人材採用

インターンシップを人材育成につなげる インターンシップの意義について詳しく解説【インターンシップ活用の多様化と留意点】

企業の人手不足が加速する中、人材の獲得競争を勝ち抜くためには様々な採用チャネルを駆使して採用活動を行う必要があります。今回はその中でも重要性が増すインターンシップについて、KKM法律事務所代表の倉重公太朗弁護士にインターンシップに関する文部科学省・厚生労働省・経済産業省による三省合意の改正を契機とした、政府の考え方や企業としての向き合い方について全3回に分けて解説してもらいます。

今回はインターンシップの意義と留意事項について解説します。(文:倉重公太朗弁護士、編集:日本人材ニュース編集部

前回の記事はこちら▼
第1回「インターンシップを採用にどう活かす? インターンシップの4タイプを詳しく解説」

インターンシップ等の意義

ここで、三省合意で述べられているインターンシップ等の意義について改めて整理します。

大学等及び学生にとっての意義

●キャリア教育・専門教育としての意義
●教育内容・方法の改善・充実
●高い職業意識の育成
●自主性・独創性のある人材の育成

三省合意において、インターンシップ等の目的は、「学生がその仕事に就く能力が自らに備わっているかどうかを見極める」こととされているため、キャリア教育・専門教育の意義があることは論を待たない。教育内容の充実という点についても、教育研究内容と社会での実体験を結びつけることにより、大学の教育内容の充実と共に、学生自身にとっても新たな学習意欲の獲得が期待されます。

また、職業意識との関係では、インターン等により、学生が自己の職業適性や将来設計について考える機会となり、主体的な職業選択や高い職業意識の育成が期待されると共に、実体験を通じて「入社後ギャップ」等による早期離職を防止し、就職後の職場への適応力や定着率の向上にもつながると期待されています。

最後に、人材育成という観点では、企業等の現場において、企画提案や課題解決の実務を経験したり、就業体験を積み、専門分野における高度な知識・技術に触れながら実務能力を高めることは、課題解決・探求能力、実行力といった「社会人基礎力」や「基礎的・汎用的能力」などの社会人として必要な能力を高め、自主的に考え行動できる人材の育成にもつながると期待されます。

また、企業等の現場において独創的な技術やノウハウ等がもたらすダイナミズムを目の当たりにすることにより、独創性と未知の分野に挑戦する意欲を持った人材の育成にも資すると考えられています。ただし、インターン等でそこまでの「ダイナミズム」なるものを体験できるのかについては疑問なしとしませんが、いずれにせよインターンシップ等の期間だけではなく、これを契機として長期的な人材育成に繋げていくことが望まれます。

企業等における意義

●実践的な人材の育成
●大学等の教育への産業界等のニーズの反映
●企業等に対する理解の促進、魅力発信
●採用選考時に参照し得る学生の評価材料の取得

前述の通り、インターンシップ等の本来目的はキャリア教育的側面にあるとされ、これは単なる座学ではなく、企業実務に根ざした教育が求められていることからすれば、実践的な人材育成に繋がる意義は間違いないと考えます。

また、インターンシップ等により、大学等と企業等の接点が増え、相互の情報の発信・受信の促進につながり、企業等の実態について学生の理解を促す一つの契機になるでしょう。特に学生にとって知名度がない中小企業やスタートアップ企業等にとっては、企業のことを学生に知ってもらうという意味で意義が大きいものと思われ、中小企業等の魅力発信としても有益な取組といえます。

さらに、インターンシップ等の取組を通じて学生が各企業等の業態、業種又は業務内容についての理解を深めることによる就業希望の促進が可能となることや、受入企業等において若手人材の育成の効果が認められます(逆の意味では、学生自身のイメージと違っていた業種・業務を知ることもでき、結果的に入社後ギャップ等による早期離職の防止に繋がる)。また、学生のアイディアを活かすような企業等以外の人材による新たな視点等の活用は企業等の活動におけるメリットにもつながるため、これらの企業等の受入れの意義を大学等及び企業等において共有することが重要です。

