経済情勢や生成AIなどの発展による目まぐるしい技術革新、働き方の多様化など、労使を取り巻く環境は、日々刻々と変化している。
厚生労働省が2025年1月8日に公表した「労働基準関係法制研究会報告書」(以下「報告書」という)[1]は、このような激しい変化の下でも守るべき原則をしっかりと堅持した上で、法令において定められた最低労働基準としての規制の原則的な水準を守りつつ、多様な働き方を支える仕組みとすることが必要とする。
このための方策として報告書は、労使の合意等の一定の手続の下に個別の企業、事業場、労働者の実情に合わせて法定基準の調整・代替を法所定要件の下で可能とする仕組みが必要であるとし、この仕組みが弊害なく機能するためには、過半数労働組合がない事業場も含め、労使ができるだけ対等にコミュニケーションを図り、適正な内容の調整・代替を行うことのできる環境が整備されていることが重要だとする。
労使コミュニケーションについては、報告書以降も、厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で引き続き議論が重ねられている[2]。 本稿では、報告書の労使コミュニケーションにおける議論を中心に紹介しつつ、今後の労使コミュニケーションのあり方について若干の私見を述べる[3]。(文:寺前翔平弁護士、編集:日本人材ニュース編集部)
[1] https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/001370269.pdf(最終アクセス:2026年9月7日)
[2] 直近で労使コミュニケーションが議論されたのは、2025年9月30日開催の第203回労働政策審議会労働条件分科会のようである。https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_63876.html(最終アクセス:2026年9月7日)
[3] 報告書が公表されるに至るまでの経緯については、大内伸哉「労使コミュニケーションと過半数代表者―なぜ原理論は大切か」(ジュリスト1612号46頁)に詳細にまとめられている。

報告書における議論の整理
報告書が検討対象とする労使コミュニケーションの類型
まず、報告書では、労使コミュニケーションのうち、集団的労使コミュニケーションが取り上げられている。報告書は、集団的労使コミュニケーションを以下の四つの類型に整理する。
- 労使が団体交渉を通じて労働条件や労使関係ルールを設定するもの
- 法律で定められた規制の原則的な水準について、労使の合意等の一定の手続の下に、個別の企業、事業場、労働者の実情に合わせて、法所定の要件の下で法定基準を調整・代替するもの
- ②の労使協定の遵守状況のモニタリングや労使間の苦情・紛争処理等を通じて労働条件規範の遵守を図るもの
- 労使間の情報共有を通じた労働者による経営参画に関するもの
報告書は、このうち、主に②と③について、現行制度の改善点を中心に議論を展開している。36協定の締結をはじめ、企業人事が日常的に扱うものは、基本的に②及び③に集約されると思われるため、報告書とこれに続く、労働政策審議会労働条件分科会における議論をフォローしておくことは有用である。
報告書が指摘する労使コミュニケーションにおける課題
報告書は、集団的労使コミュニケーションの課題として、次の三つを指摘する。
第一の課題は、労働組合の推定組織率が2023年では、16.3%にとどまり[4]、長期的にも低下しており、過半数労働組合がない事業場が多いのが実情というものである。労働基準法(以下「労基法」という)のもとで、集団的労使コミュニケーションの主体として想定されているのは労働組合であることからすれば、これは制度の前提そのものが崩れている状態といえる。労働基準関係法制研究会において、荒木座長からも、労基法制定時は、労働組合組織率も50%前後というところから始まって、労働組合はさらに広がっていくことを前提に、過半数組合がない場合について、過半数代表者をいわば過渡的存在として考えていたとの指摘がなされている[5]。
第二の課題は、過半数代表者の適正選出とその基盤強化である。過半数労働組合の組織率が極めて低い現状において、集団的労使コミュニケーションを担う主体として現行法上想定されているのは、主に過半数代表者である。しかし、過半数代表者は、労働組合と異なり個人単位となるところ、本来その役割を果たすためには、相当の情報や知識が必要となり、これを身に付けるだけでも、一労働者である過半数代表者には相当な負担である。このような負担から、そもそも過半数代表者に立候補する候補者がおらず、適正な選出手続を実施することすらままならない。候補者がいても、選出手続に不明確な点も多く、また、選出された過半数代表者がその役割を果たすだけの情報や知識を持たず、その役割を果たすことが著しく困難となっている。
