【ポストコロナの人事改革】経済再起動で人材投資が始まった

新型コロナウイルス感染拡大を防ぐワクチン接種がようやく進みつつあり、経済活動の回復が見込まれる。DX(デジタルトランスフォーメーション)をはじめとする変革を実現するためには、高度なスキルを備えた人材の獲得や社員の能力開発が欠かせず、ポストコロナの事業成長を担う人材への投資が始まっている。

ビジネスモデルの変革に向けた人材ニーズが拡大

 ポストコロナの事業成長に向けた企業の積極的な投資姿勢が鮮明になってきている。日本経済新聞社がまとめた2021年度の企業の設備投資動向調査によると、全産業の計画額は前年度実績比10.8%増える見通しで、新型コロナウイルス感染拡大前の水準に回復する。

 そして、事業活動を支える即戦力人材の獲得に企業が動き始めている。リクルートが人事担当者に聞いた中途採用動向調査によると、2021年度の中途採用を増やす企業は23.0%。従業員規模別に見ると、5000人以上の企業の27.3%、1000~4999人の企業の25.6%が中途採用を増やす計画で、中堅・中小企業に比べて採用を増やす企業の割合が高く、これまでのビジネスモデルのままでは存続が難しくなるという大手企業経営者の危機感は高まっている。

 企業の変革に向けた取り組みが本格化する中で、顕著になっているのが外部から企業を支援するコンサルティング会社や投資ファンドの人材不足だ。

 人材紹介会社キャリア インキュベーションの中村直樹コンサルタントは、「企業からコンサルティングファームに寄せられる案件には、コスト削減や会計システム導入のようなオペレーションの改善に関するものも依然多くありますが、特に昨年後半からは、DX、脱炭素、SDGsといった企業に対してビジネスモデルの変革を迫る“戦略案件”が数多く出てきています。そのため、コンサルティングファーム各社の採用意欲は以前にも増して積極化してますし、特に戦略案件の実行部隊を率いるマネジャークラスの人材を奪い合っている状態です。また、プライベートエクイティファンドやベンチャーキャピタルによる投資も活発で、投資先企業に送り込むための経営人材のニーズも高まっています」と話す。

外部人材を柔軟に受け入れて、プロジェクトを推進

 コロナ禍によってDX推進に現実味が増したことで、さまざまな業種にわたって早急にデジタル人材を獲得する必要が生じている。

 デジタル分野専門の人材紹介会社ウィンスリーには、業種を問わず大手企業からの求人が寄せられている。同社の黒瀬雄一郎代表は「求人は増える一方ですが、優秀な候補者は市場に少なく、マッチングが叶わないケースが出てきています。一方、コロナ禍や大手企業の雇用が不安定になったことにより、優秀な人材の中には転職よりも個人事業主として独立したいという声があり、業務を請けられないかという希望が急増しています」と、正社員採用だけにこだわっていると人材確保が難しい現状を説明する。

 同社は3月から、プロジェクトベースでデジタル人材を企業に常駐させる業務委託支援サービス「Digital Flex(デジフレ)」を開始し、企業からの問い合わせが相次いでいる。デジタル人材の採用競争で高騰している給与水準でのオファーが難しい企業や、DXのテストプロジェクトのための人材をスポットで獲得したい企業からの依頼が目立つ。特に大手企業では複数のプロジェクトが同時並行で進んでいる場合が多く、それぞれの分野で高い専門性を持つ人材を柔軟に活用したいというニーズが広がっている。

プロジェクトベースで外部のデジタル人材を活用

●ウィンスリーの業務委託支援「デジフレ」で依頼できる人材のイメージ

学生との接点づくりで動画の活用を強化

 即戦力人材の採用が優先される傾向が強まっているものの、新卒採用では大きな落ち込みは見られていない。23年卒の採用見通しについて、新卒採用支援会社ワークス・ジャパンの企業調査によると、全ての業界で「増やす・同規模」が80%以上となり、中でも商社、IT・通信は「減らす」と回答した企業は無かった。

