対日投資拡大でバイリンガル人材の採用激化

外資系企業の日本への投資は拡大傾向が続いており、バイリンガル人材の需要が高水準となっている。海外事業を強化する日系企業とも採用で競合するケースが増えており、バイリンガル人材の給与水準や採用コストが上昇している。(文:日本人材ニュース編集部

対日投資拡大でバイリンガル人材の採用激化

バイリンガル人材の給与水準や採用コストが上昇

今年度に入ってバイリンガル人材の採用はより一層難しくなっている。「年俸500万円のバイリンガルのスタッフを年俸800万円で引き抜かれた」(上場企業幹部)というようなケースも出てきている。

経済産業省の「外資系企業動向調査」によると、外資系企業の日本のビジネスコストにおける阻害要因については「人件費」と回答した企業が71.3%と最も多く、前年から1.9ポイント上昇した。日本人を採用確保する上での阻害要因は、1位が「英語でのビジネスコミュニケーションの困難性」(56.3%)、2位が「給与等報酬水準の高さ」(53.3%)で、この二つが最大の悩みだ。

さらに、3位以下には、「労働市場の流動性不足」(34.1%)、「募集・採用コスト」(31.9%)、「厳格な労働規制」(22.4%)などが挙がる。特にバイリンガル人材の採用ニーズが高まることによって、「募集・採用コスト」(前年比2.7ポイント増)は年々上昇している。

外資系人材紹介会社ロバート・ウォルターズ・ジャパンがまとめた「グローバル給与調査」によると、2016年はバイリンガルで専門的な分野での知識・技術を持つ人材の給与に著しい伸びが見られたことが明らかになっている。例えば、セキュリティ/リスク関連のITスペシャリストの給与は前年から最大25%も上昇した。

デイビッド・スワン同社社長は、7月末に発表した17年第2四半期採用動向レポートにおいて、「少子高齢化などによる人材不足は加速しているが、英語・日本語の両言語に堪能で特定の専門性を備えたバイリンガル人材の需要は高止まりの状況が続いている。このスキルセットを持ち合わせた人材の供給が需要に満たないことから給与水準の増加は下半期も続いている」と解説している。

専門性の高いバイリンガル人材は争奪戦

●バイリンガル人材の需要

日本人材ニュース
(出所)ロバート・ウォルターズ・ジャパン「グローバル給与調査2017」

バイリンガルの求人倍率は多くの職種で高水準

実際に、外資系企業が必要とする専門性の高いバイリンガル人材は奪い合いの状況となっている。バイリンガル人材の求人サイト「Daijob.com」の転職求人倍率(2カ国語以上の言語でビジネスレベル以上のスキルを条件とする求人と、そのスキルを持つ転職希望者の需給バランス)は6月末の時点で、「電機(電気/電子/半導体)技術系」(7.10倍)、「メディカル/医薬/バイオ/素材/食品技術系」(6.17倍)、「マーケティング/PR」(4.71倍)、「IT技術系」(4.45倍)、「総務/人事/法務」(3.96倍)、「営業」(3.28倍)、「財務/会計」(3.24倍)と、多くの職種で高水準だ。

大手人材会社パーソルキャリア(旧インテリジェンス)の人材紹介サービス「バイリンガル リクルートメント ソリューションズ」のナイーム・イクバルマネージング・ディレクターは、「自動車、化学、機械、コンサルティングなど、幅広い業種の外資系企業からバイリンガルの求人が出ている。特に、本国とのスムーズな連携や日本の優れたメーカー、サプライヤーとの関係を強化するために、技術が分かり、コミュニケーション力の高い人材を求める企業は多く、外資系企業の高い採用意欲は当面継続する」と見込んでいる。

●職種別グローバル転職求人倍率

日本人材ニュース
(出所)ダイジョブ・グローバルリクルーティング「グローバル転職求人倍率」

外資系企業の日本での設備投資や雇用が拡大

バイリンガル人材の採用が難しくなっている背景には、外資系企業の日本での投資が伸びていることがある。外資系企業の設備投資額は2013年度が9995億円、14年度が1兆1394億円、15年度が1兆5928億円と、3年連続で増加している。国内の外資系企業数は16年3月末時点で3410社。前年から181社増えた(経産省調べ)。