第三の課題は、労基法における過半数代表等に係る体系的な規定の欠如である。過半数代表や労使委員会については、これらを必要とする条項において個別に規定されているのみで、労基法において体系的に規定・整序されていないという課題の指摘である。些末に思われるかもしれないが、過半数代表性の関与等について定める事項は、労基法など110以上の項目に及ぶとの指摘がなされている[6]ほか、過半数代表者の要件等については労基法には規定がなく、労基法施行規則[7]に規定されるにとどまるといった状況を踏まえれば、これらの整備を模索することは、特に過半数代表者の適正選出等の適正手続を担保する観点では、有用であるように思われる。
[4] 独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が公表している最新の統計データによれば、2025年6月30日時点では、16.0%まで落ち込んでいる(https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/pdf/g0701_01.pdf)(最終アクセス:2026年9月7日)。
[5] 第12回労働基準関係法制研究会議事録荒木座長発言
[6] 呉学殊「労使関係論からみた従業員代表性のあり方」日本労働研究雑誌630号(2013年)92頁、竹内(奥野)寿「従業員代表制と労使協定」日本労働法学会編『講座労働法の再生第1巻 労働法の基礎理論』(日本評論社、2017年)161頁
[7] 労基法施行規則第6条の2
過半数代表者が担う役割と使用者による情報提供・便宜供与
報告書は、過半数代表者は、以下の三つの役割を担うものと整理する。
- 使用者が締結しようとする労使協定の内容や、意見聴取しようとする就業規則の内容について確認する
- 事業場の労働者の賛否や、使用者に伝えるべき意見を集約する
- それらを使用者に対して伝えるとともに、労使協定の締結や意見の表明を行う
そのうえで、報告書は、過半数代表者が以上の役割を全うするためには、法定基準の趣旨等を理解した上で、事業場の働き方の実態に関する情報を得ることが必要とする。
この具体例として、36協定を締結するためには、過半数代表者が事業場の平均時間外労働時間数、最長時間外労働時間数、時間外労働が必要となる業務内容等についての情報を得て、具体的に協定内容の是非を判断できることが必要であることなどを挙げる。
そして、このような情報は、使用者側が保有しているものであるため、過半数代表者に対するこうした情報の提供を使用者の責務として位置づけることが必要とする。このほか、使用者が、過半数代表者に対して、労働時間の中で活動することへの一定の保障や、意見集約のためのイントラネット、通信機器、その他社内設備の使用等についての便宜供与についても、中立性の観点から適法と認められる範囲とあわせて、許容される範囲を明確にすべきとする。
過半数代表者に関するアンケート調査の結果から見える課題
独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の実施したアンケート調査結果[8]によれば、過半数代表者が活動を負担に感じたと答えた割合は、70%を超えており、負担に感じた理由の最多は「労働者の意見集約」で、次点は「会社との協議」である。
「労働者の意見集約」を負担に感じた割合の中で最も多かった理由は、「労働者の意見が職種や雇用形態によって異なるから」であるが、次点は、「労働者に関心を持ってもらえなかったから」であり、その割合が5割近くに及んでおり注目に値する。労使コミュニケーションの片翼を担う労働者側にそもそも関心がないのであれば、労使コミュニケーションが活性化するはずはなく、この問題の解決が一筋縄ではいかないことを如実に表すものといえる。
「会社との協議」が負担に感じる理由としては、「協定内容の是非を判断するための情報が不足していたから」と「会社との協議に対応することが時間の面などから負担であったから」が5割強でほぼ同率であり、労働者個人たる過半数代表者に労使コミュニケーションの活性化を担わせることの難しさが表れている。 このほか、過半数代表の選出手続について「親睦会の代表者等、特定の者が自動的になる」と「使用者(事業主や会社)が指名」を足した割合が、2025年7年5月1日の調査時点で依然として16.0%に及んでおり、不適正な選出がいまだ一定割合で残っているという課題も見て取れる。
[8] 第203回労働政策審議会労働条件分科会 資料No.2「集団的労使コミュニケーションの在り方(過半数労働組合・過半数代表者等)について」(https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001567875.pdf)(最終アクセス:2026年9月7日)
