エンパワーメントとは英語「empower」(「権限を与える」という意味)をもとにした言葉で「権限委譲」の意味で使われますが、さらに深く「人が持つ能力を引き出す」と解釈されて福祉分野や教育分野、企業などさまざまなシーンに応じて活用できる考え方です。20世紀にアメリカで起こった市民運動動などの歴史を経て「社会や組織の一人ひとりが抑圧されることなく力を付けることで大きな影響を与えることができる」という考え方に発展しました。
看護・介護の分野では患者や障がい者が自立するために「患者のエンパワーメントを支援する」という考え方になります。企業の場合は従来のような上司から部下へのトップダウンによる指示ではなく、権限付与によるエンパワーメント経営やエンパワーメントリーダーシップといった方針をとることで、部下が主体的に業務に取り組む成果が期待されます。
部下が自ら決定を下すことができるため意思決定までの時間が早くなり、効率アップや顧客満足度の向上につながります。上司の指示を待たずに決断することで自分の行動に責任を持つ力がつきます。上司の立場を経験することで自分への指示がどのような意味を持つのかを知り、仕事の奥深さを理解できます。一方、部下が自分自身で意思決定できることが裏目にでれば、企業の方向性と一個人の考え方が違うベクトルを向いてしまう可能性もあります。また部下のなかには指示を受けて動くことが身についてしまい、エンパワーメントによる権限委譲を苦手とするタイプもいるので注意が必要です。
エンパワーメントを導入するにあたり、企業の最高責任者か部門のトップが部下全員に「エンパワーメント推進」を宣言して、必要性やメリットを明確に示すことが大切です。また導入後は勉強会などを開いて交流することで各自の不安を解消しましょう。部下に権限委譲したからといって丸投げしたままフォローしないことが失敗につながります。
世界的に有名なホテル、リッツ・カールトンはエンパワーメント経営で知られ、従業員はお客様にサービスするため自分の権限により約22万円まで決裁ができるそうです。ただしマニュアルトレーニングを行いリッツ・カールトンのスタイルをきちんと理解したうえで権限委譲するといいます。エンパワーメントを導入するには徹底した事前準備が必要です。