企業が黒字リストラを実施する理由、退職金プラス特別加算金で想定外の応募者殺到

黒字経営でも中高年社員の早期・希望退職募集が増えているが、応募者が殺到する企業が相次いでいる。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

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パナソニックは人員削減で700億円の収益改善を見込む

近年、黒字経営にもかかわらず人員削減を行う“黒字リストラ”が増えている。黒字リストラで話題になったのが国内外1万人の人員を削減すると公表したパナソニックホールディングスだ。同社の白物家電を手がける事業会社のパナソニックが2025年10月1日から31日の期間に早期退職募集を実施したのを皮切りにグループの削減が相次いでいる。

対象は勤続5年以上の40歳から59歳の社員および定年後再雇用社員だ。人員削減の目的は経営構造改革の一環としての「人員の適正化」であるとし、人員削減により700億円の収益改善を見込んでいる(2025年5月9日発表)。

削減人員は1万人、うち国内は5000人。対象部門は「本社本部」、「家電事業」などとし、「グループ各社で営業部門・間接部門を中心に業務効率の徹底的な見直しを行うとともに、必要な組織・人員数を再設計します」と述べている。ホールディングスの中核であるパナソニックの人員は全体の4割を占めている。

三菱電機は53歳以上が全社員の4分の1を占める

社員の側に立てば黒字であるのに人員を削減するのはなぜと、疑問を抱いても不思議ではない。企業側はその理由をどう説明しているのか。

例えば2025年9月8日に人員削減を発表した三菱電機も2025年3月期決算で連結売上高・営業利益ともに過去最高を更新している黒字企業だ。早期退職募集の対象者は、満53歳以上かつ勤続3年以上が経過した社員および定年後再雇用者であり、応募者は特典として通常の退職金に加え特別加算金が支給される。

三菱電機は実施理由として「イノベーティブカンパニー」への変革を目指しているとし、「この変革実現に向けてビジネスモデルの変革や経営体質の強靱化を当社グループ全体で推進していますが、中長期的な企業価値の向上には、人員構成上の課題に対処し次世代への継承推進が必要と認識するに至りました」と述べている(同社プレスリリース)。

三菱電機の阿部恵成最高人事責任者(CHRO)は日本経済新聞(2025年9月23日朝刊)で興味深い発言をしている。同社は事業構造改革を進めているが、阿部氏は「柔軟に進めるには、明らかに高齢化が進んでいる現在の人員構成では難しい」と述べている。三菱電機は53歳以上が全社員の4分の1を占めている。それがリリースにある「人員構成上の課題」だ。

ただし、社員の高齢化は同社に限らず多くの企業に共通した現象である。総務省の「労働力調査」(2024年)によると、2000年は25~34歳が1296万人と最も多かったが、24年は45~54歳が1404万人で最も多くなるなど日本の構造的問題でもある。それでも実施するのは業績に余裕がある今のうちに削減し、「適正な人員構成」を実現したいという思いがあるのは明らかだろう。

応募者数が想定を上回り、業績を下方修正

ところが蓋を開けて見ると、想定以上に応募者が殺到している。パナソニックHDは2026年2月4日、2026年3月期の連結純利益が従来予想を200億円下回る2400億円になりそうだと発表した。その原因は人員削減の規模が想定していた1万人を上回り、1万2000人になる見通しだという。いうまでもなく早期退職の応募者が増えているからだ。

パナソニックHDだけではない。三菱電機も2026年2月3日、2026年3月期の連結純利益を下方修正している。その原因として、希望退職費用が従来の想定から約600億円増えて、通期で1000億円を計上したためだ。

実際の希望退職者の人数は2026年3月期には約4700人(単体2378人)になる見通しだ。同社は当初から募集人数を定めていなかったものの、やはり想定を上回る人数だったのは明らかだ。同社は53歳以上が全社員の4分の1を占めていたことを考えると、会社としては「人員構成の適正化」というスリム化が進んだことになる。

マツダは応募者殺到で定員で打ち切る方針に変更

応募者殺到で波紋を呼んでいるのが、2025年4月に500人を募集したマツダである。当初、マツダは500人の定員をオーバーしても受け付けるとしていたが、6月の第1回目の募集では早くも410人の応募が殺到。残る枠は90人となったが、同社は10月に入り、突然、定員で打ち切る方針を決定した。

驚いたのは応募希望の社員たちだ。10月末の会社側の説明会では紛糾する場面もあった。そして12月1日朝8時から行われたインターネット上の申請フォームの受け付けでは1分もたたないうちに90人の枠が埋まったという。

こうした応募者殺到の背景には何があるのか。もちろん通常退職金に加えた特別加算金の支給だ。マツダの場合は年齢によって違うが、最大4000万円の割増退職金が支給されたといわれる。これまでの大企業のリストラでは50歳の社員が特別加算金額のピークで、年齢を重ねるごとに下がるのが通例だ。

推測だが、平均的な大企業の50歳の社員の月給は50万円超であり、加算金が3年分(36カ月)とすると1800万円超。通常退職金が約2000万円とすると、確かに4000万円ぐらいにはなるだろう。

50歳以上でも優秀な人は大歓迎の企業も

ただし、割増退職金の魅力だけだとは思えない。もう1つは、人手不足下の再就職環境もあるかもしれない。実はパナソニックの地元の関西の大手エンジニアリングメーカーでは業容拡大を背景に中途採用を実施しているが、パナソニック出身者の応募も少なくないという。

同社の人事担当者は「当社は優秀な方であれば50歳以上の人も大歓迎です。実際に人員削減中のパナ出身の50代のエンジニアからの応募も少なくありません。50歳を過ぎて他の会社に転職するのは複雑な心境でしょうが、当社で能力を発揮していただきたいと考えています」と語る。

早期退職者募集への応募殺到の根本的な理由として、もしかしたら会社への失望と落胆もあるかもしれない。もとより募集対象の中高年社員は、経験と知識を武器に長年会社に貢献してきたという自負を持っている人も多いだろう。

しかし、そうした人たちを狙い撃ちにする会社のやり方に憤りや失望を感じたとしても不思議ではない。「会社がそういう姿勢なら、いっそ辞めてやる」という心境になるのは理解できる。


溝上憲文 人事ジャーナリスト

溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。
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人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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