今後、海外に向けて事業展開を進める企業にとって、グローバル人材の育成は欠かせません。語学力だけでなく、主体性や積極性など海外で活躍できる人材を育成することが求められます。
本記事では、グローバル人材の定義や注目される背景、育成のために必要なことを解説します。
目次
グローバル人材とは
グローバル人材とは、国内外問わず活躍できる人材のことです。語学力だけでなく、現地の人とのやり取りができるコミュニケーション能力など幅広い能力が求められます。
海外進出を推進する企業も増えています。人材不足のなかでグローバル人材をどのように育てるかが、多くの企業で課題となっている状況です。
ここでは、グローバル人材の概要と、各省庁におけるグローバル人材の定義をご紹介します。
国内外問わず幅広く成果を出せる人材
グローバル人材とは、幅広いビジネスシーンで成果を出せる人材を指します。語学力だけでなく、異なる文化の人々との相互理解やコミュニケーションができる能力、価値創造力などが求められます。
必要な能力をすべてを備えた人材を採用市場で確保するのは難しく、グローバル人材の能力を持つ人材を自社で育成する企業も増えている状況です。
グローバル人材の定義
グローバル人材の育成は国をあげての課題であり、グローバル人材育成に向けた取り組みが積極的に行われています。
文部科学省と総務省が提示するグローバル人材の定義をみてみましょう。
文部科学省の定義
文部科学省はグローバル人材について、以下のように定義しています。
要素Ⅰ: 語学力・コミュニケーション能力 要素Ⅱ: 主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感 要素Ⅲ: 異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー このほか、幅広い教養と深い専門性、課題発見・解決能力、チームワークと(異質な者の集団をまとめる)リーダーシップ、公共性・倫理観、メディア・リテラシー等 |
総務省の定義
総務省の定義は、以下のとおりです。
日本人としてのアイデンティティや日本の文化に対する深い理解を前提として、豊かな 語学力・コミュニケーション能力、主体性・積極性、異文化理解の精神等を身に付けて様々な分野で活躍できる人材 |
引用元:総務省「『グローバル人材育成の推進に関する政策評価』の結果の政策への反映状況」
文部科学省、総務省の定義に共通するものとして、語学力やコミュニケーション能力、主体性・積極性、日本人としてのアイデンティティなどがあります。
しかし、語学力に関して日本のレベルは低めです。文部科学省の資料によると、英語力においてはTOEFLスコアの国別ランキング163ヵ国135位、アジアの中では30ヵ国中27位と低い位置につけています。
グローバル人材が注目される背景
グローバル人材が注目されているのは、少子高齢化により人口が減少し、国内市場が縮小傾向にあることが背景にあります。市場の拡大に向け、海外進出を進める企業は少なくありません。
また、労働人口の減少により人材を確保するには海外の人材にも目を向ける必要があり、人材の多様性も加速しています。多様化が進む状況のなかで、成果を出せるグローバル人材の需要はますます高くなるといえるでしょう。
また、グローバル人材が注目されている背景には、日本の国際競争力低下もあげられます。日本のGDP(国内総生産)は2010年に中国に抜かれ、2023年現在ではアメリカ・中国に続いて第3位です。世界全体に占める割合は5%と低く、1995年以降、長く停滞しています。そのため、伸び悩む国内市場ではなく、海外市場に焦点をあてる企業が増えているのが実情です。
グローバル人材に求められる能力
各省庁の定義では、グローバル人材に求められる能力がいくつか示されています。さらに必要と考えられる能力を加えると、グローバル人材に必要な能力には以下のとおりです。
- 語学力
- コミュニケーション能力
- 主体性・協調性
- チャレンジ精神
- 責任感
- リーダーシップ
語学力は世界共通言語の英語はもちろん、市場の大きい中国語も話せると活躍の場が広がるでしょう。語学はただ聴く・話すという能力だけでなく、外国語で交渉できる程度のスキルと論理的思考力などが求められます。
