて、下限年収を下げるケースが多いからだ。

全体の求人数に占める未経験歓迎案件比率(エン転職)は2014年9月の52%から17年9月は75%を占めている。職種別の未経験歓迎案件比率も77%を占め、具体的職種では営業系80%、技術系でも電気・電子・機械が66%、建築・土木が57%を占める。業種や職種を超えた転職者は若年層に限定されるのではと思いがちだが、36歳以上のミドルでも5割ぐらいが異業種に転職し、職種でも2~3割ぐらいが別の職種に転職している。

異業種への転職は事務系に限らない。経験や知識が必要とされていた技術系でも条件緩和が進み異業種への転職が増加している。たとえば建築・土木系は資格や経験を必要とするが、入社後の育成を前提に未経験歓迎を打ち出している。その結果、35歳以上のミドルの転職でも前職の年収に比べて平均100万円程度下がるのが珍しくない状況になっている。

もちろん将来を見据えてキャリアをチェンジしたい、新しいスキルを身につけたいと思って異業種、異職種に転職すれば年収はよくて横ばいか、下がるのが普通だろう。個人にとってはそのことを覚悟しての転職だから問題はないが、未経験業種への転職が全体の賃金を押し下げていることは間違いない。

経験者でも年収が上がらない現実

だが、培ったスキルと経験を武器に同業種、同職種へ転職するとしても必ずしも年収が上がるとは限らない。エン・ジャパンの「ミドルの転職」による「転職コンサルタントアンケート集計結果」(2018年7月26日)では、年収交渉で転職者の希望年収が実現する割合は57%が「5割未満」と回答している。

転職者が実際に希望する年収の上がり幅は「101万円~200万円程度のアップ」が15%、「51万円~100万円程度のアップ」が41%、「~50万円程度のアップ」が14%も存在する。200万円以上(2%)を含めると70%超が年収アップを期待している。しかし現実は厳しい。以下のように希望する年収を獲得している人は少ない。

 「101万円~200万円程度のアップ」6%
 「51万円~100万円程度のアップ」25%
 「~50万円程度のアップ」27%

ちなみに横ばい、下がった人は40%もいる。転職による年収アップへの過大な期待は禁物だ。

給与の低さを理由に転職するのは要注意

転職に際しては「キャリアと資格などの棚卸をし、キャリアプランを明確にしておくべき」「あくまで比較するのは市場。それを意識して常に市場価値を高めることが大事」――という転職コンサルタントのアドバイスが紹介されている。

将来のキャリアプランを描き、日常の仕事の中で市場価値を高めるための知識の習得やスキルを磨いておくことがいかに大事かということだ。気をつけたいのは単に給与の低さに不満を抱いて転職することだ。とくに会社を退職してからの転職探しは失敗する可能性が高いのでくれぐれも注意したい。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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