ウィンスリー
黒瀬 雄一郎 代表取締役 ヘッドハンター
【PROFILE】慶応義塾大学経済学部卒業。2003年電通初のデジタル専業代理店立ち上げを行い、営業&マーケティング責任者を歴任。約100人のメンバー採用を行う。2012年デジタル分野専門会社ウィンスリーを立ち上げ。
2020年はDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を見ない日は無いくらい注目されるキーワードとなりました。コロナ禍によって、ECの購買やデジタル映像視聴、オンライン会議が増えるなど従来以上にデジタルへの恩恵を身近に感じたのではないかと思います。
企業もデジタルへの意識・投資が増えてきているのは自然の流れであり、DX分野支援専門のウィンスリーにも数多くのデジタル採用についての問いわせを頂きました。
しかしDXの本来の意味は、EC構築したり、会議をzoomにしたり、判子をデジタルにするといった「個別のデジタル化」ではなく、企業や働く社員、消費者すべてにインパクトのある変革であり、ビジネスモデルや企業カルチャーを変えていくものなのです。つまりDX人材とはそういった企業全体のグランドデザインを見据え、したたかに実行できる人物であるため、容易に採用することはできないはずです。
しかし、採用企業の求人を見ると、既述の「個別のデジタル化」も広義でDXとして捉えている傾向も多いため、今回はそれらも含めてDXとし、それにまつわる職種の方をDX人材と定義して動向を述べていきます。
当社では、企業からのDX求人についての問い合わせ数が昨対比25%ほど増えました。理由は既述の背景により、デジタル投資への遅れが企業の命運を左右するという危機感がより醸成されたからでしょう。
しかし問い合わせの多くが、採用すべき人物像が不明瞭であったり、そもそも求人票がなかったり、求める待遇に大きなギャップがあるなど、DX人材採用の課題が露呈してきています。ある企業のオファーでは、待遇を上げるために、契約社員や業務委託など正社員以外の特別処置として対応したケースもありました。
2021年はこのあたりの採用ギャップもマーケットにあわせて柔軟に平準化されていき、優秀な求職者の熾烈な取り合いの様相になっていくと思われます。それだけではなく、DXへの推進が遅れている企業は採用どころか、優秀な社員の離職という難しい局面になってくるのではないでしょうか。
コロナ禍により転職市場には中々出てこなかった優秀な求職者が出てきています。所属企業の業績悪化やDXへの遅れに危機感を感じているデジタル分野のアーリーアダプターの社員の方たちです。
引く手数多の転職活動ができますが、中にはプロのDX人材ということで独立し、業務委託で仕事を受けるケースも広がっていくでしょう。2020年末に実施した当社のDX人材向けアンケート(※)では、「良い案件があれば個人事業主として活動したい」がなんと53%の回答がありました。
事業会社と支援会社(コンサル、広告会社、SIなど)ではポイントが異なります。
事業会社では、DX自体が既存社員からすると自身の仕事を奪われかねないものとして抵抗勢力になるケースもあります。現在もそうですが、せっかく優秀なDX人材が入社しても社員の協力を得られず何もできないまま短期で離職ということも散見されています。つまり「どれだけ本気でDXを会社で取り組む姿勢があるのか」、ここをきちんと面接の段階から異口同音で強く伝えていく必要があります。
支援会社には、DX支援といっても従来のシステム売りだけの企業もありますので、その企業に入社することが、個人の市場価値の高いキャリアステップにつながるのかを明示させる方が良いでしょう。
また共通して言えるのは、条件や働き方なども柔軟に提示できるかどうかも採用成功の秘訣です。当社アンケート(※)でも、全体の47%が、現年収は適正より100万以上低いと回答しています。
(※)2020年12月 株式会社ウィンスリー実施分「DX人材」向けキャリアインサイトアンケート