コミュニケーション能力は、相手のことを理解して意図を汲み取り、自分の考えを正確に伝えて物事を円滑に進められる能力です。
また、グローバル市場で活躍するには、物事を自分で解決する主体性やさまざまな人と上手に交流する協調性、新しいことへのチャレンジ精神も必要といえるでしょう。責任をもって行動し、目標に向かって自ら行動できるリーダーシップも欠かせない要素です。
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グローバル人材の育成方法
グローバル人材の育成方法は、主に以下の3つがあります。
- 研修・OJT
- 海外留学
- グローバル人材を採用
座学研修には社内で実施するものと、外部に依頼する方法があります。社員をMBA留学させるのもひとつの方法です。また、模範となる人材を採用し、ノウハウを他の社員に伝授してもらうと効率的な育成ができるでしょう。
なお、座学で行う方法だけでグローバル人材を育成するのは難しく、配置されてからの経験で学ぶことがメインとなるでしょう。ロールモデルとして、グローバル人材を採用するという方法もあります。手本となる人材が身近にいることで、より効率的な育成が可能です。
ここでは、配置前にどのような準備をしておくかという視点でグローバル人材の育成方法をご紹介します。
研修・OJT
グローバル人材に必要なスキルを身につける方法として、まず研修の実施があげられます。自社が求める人材像によって必要なプログラムは変わりますが、基本的には語学研修や異文化を理解する研修を行います。
社内の会議室などに受講者を集めて行う集合研修や、外部の研修会社が実施する社外研修、eラーニングの受講など、さまざまな方法があります。社内研修で講師になる人材がいない場合は、外部から講師を派遣してもらうことも可能です。
座学研修を行ったあとは、職場で業務を行いながら上司や先輩社員が指導するOJT(On the Job Training)も効果的です。コミュニケーション能力や主体性・協調性は、座学よりも実際の業務により効率的に養うことができるでしょう。
グローバル人材育成の研修では、特化型のeラーニングやワークショップ、研修管理プログラムの利用がおすすめです。
海外留学の実施
社員を海外にMBA留学させる企業もあります。MBAとはMaster of Business Administrationの略で、経営学修士のことです。MBAは資格ではなく、世界各国のビジネススクールで一定の単位を取得して授与されるビジネス学位です。
MBAプログラムの目的は、経営者や経営をサポートするビジネスプロフェッショナルを短期間に育成することにあり、経営の3要素である「ヒト・モノ・カネ」の知識習得を目指します。
欧米企業においてMBA取得者は経営全般の知識を持った人材として認識され、昇進や幹部候補生の採用における基準のひとつとされています。MBAは自ら考える力を鍛え、人脈形成やビジネスリーダーとしての意識向上という、グローバル人材に求められる素質を養えます。
ただし、MBA留学は留学費用と約1年の期間がかかるため、多くのコストがかかります。長期的計画により、予算の設定や派遣する人材の選定が必要になるでしょう。
グローバル人材を採用
ロールモデルとしてグローバル人材を採用するという方法もあります。これまでグローバル市場で活躍してきた、もしくはグローバル人材としての能力を備えている人材が理想的です。
しかし、そのような人材が採用市場に現れることは少ないという実情があります。人材はいても、他社も同じくグローバル人材を求めているため、競争は激しいでしょう。自社が確保するにはハードルが高いかもしれません。
ハードルを下げ、潜在的にグローバル人材になる素質のある求職者を採用する方法も効果的です。海外勤務にチャレンジしたいといった動機を持つ人材であれば、高いモチベーションでグローバル人材に成長することが期待できます。
グローバル人材を育成する手順
グローバル人材を育成するには、以下のような手順を踏むことが必要です。
とりわけ、求めるグローバル人材の明確化、課題の抽出は大切です。それぞれのステップを詳しくみていきましょう。
求めるグローバル人材の内容を明確にする
まず、自社が求めるグローバル人材とはなにかを定義することから始めます。業種や業務内容により、必要とするグローバル人材の内容は異なります。