政府は戦略特区の優遇措置などで2020年までに対日直接投資倍増を打ち出しており、外資系企業を積極的に呼び込む考えだ。

欧米企業だけでなくアジア企業の日本進出が増えており、例えば、中国の通信機器大手ファーウェイは年内に日本で大型工場を新設する予定で日本の技術を取り込むための採用を強力に進めている。日本での研究開発、営業・サプライチェーンの体制強化、日系企業への資本参加やアライアンスなどの動きが活発になれば人材需要はさらに拡大する。

外資系企業の15年度の常時従業者数は62.4万人で、製造業の従業員数がほぼ横ばいで推移する一方、非製造業は過去5年で10万人以上増加した。中国や東南アジアからの観光客が至る所で日本製品を買いまくる“爆買い”は落ち着いたように見えるが、今年上半期の訪日客数は前年同期比17.4%増の1376万人に達し、訪日外国人観光客は増え続けている。

免税小売店の新規出店や売り場面積の拡張などが相次ぎ、多言語対応が可能な販売員や商品説明のためのコールセンターなどでインバウンド需要に伴う人材ニーズが拡大している。

今後1年間の雇用見通しについても3割以上の外資系企業が増員を予定している。

こうした外資系企業の採用動向について、人材紹介大手ジェイ エイ シー リクルートメントの松園健社長は、「日本は依然として世界有数の消費市場であり、充実したインフラが整っている点も外資系企業にとって魅力的だ。日本にフィットするサービスを提供している外資系企業は事業を拡大させており、大規模採用を行っている。高齢社会で需要が見込まれる医療サービスやIT分野のスタートアップの参入も増えている」と話す。

外資系企業の日本への投資は拡大傾向

●設備投資額の推移

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(出所)経済産業省「外資系企業動向調査」

●今後1年間の雇用見通し

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(出所)経済産業省「外資系企業動向調査」

海外事業を強化する日系企業と人材採用で競合

さらに、外資系企業の人材採用を難しくしている理由の一つが、海外事業を強化する日系企業の増加だ。海外売上高比率が6割を超える日系企業は、「情報通信機器/電子部品・デバイス」(17.0%)、「商社・卸売」(16.8%)、「自動車/自動車部品/その他輸送機器」(15.0%)、「精密機器」(12.9 %)、「電気機械」(12.5%)などの業種で軒並み10%を超えている(JETRO調べ)。

今後3年程度の海外進出方針も「拡大を図る」企業の割合が60.2%(前年53.3%)と4年ぶりに6割を超えた。大企業では66.3%が「拡大を図る」と回答し、12年度以降続いた鈍化傾向から増加に転じた。中小企業も「拡大を図る」企業が前年の50.5%から58.5%へと大きく増加した。

業種別では、「小売」(77.5%)、「医療品・化粧品」(69.5%)、「電気機械」(68.7%)、「通信・情報・ソフトウエア」(68.7%)、「自動車/自動車部品/その他輸送機器」(66.4%)などで海外進出意欲が高まっている。

これらの企業の海外ビジネスの課題は「海外ビジネスを担う人材」が55.3%と最も多く、3年前の調査に比べ15ポイント近く増加している。海外との取り引きにかかわる人材の確保は日系企業の採用における優先課題となり、外資系企業とバイリンガル人材の採用で競合するケースがますます増えてくる。

ダイレクト・リクルーティングの成功には、専任のリクルーターが必要

外資系企業では本社から日本の募集・採用コストの高さを指摘され、採用担当者が候補者に直接アプローチする「ダイレクト・ソーシング」の導入に取り組む企業が増加している。