 優秀な学生は引き続き奪い合いとなっており、採用活動の前倒し傾向も続いている。対面の就職イベントや会社説明会は中止・縮小され、学生との接点づくりがオンラインに切り替わる中、多くの企業が力を入れているのが動画の活用だ。

 ワークス・ジャパンは、顧客企業の情報発信を支援するための動画配信専用スタジオ「WORKS STUDIO」を昨年8月に開設している。事業責任者の寺田和弘氏は「採用のオンライン化によって、より多様な学生、例えば地方学生と接点が持ちやすくなったという声が採用担当者から聞かれます。動画を活用して自社の想いやビジョン、社風をより分かりやすく表現することで、自社に興味を持つ学生を増やしてエントリーにつなげたいと考える企業が増えています」と説明する。23年卒の採用活動で同社のスタジオを利用する企業は、22年卒に比べて3倍になる見通しだ。

 自社の採用ページや就職ナビサイト上で動画を配信する企業は多いが、大手運輸会社では人事部門が専用のYouTubeチャンネルを運営している。会社紹介、事業部門紹介、職種紹介、社員の座談会などの5~10分程度のコンテンツを、インターンシップ募集などの採用プロセスに合わせて配信し、エントリー数の増加につなげている。

 同社の動画活用を支援しているワークス・ジャパンの後綾子氏は、「現場社員の方の協力が得られ、多岐にわたる専門分野や事業ごとの具体的な仕事内容や社風、社員の人柄を伝えられる動画を制作できました。高卒採用向け動画も作成し、就職担当の先生にも仕事の魅力や求める人材像を訴求し易くなりました」と話している。

動画配信スタジオ「 WORKS STUDIO」での社員座談会の収録の様子

高い教育効果を目指して、eラーニングやLMSを導入

 ポストコロナの事業強化に向けた人材を確保するために、社員の能力開発への投資も活発になっている。人材育成の施策においてもオンラインの活用が一気に進んでいるが、感染防止という理由だけではなく、より高い教育効果を求める企業からのニーズが高まっている。

 例えば、新入社員向けeラーニング「グロービス学び放題フレッシャーズ」の導入企業数は、コロナ危機に直面した昨春に500社を超え、その後も内定者向けでの活用なども進んで、1000社を突破した。

 昨年から利用しているリコージャパン人財開発室の長谷川廣明氏は、「どのコースが育成計画と対応するかを見極め、必要なタイミングで必要な内容が学習できるようアレンジしています。コースごとに学習パートとテストがセットになっており、それだけで学習が完結するため、このような組み換えにも対応できる点に利便性の高さを感じます。新入社員が非常にスムーズかつどん欲に学んでいるという印象です。配属された各部署の上司から『配属後にすぐ仕事に取り組める準備ができていた』と評価されています」と話す。

 グロービスの寺内健朗氏は、若手社員向け教育における企業の狙いを次のように説明する。「DXをはじめとするビジネスの変革を加速させるため、難しい課題に自らチャレンジできる意欲とスキルを備えた人材を育てることが多くの企業で急務となっています。特に新入社員などの若手に対しては、より高いレベルのコンテンツの提供が求められています」

 オンラインの活用によって学習手法の多様化が進み、提供されるコンテンツも格段に増えている。企業の人材育成方針の変化について、eラーニングサービスのネットラーニング岸田努社長は「これまでのように全員が同じ内容を学ぶという画一的な教育ではなく、数多くのコンテンツを用意して一人一人が必要なものを選択して学んでもらうことによって、学習内容の定着と現場での実践につなげていくことが重視されるようになっています。成果を明らかにするために、スキルを可視化して学習・資格証明をデジタルで行う『オープンバッジ』への注目も高まってきています」

