新型コロナウイルス感染症の流行も4年目を迎え、これまで設けられていたあらゆる規制が緩和されました。
とりわけ、感染症法上の取扱いが5類へと引き下げられたことは、新型コロナウイルス感染症を考える上での大きな転換点となりました。
ウィズコロナ、アフターコロナへ本格移行した今、改めて職場におけるコロナ対応を見直しておく必要があります。(文:丸山博美社会保険労務士、編集:日本人材ニュース編集部)
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感染症法上の「5類」と従来の「2類相当」との相違点
新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴う職場対応を検討するのに先立ち、まずは新型コロナの感染症法上の取扱いがどのように変わったのかを確認しておきましょう。
感染症予防及び対策の要となる、「感染症法」とは
国内における感染症の取扱いは、1999年4月施行の感染症法に定められています。あらゆる感染症を、病原体や感染のしやすさ、重症度等に応じた1~5類、さらにこれらに当てはまらない感染症として「新型インフルエンザ等感染症」、「指定感染症及び新感染症類型にあてはまらない感染症」に分類し、予防及び対策の方針を明らかにしています。
新型コロナウイルス感染症が分類される「5類」の取扱い
新型コロナウイルス感染症は、従来「新型インフルエンザ等感染症」としていわゆる2類相当に位置づけられていました。その後、この分類が見直され、2023年5月8日以降は5類感染症へと引き下げられています。
これに伴い、医療費等の公費負担、保健・医療体制、感染対策等のあらゆる対応が変更となりました。身近な例としては、マスク着用や換気実施等の日常的な感染対策に関しては、個人の判断によって行われるものとなりました。 さらに、新型コロナ陽性者及び濃厚接触者の外出自粛が、法律に基づいて求められる措置ではなくなっています。
こうした状況の変化に鑑み、今、新型コロナ流行当初から当たり前に講じてきた感染症対策を見直し、新たな基準に基づく取り組みに目を向けなければならないのです。
職場における感染症対策 見直しのポイント
5類移行に伴い、あらゆるコロナ対応が原則として「個人の判断」になったとはいえ、職場における対応をすべて労働者任せにしておくことは、労使間もしくは労働者間のトラブルの火種となりかねません。
加えて、安全配慮義務の観点から、企業においては感染症対策の方針を定め、周知しておく必要があります。 ここでは、新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、職場の感染症対策として見直すべき点を確認しましょう。
「マスクの着脱」に関わる職場の方針を示す
マスクの着用については、原則として「個人の判断による」とされています。街中でも、最近ではずいぶんノーマスクの方が増えています。
ただし、前述の安全配慮義務の観点から、厚生労働省は「事業者が感染対策上又は事業上の理由等により、利用者又は従業員にマスクの着用を求めることは許容される」との事務連絡を発出しています。つまり、職場におけるマスク着用は、各現場の判断を尊重するとの政府の方針が示されているのです。
この考えに則れば、「マスクの着用を求めない」といった方針を示すことも可能になります。実務上は、一律に「マスク着用(または着用しないこと)」を求めるのではなく、会話の量や場所、対面相手等に鑑み、「場面」に応じたルールを設けるといった取り扱いを検討するのが得策と言えるでしょう。
必要な「感染症対策」を講じつつも、徐々に緩和へ
コロナ禍における基本的な感染症対策として、マスク着用の他にも、検温や手指消毒、パーテーションの設置、会話の自粛、打ち合わせの制限等の対策を講じてきた職場がほとんどかと思います。
これらの取り組みについても、感染対策上の必要性、経済的・社会的合理性、持続可能性、対策の効果について改めて考え、継続すべきものと段階的に緩和させるべきものとに分類し、職場ルールを変更する必要があります。 なお、事業者向けコロナ対策の要とされてきた「業種別ガイドライン」については、2023年5月8日付で廃止となっています。今後は、従来のコロナ対策を参考にしながらも、各現場で実情に応じた取り組みを検討していくことになります。
コロナ感染者や濃厚接触者に対しては、一定期間の出勤停止命令を
5類移行により、コロナ感染者や濃厚接触者に対する法定の行動制限が撤廃されましたが、企業の安全配慮義務の観点から、引き続き該当者に出勤させないルールを定めておくのが得策です。
コロナ感染者については、症状の有無に応じた取扱いを確認しましょう。
<有症状の感染者は、通常の欠勤扱い>
発熱等の症状がみられるコロナ感染者から欠勤連絡があった場合、通常の欠勤扱いとして問題ありません。この場合、本人の体調不良による欠勤のため、休業手当の支払は不要です。
なお、早期に症状が軽快した後に出勤できる状態になったとしても、感染リスクに鑑み、一定期間を出勤停止とすることをお勧めします。具体的には、新型コロナウイルス感染症と同じく5類感染症に分類される季節性インフルエンザの取扱いに準じて「発症日を0日目として発症後5日間かつ解熱後2日間」は休業またはテレワークを命じるのが良いでしょう。症状軽快後の休業期間については、休業手当の支払対象とするのが妥当です。
<無症状の感染者には、テレワークまたは休業命令>
無症状のコロナ感染者であれば、職場が特段ルールを定めなければ、個人の判断で出社してしまうこともあるかもしれません。ただし、企業としては「テレワークを命じる」「休業命令を出す」等の出社以外の対応を検討する必要があります。従業員を休業させる場合、会社都合による休業となり、休業手当の支払いが必要です。出勤停止期間については、感染リスクに鑑み、「陽性判定となった検体採取日を0日目として5日間」とするのが妥当です。
併せて、コロナ感染が明らかでない体調不良者、または家族等が感染者となった従業員(濃厚接触者)の出勤ルールについても定めておきましょう。
<コロナ疑い及び濃厚接触の労働者にも、テレワークまたは休業命令が適切>
37.5度以上の熱、咳や頭痛、倦怠感等の風邪症状がある労働者に対して働く意思があっても一律に休業命令を出す場合、または労働者の家族等が感染した場合についても、テレワークまたは休業手当支給を前提とした出勤停止期間を定めておくことをお勧めします。 対象者については「感染症法上の位置づけ変更後の療養に関するQ&A」を参照の上、具体的に定義し、感染リスクに鑑みた出勤停止期間を設定し、就業規則に明記します。
参考:厚生労働省「感染症法上の位置づけ変更後の療養に関するQ&A」
職場方針を基準としつつも、「個人の判断」への理解と尊重を
新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、コロナ関連のあらゆる規制が緩和されたとはいえ、企業としては職場秩序や安全配慮義務の観点から、コロナ対応の方針を定め、周知する必要があります。
方針を定めると、どうしても「従わない人」の取扱いが課題となりますが、その際に忘れてはならないのは「個人の判断を尊重すること」です。 職場方針を一方的に強要する、従わない者に対して不利益な取り扱いをする等といったことのないよう留意しつつ、個人の考えにしっかりと耳を傾けると同時に会社としての方針を正しく説明し、労使間で適切なコロナ対策のあり方を話し合えるのが理想です。
丸山博美(社会保険労務士)
社会保険労務士、東京新宿の社労士事務所 HM人事労務コンサルティング代表/小さな会社のパートナーとして、労働・社会保険関係手続きや就業規則作成、労務相談、トラブル対応等に日々尽力。女性社労士ならではのきめ細やかかつ丁寧な対応で、現場の「困った!」へのスムーズな解決を実現する。
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