ダイレクト・ソーシングとは、企業が人材紹介会社などを介さずに直接人材を集め、採用することをいう。具体的には、①採用担当者が候補者を集める、②採用担当者が直接候補者にコンタクトして面談に導く、③面談して採用する、といった段階を踏む。面談から採用までは、これまで通り企業が行っていたところで、異なるのは人材紹介会社などが行っていた「候補者集め」と「候補者とのコンタクト」を自社で取り組む点だ。

候補者集めでは、従来からの求人広告の掲載以外にLinkedInなどSNSの活用、社員による候補者紹介制度の確立、採用ホームページの刷新、候補者データベースの構築などがある。人材が必要になったときには、これらを活用して最適な候補者を抽出する。

候補者のリストアップが終わったら、次に候補者とのコンタクトだ。メールや電話で連絡を取るが、候補者は転職希望者でないこともあるため慎重に接触して面談を説得する。

求人サイトを利用する場合は、登録者にスカウトメールを出す機能があるのでふさわしい人材がいたならばこれを活用する。この場合は相手が転職希望者であるためコンタクトは容易だが、他の企業や人材紹介会社も同じデータベースを閲覧して利用できるため他社より早く連絡を取ったり、候補者から返信があるような関心を持たれるスカウトメールを出して面談に導く。

このようなさまざまな採用テクニックや社内の仕組みづくりが必要なため、これまでのリクルーティング体制では不十分なことが多い。採用以外の仕事も抱えている人事担当者が常に人材データベースを見たり、声を掛けた候補者に次々と会ってスクリーニングするような時間がないためだ。

一部の大手外資系企業ではダイレクト・ソーシングに取り組むために専任のリクルーターを採用して成果を上げているが、そうした企業でもバイリンガル採用は困難を極めており、人材紹介と併用して人材を確保しているのが現状だ。

「英語力の低さ」と「給与の高さ」が採用の悩み

●日本人の人材を確保する上での阻害要因

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(出所)経済産業省「外資系企業動向調査」

人材コンサルタントとの関係強化や新たな採用手法の活用で採用力強化

必要な人材を確実に採用するためには、人材サービスを有効に活用していくことが欠かせない。例えば人材紹介会社は成功報酬だからといって専門分野を理解せずに数十社に求人を出していては、時間が無駄になるばかりで必要な人材を採用できない。

候補者の絞り込みをする人材コンサルタントには、求人内容や背景、社風やキャリアパスなどを正確に伝える必要がある。付き合いの浅い人材紹介会社にメールで求人案件を一斉送信しても意図はまったく伝わらない。人材紹介各社の特徴を理解し、優先的に人材を探し出してもらえる工夫が必要だ。

複数の外資系企業で採用コンサルタントとして活動するキャリアエピソードの備海宏則社長は、「優れたコンサルタントを採用のパートナーとするためには、人材紹介会社やコンサルタントの情報を常に収集しておく努力が欠かせない。コンサルタントと定期的にミーティングを行うなど、信頼関係を築くための地道で継続的な活動が採用担当者には求められる」と話す。

一般的にヘッドハンティングといわれるリテーナー型のエグゼクティブ・サーチには、コンサルティングによって必要な人材要件を明確化し、広く業界の人材情報を集めて候補者を絞り込むサーチや採用したい他社人材にアプローチする指名サーチなどがある。

リテーナーとは着手金を支払う方式でサーチに失敗した場合は着手金は戻らないため、利用にあたってはコンサルティング方針やサーチの手法をしっかりと確認して信頼できるサーチ会社を選ばなければならない。

今、日本の中途採用市場は人材争奪戦で、従来の採用手法では応募が集まらない。複数の企業からオファーを受ける候補者も多く、内定辞退も続出している。一方で採用担当者は採用業務の効率化や採用のスピードアップも図らなければならない。

こうした課題を解決するため、採用チャネルの多様化やプロセスの最適化などを支援する新しい手法を提供するサービスも出てきている。必要な経験やスキルを持った人材を獲得するためには、様々な採用手法を適切に組み合わせて自社の採用力を高めることが急務となっている。

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