
アビリタ
柴山 甲子朗 代表
コーチングや1on1が広がり、多くの企業で管理職研修が実施されるようになりました。それでも、「部下が本音を話さない」「対話が定着しない」「研修後は元に戻ってしまう」といった相談を、人事責任者の皆さんからいただきます。私が本書を書こうと思ったきっかけも、そこにありました。
私は理系出身のエンジニアとして社会人生活を始めました。図面どおりに設計すれば、機械は期待どおりに動く。条件が同じなら、結果も同じになる世界です。その後、営業、マネジメントを経験し、現在は上場企業を中心に、経営者や役員へのエグゼクティブコーチング、管理職研修に携わっています。
しかし、人の世界は違いました。正しい戦略を伝えても、人は動かない。正しい質問をしても、部下は本音を話さない。私自身、正しさで人を動かそうとして空回りし、相手との距離を広げた経験があります。
試行錯誤の中で、たどり着いた答えがあります。人は、質問によって動くのではなく、リーダーの在り方によって動く、ということです。
どれほど優れた質問も、信頼や敬意がなければ、単なるテクニックで終わります。部下は言葉だけでなく、表情や声のトーン、沈黙や待つ姿勢まで含めた在り方を感じ取っています。
そのため本書では、質問の型だけでなく、「信じる力」「期待」「個性を尊重する姿勢」「境界線」など、問いを支えるリーダーシップの土台にも多くのページを割きました。
私は、管理職研修とエグゼクティブコーチングは、組織変革の両輪だと考えています。管理職が問いを磨き、経営層が在り方・ビジョンを磨く。その両方があって初めて、組織の対話文化は変わり始めます。
「研修は良かったのですが、また元に戻ってしまいました」。ある人事責任者の言葉が忘れられません。研修は人を変えるきっかけになります。しかし、戻る場所が変わっていなければ、人は元に戻ります。問いとは、相手を変える技術ではなく、相手の可能性を最後まで信じ続けるリーダーの覚悟です。
本書が、管理職育成と組織づくりを考える一助となれば幸いです。

柴山甲子朗 著
セルバ出版
1,800円+税