報告書において検討されている法改正等のイメージ
報告書は、過半数代表者の適正選出を確保し、基盤の強化を行うに当たり、まずは労働基準法において、「過半数代表」、「過半数労働組合」、「過半数代表者」の法律上の位置付け、役割、過半数代表者に対する使用者からの関与や支援等を明確に定める規定を設ける法改正を行うことが必要と考える、とする。 そのうえで、報告書は、法制度及びガイドラインに定めるイメージの例として、それぞれ以下の内容を挙げる。
【法律(その委任命令を含む。)に規定することが考えられる事項】
- 「過半数代表」、「過半数労働組合」、「過半数代表者」の法律上の位置付けの定義・明確化
- 過半数代表の任務・権限、公正代表義務(事業場の全労働者の代表として労使協定の締結等を行うこと)
- 過半数代表に対する使用者の情報提供(従業員名簿や36協定の影響を受ける労働者の範囲等)
- 過半数代表に対する使用者の支援・便宜供与(意見集約のための社内設備の使用等)
- 過半数代表に対する不利益取扱い(解雇・異動等)の禁止
- 過半数代表者の公平・中立な選出手続
【ガイドライン等に規定することが考えられる事項】
- 過半数代表に対する支援・便宜供与のひな形・好事例
- 過半数代表者の具体的な選出手続のひな形・好事例
- 過半数代表者を複数人選出する場合や補助者を指名する場合の留意点
- 過半数代表者を任期を定めて選出する場合の留意点
- その他過半数代表の運用のための情報
報告書が示す一律義務化への疑問
前提として、報告書以降の労働政策審議会労働条件分科会でのその後の議論を見ていると、労使コミュニケーションの在り方に関する労使双方の委員の意見は相当に割れており、法制化に向けては更なる議論がなされると思われる。
ここで、筆者の立場を先に述べておく。前記2(2)で述べた第三の課題、すなわち散在する規定を整理し、過半数代表者の定義や位置づけ、公平・中立な選出手続といった手続面のルールを法令上明確にすることには基本的に賛成である。他方、「過半数代表に対する使用者の情報提供」及び「過半数代表に対する使用者の支援・便宜供与」といった内容を法令によって一律に義務付けることには反対である。
過半数代表者はそもそもどのような位置づけの制度だったか
大内教授が指摘するとおり、過半数代表者は、元来、過半数組合が存在しない場合の補完的制度として設けられたものにすぎず、労働者の意見集約をしたり、労働組合と同じように使用者とコミュニケーションをとったりする主体として構想されていたものではない[9]。前記の荒木座長の発言も、過半数代表者が過渡的存在として位置づけられていたことを示している。
また、過半数代表者には、労働組合について労働組合法上認められた権利保障はなく、労働組合のような組織的交渉は、そもそも法制度上も期待できない。それにもかかわらず、労働組合の組織率が落ちているからという理由のみで、過半数代表者に労働組合の代替的機能を果たすことを期待することにはそもそも無理がある。
[9] 前掲大内教授論文
労使自治との関係
前提として、労使コミュニケーションは、その性質上、基本的に労使自治に委ねられるべき事項である。報告書も議論の出発点として述べているとおり、労使コミュニケーションの内容・態様は、個別の企業、事業場、労働者の実情等によって、様々であり得る。
そうすると、これに伴い、使用者から提供することが求められる情報提供の内容や便宜供与の程度も、各企業における実情を踏まえて変わるのであって、労使双方が納得する一定の基準を、労基法その他の法令で定めることは不可能であるように思われるし、そもそもすべきでもない。
法令で労使コミュニケーションを規律することがあり得るとすれば、それは適切な労使コミュニケーションが、使用者によって歪められることの無いようにする観点に留められることが徹底されるべきである。例えば、過半数代表者に対する過半数代表者としての活動を理由とした不利益取扱いの禁止を法令上明記することが考えられる。
もっとも、この点一つをとっても、過半数代表者は、労働組合と異なり個人であるため、一労働者としての行為であるか、過半数代表としての行為であるかについては、線引きが難しい場合もあり得るなど、その適用範囲や具体的にどのような措置を講ずべきかについて法令上の定めをおくことは、意外に難しい。
中小規模の企業・事業場への配慮
労使コミュニケーションについて、一定の法制化をするにあたっては、日本における企業のほとんどは中小企業であるという観点を忘れてはならない。報告書やその後の議論は、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の実施した調査結果をもとに進められているが、第203回労働政策審議会労働条件分科会でも指摘があるように、モニターへの調査であることの制約上、比較的大きな事業場に偏ったアンケート結果になっている。