先に述べたグローバル人材に求められるスキルのなかでも特に重視すべきものを考え、自社に適したグローバル人材の内容を明確にしてください。必要とする要件が、現状はどのくらいのレベルなのかも明らかにしておきましょう。
対象となる人材をリストアップする
次に、育成の対象となる社員をリストアップします。前提としてグローバル人材としての必要人数を出し、社内にグローバル人材のレベルにある人材がどれだけいるのかを確認してください。
不足している人材の人数分、候補者の選定を行います。社員の希望やキャリアプランも確認しながら選定を行いましょう。グローバル人材として活躍したい社員を募集する方法もあります。意欲的な社員は成長も速いことが期待できるでしょう。
課題を洗い出す
リストアップが完了したら、候補者の社員が補うべき能力や課題を洗い出します。社員がもっているスキルと定義したグローバル人材の要件を照らし合わせ、課題を見極めてください。課題が社内研修や仕事の経験などで解決できるかを確認します。
課題の明確化により社員の目標が具体的になり、グローバル人材の育成が円滑に行われるでしょう。
育成計画を作成する
重点的に取り組むべき課題や、どこまで能力を高めるかなどの目標が明確になったら、具体的な育成計画を作成します。
社内研修やOJT、場合によっては海外留学など、課題に合う方法を選びましょう。今後の海外戦略と照らし合わせ、いつまでにどの程度のレベルに到達している必要があるのか目標を設定すると、スケジュールを作りやすいでしょう。
研修を実施し、PDCAを回す
育成計画はすぐに効果が出るものではなく、結果を分析して改善を重ねていくことが必要になります。分析と改善を繰り返すPDCAを回しながら、着実にグローバル人材を育成していきましょう。
グローバル人材の育成は長期的計画のため、ビジネスの環境変化によりさまざまな変更が必要になることがあるかもしれません。人材が思うように育たない、あるいは退職してしまうこともあるでしょう。変化には臨機応変に対応し、修正をしていくことも必要です。
グローバル人材として配属する
計画に沿った育成が完了したら、グローバル人材として配属します。部署やプロジェクト、ポジションに必要な適性を考慮し、適切な配置を行いましょう。
グローバル人材の育成では、実際の現場に配属されてから実務を通じて学ぶことが多々あります。実際に現地でコミュニケーションをとりながら業務を進めることで、多くの有意義な学びが得られるでしょう。
グローバル人材を育成する際の注意点
グローバル人材の育成では、いくつか注意したい点があります。育成には効率的にスキルアップできる社内環境が必要になるという点です。
また、最初は一部の部署に限定するなど、小規模からのスタートが必要になります。改善を重ねながら、全社に向けて展開していきましょう。
育成に向けて社内環境を整える
グローバル人材の育成をスムーズに進めるためには、スキルアップしやすい環境の整備が大切です。自己の意見や考え方をアウトプットしやすい環境は、主体性・積極性やコミュニケーション能力など、グローバル人材に求められる要素の育成に役立つでしょう。
会議では全員に発言の機会を設ける、業務改善や新規プロジェクトの立ち上げでは社員からの提案を受け入れるといった体制にすることで、社員がアウトプットをしやすい環境づくりができます。
小規模からスタートする
多くの社員をグローバル人材に育てる必要がある場合でも、はじめから大規模で始めるのではなく、一部に限定して始めることをおすすめします。
多くの社員が一斉に教育を受けるような体制では、業務に支障が出る場合もあるでしょう。改善すべき点が出た場合でも、規模が大きい場合には修正も大変です。最初は小規模で試行して効果を検証すれば、全社向けに展開する前に改善を図ることができ、より良い状態でスタートできます。
グローバル人材の育成を成功させよう
国内市場が縮小していくなかで海外進出を進める企業は多く、グローバルに活躍できる人材の育成が大きな課題となっています。
海外進出に向け本格的な事業展開に備えるには、中長期的な計画でグローバル人材の育成が必要です。自社が求めるグローバル人材の内容を明確にし、海外戦略に沿った育成計画でグローバル人材の育成を成功させましょう。