最後に、採用選考時に参照する評価材料という意味においては、三省合意により新たに整理されたインターンシップ(タイプ3及びタイプ4)において、学生が実際の現場で就業体験を行うことにより、企業にとっては、学生の仕事に対する能力を適正に評価するとともに、採用選考活動時における評価材料を取得することができるとされています。もっとも、これらは法的な根拠に基づく規制ではないため、すでに述べた通りタイプ1など(タイプ2でも採用選考の評価材料とすることは理論的には不可能ではないが、現実的には大学との関係で採用選考に用いることは難しいだろう) 、タイプ3・4以外のインターンシップ等においても採用選考にかかわる活動を行うことは可能であると筆者は考えています(ただし、個人情報の取得及び利用目的の提示は必要となる)。

受け入れ企業の留意事項

前提(三省合意の位置づけ)

繰り返し述べているとおり、三省合意は何ら法的根拠に基づくものではなく、企業の採用選考に対して法的強制力を及ぼしうるものではありません。さらに、採用の自由は憲法上の権利(憲法22条)であり、レピュテーションリスクは別として、インターンシップ等を採用選考に用いることに法的制約はないというのが大前提です(そのため、一切何らの制約無くインターンシップ等を採用選考に用いている例もあり、これは違法ではありません)。

ただし、国が推進しようとしていることと真っ向から反するには、それなりの覚悟(多少の批判には動じない信念)が必要です。つまり、何のために、インターンシップ等を採用選考の一環として行うのか、その説明が堂々と出来ることが重要です。

そもそも、採用活動の一環であるインターンシップ等にすら、政府から箸の上げ下げまで指図される、というのは自由な企業活動と対極にあります。自社の採用活動において必要だ、という考え方で大儀に反しないのであれば、堂々とこの「三省合意」で整理されているインターン等とは異なるものでも採用選考に利用すべきです。

ただし、そこで重要なのは堂々とやることです。採用選考に利用しないと明らかにしておきながら、裏でこっそりと採用選考に用いることは、長期的には信用を落とす結果を招くでしょう。要するに、学生に対して募集要領等で自社のインターンシップ等に対する考え方、目的を適切に説明できることが重要です。

「三省合意」におけるインターンシップの留意事項

取組に対する基本認識

三省合意では、インターンシップ等は「将来の社会・地域・産業界等を支える人材を産学連携による人材育成の観点から推進するものであり、自社の人材確保にとらわれない広い見地からの取組が必要である。また、こうした観点から、長期的な視野に立って継続的にそれらの取組を受け入れていくことが望ましい。学生を受け入れる企業等において、こうした趣旨を十分理解して対応することが、今後のそれらの取組の推進において極めて重要である」とされています。

もっとも、インターンシップ等は人材育成の観点でのみ実施するものなのではなく、企業の採用選考の観点でも重要な意義を有していることを忘れてはいけません。これらの採用選考活動を制約しなければならない法的根拠がないことは既に述べたとおりです。

実施体制の整備

「インターンシップを始めとしたキャリア形成支援に係る取組は、企業等の場における学生に対する教育活動であり、十分な教育効果をあげるためには、企業等における実施体制の整備が必要である」とされているが、前述の通り、企業の採用選考においても(単に企業が選考するという意味のみならず、学生側から選ばれる企業になるという意味においても)重要な意義を有します。

経費に関する問題

三省合意において、インターンシップ等の「経費負担や学生に対する報酬支給の扱いなど経費に関する問題がある。現状においては、こうした経費の扱いに関しては多様な例が見られるとともに、実施の形態には様々なものがあるため、基本的には、個別に大学等と企業等が協議して決定することが適切」とされており、後述の通り、労務型か教育・体験型か、費用負担(交通費、実費、保険費用、体験にかかる費用等)の項目などは明確化しておくべきです。

安全、災害補償の確保、ハラスメントへの対応

三省合意では、「実施中の学生の事故等への対応については、大学等、企業等の双方において十分に留意する必要があるが、現場における安全の確保やハラスメントへの対応に関しては、企業等において責任をもった対応が必要である」とされています。特に、ハラスメントについては「就活ハラスメント」として厚生労働省も大々的に防止に取り組んでいる ために、担当者の教育やハラスメント行為を行った者に対する懲戒処分の告知などを含め注意が必要です。

そもそも、労働者性が認められる労務型のインターンシップであれば企業が安全配慮義務を負うことは当然であるが(労働契約法5条)、安全配慮義務は、労働契約関係についてのみ発生するものではなく、判例上「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきもの」とされています(最三小判昭50.2.25)。