このことに留意すべきである旨は分科会での議論においても指摘されているが、少なくとも報告書の内容は、特に小規模の企業ないし事業場への配慮について十分検討した内容とはいえなかった。
現行の労基法の規制は、企業や事業場の規模にかかわらず適用される。人事部門を持たず、総務担当者が一人で労務管理を兼務しているような企業や事業場も実際には相当数あるところ、そのような場合において、情報提供の範囲や便宜供与の程度が法令上の義務として画一的に課されれば、その負担は甚大である。
法令による一律の情報提供・便宜供与義務を定めるべきではなく、行政の関与も、労使コミュニケーションの好事例の紹介や、各制度の周知・教育・啓発等に向けられるべきである。
個人に担わせることの限界と代替的な枠組み
過半数代表者という一労働者に対して、労使コミュニケーションの活性化の役割を任せるという方向性が本当に良いのかについても、検討がなされるべきであるように思われる。
労働組合と異なり、過半数代表者は、あくまで個人の労働者であり、使用者からいかに情報提供や便宜供与がなされても、その処理をするには限界があると思われる。
今後労使をめぐる問題がより一層多様化することが予想されることを踏まえれば、労働者個人たる過半数代表者に、使用者との対等なコミュニケーションを期待することには、仮に複数代表制を認める[10]にしても、ますます難しくなるように思われる。
なお、この点について、経団連からは、労使協創協議制[11]といった新しい枠組みが提案されているが、労働者側は、労働組合以外が集団的な契約の主体となるものは断固反対であると述べており、一致点を探るのは相当困難であるように思われる。
報告書も、将来的には、諸外国において制度化されている、労働者のみで構成される組織を設ける仕組みや、労使双方で構成する委員会を設け意思決定を行う仕組み等も視野に、我が国における労使コミュニケーションの在り方を検討していくことが期待されるとする。
もっとも、労使コミュニケーションの在り方は、基本的には会社の規模や抱える課題等の個別の実情に応じて各社が自由に設計できるべき範疇の問題であるから、労使で構成する委員会の設置などを法律で義務付ける方向の議論にはならないよう、注意を要する。
[10] 複数代表制についても、過半数代表者間で意見が割れた場合の処理や、そもそも一人選任するにも苦労している状況で、複数の候補者を擁立する見込みがないなど、様々な課題がある。
[11] 過半数組合がない企業の労使における意見集約や協議を促す一助としての、一定の要件の下での任意の仕組み。有期雇用等労働者も含め雇用している全ての労働者の中から民主的な手続により複数人の代表を選出し、行政機関による認証の取得、必要十分な情報提供と定期的な協議の実施、活動に必要な範囲で便宜供与を行うことなどを条件に、集団的な合意形成のための仕組み。(一般社団法人 日本経済団体連合会「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」(2024年1月16日)(https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/007_honbun.html#ref9)(最終アクセス:2026年9月7日)参照)
法改正を待たずにできること
以上のとおり、筆者は、労使コミュニケーションの在り方について、法令による義務化という形での介入には反対である。しかし、それは各社が何もしなくてよいということではない。
この点、労使コミュニケーションをめぐる議論の過程では、実務上の課題とその対処方法が具体的に議論されており、また、JILPTの調査においては労働組合のない企業の取組事例が収集されている。これらを盲目的に取り入れれば良いわけでもないが、各社の労使コミュニケーションの在り方を検討するうえで、参考になりうるものについて、いくつか紹介する。
選出手続の適正性についての確認
最も優先度が高いのは、選出手続の適正性についての確認である。
使用者が過半数代表を事実上指名していないか、親睦会の代表者を自動的に充てていないか、投票、挙手、信任、持ち回り決議等の民主的な手続を経ているか、その過程を記録として残しているか、管理監督者が過半数代表者となっていないか。これらは現行法の下でも既に要求されている事項であり、法改正の有無にかかわらず確認・整備を要する。
前記のとおり不適正な選出が一定割合で残っているという調査結果を踏まえれば、まずは自社の実情を確認することから始めるべきである。 併せて、今回の議論の中で、過半数代表者を複数人選出することや任期を定めて選出することが現行法上禁止されているわけではない旨が確認されたことは、実務上有用である。
