アドラー心理学とは、オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870年2月-1937年5月)が提唱した心理学の理論で、個人心理学(individual psychology)が正式名称になります。しかし「個人心理学」と表現しては、アドラーが英語の「individual」を「それぞれ異なる個性を持つ」「分けられない」という意味で用いた「個人とは分割できない存在である」という真意が伝わらない可能性があるため、日本では一般的に「アドラー心理学」と呼ばれます。「勇気づけの心理学」ともいわれ、ビジネスシーンや子育てにも応用されています。
アドラー心理学は、「目的論:人の行動は過去に起因するのではなく、未来の目的に向けた思いが働いている」をはじめとする5つの理論を前提としています。さらに「勇気づけ」や「共同体感覚」という手法によって成り立っています。
たとえば「周囲と信頼関係を築いて共同体感覚を持つことで、他者から承認されたいという気持ちがなくなれば劣等感も持たなくて済む。そうなるためには相手との対人関係を構築するうえで困難を克服するための力を与える『勇気づけ』が必要になる」といったものです。実は人間関係を構築して共同体感覚をもつことが大切だと説いているため、「個人心理学」では誤解されるかもしれないことから「アドラー心理学」と呼ばれるようになりました。
仕事でも相手に対して、アドラー心理学を応用することによりポジティブ思考にすることで、自らやる気になることが期待されます。ただし自分の生き方は自分で変えられるという理論を前提としているため、相手が「自分を変える必要がない」というこだわりを持っている場合は慎重に持ちかける必要があります。
近年は子育てでも、アドラー心理学を応用するケースが見受けられるようになりました。子どもを感情にまかせて叱る、褒めるのではなく、「勇気づけ」の声かけによる信頼関係を築くことが期待できるといいます。
なおアルフレッド・アドラーが生んだアドラー心理学は、時を経て、哲学者・岸見一郎氏とライター・古賀史健による書籍『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(2013年発売)で解説されて世界的なベストセラーとなりました。日本では2015年にサスペンス風な演出で舞台化され、2017年に刑事ドラマ化されたことでさらに広く知られるようになりました。