そのため、労働契約関係の無い体験・教育型のインターンシップであったとしても上記「特別な社会的接触の関係」にあるといえるため、安全配慮義務が肯定される場面はあります(例えば、工場見学など)。

したがって、万一の災害補償の確保に関しても、大学等と事前に十分協議し、責任範囲を明確にした上で、それぞれの責任範囲における補償の確保を図ることが重要となります。
(参考)厚生労働省「今すぐ始めるべき就活ハラスメント対策!」

労働関係法令の適用

インターンシップ等の実施にあたり、受け入れ企業と学生の間に使用従属関係等があると認められる場合など、労働関係法令が適用される場合があります。これは、労働者性の判断基準という問題であるが、労働基準法上 の「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者(労基法9条)とされ、具体的には、使用従属性(指揮監督下の労働、報酬の労務対価性)や労働者性の判断を補強する要素(事業者性、専属性、拘束性等)等 から判断されます。

この点、インターンシップ参加者の労働者性についても厚労省通達があり「一般に、インターンシップにおいての実習が、見学や体験的なものであり、使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合には、労働基準法第9条に規定されてる労働者には該当しないものであるが、直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生との間に使用従属関係が認められる場合には、当該学生は労働者に該当するものと考えられ、また、この判断は、個々の実態に即して行う必要がある。」(平成9年9月18日付け基発第636号)とされています。

つまり、インターン参加者を当てにして実際のシフトに組み込んだり、指揮命令を受けて実際に成果に繋がる労働を義務的に行うケースについては労働者性が認められ得ることとなり、労基法・最低賃金・労災補償など、各種労働関連法令の適用があることとなります。

適切な運用のためのルールづくり

三省合意では、インターンシップ等により、企業等と大学等や学生との結び付きが強くなり、採用の早期化、指定校制などにつながるのではないかといった懸念も指摘され、実施に当たっては、学生の受入れの公正性、透明性を確保するための適切な運用のためのルールづくりが必要とされています。

ここで重要なのは、採用が早期化すること自体が悪なのではなく、隠れてコソコソ採用活動を行ったり、採用選考に用いないと言いながら用いるなどが非難されるべきであり、堂々と企業がインターンシップの目的を明示して行う分には差し支えありません。

タイプ3のインターンシップの実施時期

三省合意では、タイプ3のインターンシップについては、大学等の正課及び大学院博士課程を除き、卒業・修了前年度ないし卒業・修了年度の長期休暇期間中に実施するものであり、学生の学修時間の確保に十分な配慮が必要とされています。

【インターンシップ等の取組推奨時期】※法的拘束力はなく、あくまで目安

文部科学省、厚生労働省、経済産業省「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る
取組の推進に当たっての基本的考え方」

三省合意の法的根拠と企業対応

何度も述べている通り、三省合意には法的強制力は無く、企業の採用の自由という点からすれば、その基本的考え方を守るも守らないも自由です。もっとも、企業がインターンシップの位置づけを曖昧にし、学生に対して、「選考に使われるかも」など無用の混乱を与えることは避けるべきです。

そのため、インターンシップ等を実施する企業としては、そもそもの目的(選考に用いるのか、用いないのか、何のために行うのか)がはっきり分かるように明示すべきであり、明示した以上はそれに則り学生に対してフェアに行うべきことが基本となります。

したがって、企業がインターンシップを設計するに際しては、まずどのような目的で行うのか(職場見学・体験・説明会的なものなのか、選考の一部なのか)を明確にし、実施担当者含めて意思統一をしてから実施すべきです。

続きはこちら▼
第3回「インターンシップを実施する際の留意点とは 労働者性有無による2分類について詳しく解説」


倉重公太朗(弁護士)

KKM法律事務所 代表弁護士/KKM法律事務所 代表弁護士。経営者側労働法を多く取り扱い、労働審判・仮処分・労働訴訟の係争案件対応、団体交渉(組合・労働委員会対応)、労災対応(行政・被災者対応)を得意分野とする。企業内セミナー、経営者向けセミナー、人事労務担当者・社会保険労務士向けセミナーを多数開催。著作は20冊を超え、近著は『HRテクノロジーで人事が変わる』(労務行政 編集代表)、『なぜ景気が回復しても給料が上がらないのか』(労働調査会 著者代表)等。
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