さらに進んで、過半数代表者間の権限・責任分配や、意見が割れた場合の調整方法、任期の定め方など検討すべき実務上の課題は様々であるので、今後の議論の動向を注視しつつ、自社における制度設計の在り方を検討すべきである。
情報提供・便宜供与についての検討
次に、情報提供・便宜供与の在り方についても、余力があるのであれば検討しておくことが有用である。
法令上の義務とすることには反対であるが、前記アンケート調査結果において、協定内容の是非を判断するための情報が不足していたという回答が最多であったことは、実務上の課題として正面から受け止めるべきである。
36協定であれば、対象となる労働者の範囲、平均および最長の時間外労働時間数、時間外労働が必要となる業務内容といった事項が、判断の前提となることから、予め整理できるのであればこれらの情報を整理しておくことが労使コミュニケーションのみならず労務管理・安全配慮義務の観点からも有用である。
一度型を決めてしまえば、毎年その都度アップデートしていけばよく、徐々に負担は軽くなり、結果として労使コミュニケーションの労使双方の負担も軽くなり得る。もちろん、どのタイミングで、どの程度の情報提供・便宜供与をするかは、各社ごとに異なるから、個別具体的な検討が必要であり、安易な他社事例の採用には慎重であるべきである。
日常的なコミュニケーション基盤の構築
第三に、日常的な情報共有の基盤の構築も有用である。日々適切に情報共有がなされていれば、協定等の締結時等に改めて情報共有の手間をかける必要は減る。企業が抱える課題と労働者との関係性によっては、既存の会議体に労働者を交代で参加させるなどして、課題についての共通認識を持つことに資する場合もあり得る。
その際に軽視できないのが、一般従業員に対する見せ方である。従業員の意見を制度に反映できなかった点については、その理由も併せて示し、引き続き検討が必要な意見は継続検討課題として見える化しておくことも有用であり得る。
成り手不足への備え
第四に、過半数代表者の成り手不足への備えである。選出が必要になる前の段階から、過半数代表の意義や役割、選出手続、適正な選出の必要性、意見集約の手法等について知識を得る機会を設けることが考えられる。
報告書は、この研修資料は使用者ではなく行政において作成し、提供することが望ましいとしており、行政の発信内容も適宜活用しながら、従業員への啓発活動に努めることが望ましい。 過半数代表者となれば会社の制度改定に携わることができることを会社として積極的に発信するなど何らかのメリットを示すことや、新たに選出された過半数代表者への引継ぎを使用者が支援することなども有用な場合はあり得る。
もっとも、これらが常に奏功するとは限らず、むしろ奏功しない場合も多いと考えられる。適正選出手続や便宜供与の限界も意識しつつ、成り手不足が深刻な場合には、優秀な社員が積極的に過半数代表に立候補するような企業風土づくりに向けた積極的な施策も必要となり得る。
おわりに―今後の労使コミュニケーションについての当面の考え方
以上のとおり、労使コミュニケーションをめぐる議論の動向は、依然として不透明であるものの、引き続き法改正を含めた議論は継続されるようであり、今後の議論の動向を注視することが必要である。
他方で、現行法のもとでは、労使コミュニケーションの在り方は、過半数代表者の選出手続等を除いて、各企業に委ねられている。
法改正をめぐる議論に際して、過半数代表者の適正選出の手続や、複数代表制や任期制など様々な実務上の論点についての整理・検討がなされていることは、各企業における労使コミュニケーションの在り方を検討するうえで、有用であり、自社の労使コミュニケーションの設計において大いに活用すべきである。
また、労使コミュニケーションの議論において、過半数代表者に焦点があてられたことで、労働組合の重要性が一層際立ったようにも思われる。組織率は低下の一途をたどっているが、労働組合の意義について、個別の企業においてはもちろんのこと、社会的にも改めて見直される時期に来ている。

寺前翔平(弁護士)
ゾンデルホフ&アインゼル法律事務所 カウンセル弁護士・弁理士。2024年ジョージワシントン大学ロースクール修了(LL.M. in Intellectual Property Law)。 多国籍企業の会社側代理人として雇用関係紛争の解決や、多数の紛争解決経験に裏打ちされた日々の予防労務相談に携わる。日本人材マネジメント協会執行役員X産業保健研究会副統括・産業保健法学会員として、産業保健の現場における法的課題の解決、紛争の予防に役立つ研究、研鑽にも取り組む。
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