 また、時間や場所を問わない学習環境を用意することが欠かせなくなっていることから、教育管理システム(LMS)の導入や置き換えを進める企業も増えている。

 「オンライン会議システムをオンライン研修に利用している企業もありますが、会議システムの限界から研修管理プラットフォームと連携したい、またはオンライン研修専用の配信システムを導入したいという相談が多くなっています。学習履歴などのデータをLMSで一元管理して人事施策に活かしていくことや、研修担当者の事務負荷軽減や受講する社員のユーザビリティを高めたいといったことが導入の理由です」(岸田氏)

オンライン教育支援サービスの選択肢は増えている

●主なeラーニングやLMSサービスの内容

「1on1」で、マネジメントスタイルの転換を図る

 ビジネスモデルを変革し、事業を成長させていくためには、社員一人一人が能力を発揮できる組織であることが欠かせず、コロナ以前から従来型のマネジメントスタイルの見直しは課題となっていた。

 NTTドコモのスマートライフビジネス本部・マーケティングプラットフォーム本部では、新たな価値を提供するためのイノベーションを起こすために、フラットに何でも話せる職場内の関係性の構築とコミュニケーションの活性化が必須となっていた。そこで、上司と部下が1対1で定期的に対話する「1on1」の手法を活用することに決め、2019年9月から全管理職対象に研修を開始。研修を終えた管理職から順次1on1 を進めてきた。

 社内アンケートで上司からは「部下の気にしているポイントを理解することができた」「指示を出さなくても、部下が前向きに仕事に取り組み始めた」、部下からは「気持ちの変化(すっきりした、これからも継続してほしい)」などのコミュニケーションの量と質の両面で改善が見られている。1on1推進の担当者は「特にコロナ禍で有効性を実感している」と話す。

 ドコモグループの研究開発会社であるドコモ・テクノロジ社も2019年から1on1に取り組んでいる。以前は、若手から「職場で相談できる相手がいない」、上司から「若手とどう接したらいいかわからない」などといった声が上がるなど、若手と上司の間にすれ違いがあった。

 同社では若手の本音を引き出すために、上司・部下ではなく、隣の上司や主査と1on1を行うことによって「感情の壁」を乗り越える工夫を行っている。1年目に若手に実施したところ、4人に1人が何らかのフォローを必要としていることがわかり、上司や組織との連携によって救うことができた。2年目は1年目の対象者にさらに新入社員を加えて実施したが、要フォロー者は減少している。

 1年目は「やって良かった。続けた方がいい」という評価の一方で、効果について半信半疑な社員もいたが、2年目は「コロナになり、その前から取り組んで良かった」「入社後ずっとオンライン環境になり、定期的に上司以外と相談できる環境ができた」とコロナ下で働き方が変化する中で、1on1に対する満足度が高まっている。こうした取り組みをラインの部長全員が高く評価し、「仕事ができる理詰めの上司」から「今まで部下を追い込んでいたが、それは違った。感情を聞き取り、横に立ち伴走する態度が大事」というマネジメントの転換に対する理解が浸透してきている。

上司・部下のコミュニケーションはすれ違っていないか

●上司・部下に言いたかった/言うべきだったのに言えなかった理由

(出所)リクルートマネジメントソリューションズ「上司・部下間コミュニケーションに関する実態調査」

 両社を支援するコンサルティング会社ファインド・シーは「1on1で成果を出す3つのステージ」(図)を示し、マネジャーが必要とするスキルを定着させる研修を行っている。同社の小髙峯康行代表は「1on1の狙いは、信頼関係を醸成し、トップダウンからフラットな組織マネジメントへ転換することです。継続的な個別フィードバックこそが成果を上げる秘訣です」と強調する。

 「心理的安全性」という言葉が最近では聞かれるが、安心して発言や行動ができない組織では社員のエンゲージメントは高まらず優秀な社員ほど流出してしまう。ポストコロナの事業成長を実現するためには、高い能力を持つ人材を引き付ける組織づくりへの取り組みを加速させる必要がある。

継続的な個別フィードバックで信頼関係を醸成

●ファインド・シーが考える「1on1」で成果を出す3つのステージ

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