事業成長をけん引する専門人材や将来を担う優秀な学生の獲得競争が一層激しさを増し、これまでの採用手法だけでは通用しなくなっている。そのため、母集団形成や選考評価の「質」を高める新たな手法を活用する企業が出てきている。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部)

人事フリーランスが専門人材の採用を担う
事業成長に向けた人材需要が拡大し、人材獲得競争は一層激しさを増している。人材サービス大手パーソルキャリアが実施した「大手企業の専門人材確保に関する実態調査」によると、6割超の企業が人材不足で施策やプロジェクトの断念を経験しており、新規事業開発やDX推進・デジタル戦略に影響が出ている。
これまでの手法だけでは人材獲得が難しくなり、採用業務は高度化・複雑化している。事業成長のために企業が求める人材は転職市場にはめったに現れないため、現職で活躍している人材にアプローチする必要があるが、リファラル採用、求人サイトでのスカウト、専門人材紹介会社との関係構築などを採用担当者だけで対応するのは容易ではない。
大手企業の人材獲得に関する課題について、人事フリーランス紹介サービス「HRBIZ」の責任者を務めるテックビズの藤村大輔氏は「難しい事業課題が増える中、専門性の高い人材の採用業務を担える人事担当者の不足が多くの企業で課題となっています。『質』の高い母集団形成を目指しているものの、大手企業はジョブローテーションが頻繁なため、例えばエンジニア採用専門担当者の配置・育成は困難です。また、外部のコンサルティング会社に採用業務を丸投げしている企業では、ナレッジが社内に残らず、いつまで経っても採用力が高まらないという状況に陥っています」と説明する。
こうした課題の解決を支援するため、同社は専門人材の採用業務に精通したフリーランスでチームを編成し、採用業務を代行するサービスを提供している。多くの企業が強化しているダイレクトリクルーティングでは、定型文のスカウトメール一斉送信によるミスマッチの増加や有効応募数の低迷を課題としていた企業を支援し、求人票・スカウト文面の全面刷新、リストアップ基準の再定義と目線合わせ、データ分析に基づく改善PDCAを実行した結果、有効応募率100%、スカウト既読率20%アップ、特定難易度職種のパイプラインが大幅増といった成果を上げている。
フリーランスを上手く活用している企業の特徴について、藤村氏は「これまでの業務を切り分け、人材ポートフォリオを再設定する取り組みが進んでいます。AI活用の本格化や働き方の多様化によって、業務の重要性やスキルレベルを明確にすれば、成果志向で必要な人材を社内外問わずスピーディーに確保できます。ある企業では中途採用募集は1カ月間とし、その期間に採用ができなければ、フリーランスに依頼するというルールを設けて業務が滞らないようにしています」と話している。
●専門人材の不足が原因で断念・延期した施策やプロジェクト

リファレンスチェックで候補者の客観的評価を得る
中途採用を拡大する企業が増えているが、リファレンスチェック(一緒に働いていた上司や同僚などの第三者評価)サービスを提供するback checkの調査によると、直近3年間で採用ミスマッチを経験した企業が6割近くもある。
同社の須藤芳紀社長は「現在の中途採用では多様な職種に対してさまざまなバックグラウンドを持つ人材の採用を行っており、面接だけで活躍できる人材かを見極めるのは容易ではありません。そのため、任せたい役割とのフィット度合いを確認するための判断材料として、過去の働きぶりに関する客観的評価を求める企業が増えています」と説明する。
深刻なのは、過半数の企業が、採用競争激化のために選考時の見極めに不安があっても採用を進めざるを得ないと回答していることだ。こうした採用を続けているとミスマッチが増えてしまい、その検証も十分行われないままでは採用担当者も受け入れ職場も疲弊してしまう。
back checkが提供するリファレンスチェックサービスを導入し、「入社半年以内の早期離職ゼロ」を達成している生命保険の採用担当者は次のように話す。「『やりたいこと』と『できること』、それから『やってきたこと(経験・実績)』は違いますよね。この3つの混同と、選考基準とのズレに、ミスマッチの本質が隠れているのではないでしょうか」
back checkでは、人事業務におけるデータ活用の必要性が今後高まると考えており、須藤氏は「リファレンスチェックの実績が累計10万件を超え、蓄積したデータを早期離職の防止や入社後のパフォーマンス分析に活用する取り組みを顧客企業と進めています。採用だけでなく、その後の人事施策までをデータに基づいて効果検証できる支援を目指しています」と話している。
●直近3年間に採用ミスマッチを経験(左)、入社後に問題行動判明(右)

コンプライアンスチェックで「リスク人材」を見極め
選考において企業が重視するようになっているのが、問題行動を起こす可能性が高い人材の見極めだ。社員の不祥事が及ぼす影響の甚大さへの危機感が高まり、back checkが提供するコンプライアンスチェックサービスの導入実績が伸びている。
同社は、リファレンスチェックが働きぶりを中心とした「客観的な評価」であるのに対し、コンプライアンスチェックは公開情報を中心とした「客観的な事実」の確認と違いを説明し、官報・登記簿情報などの公的公開情報、Web調査、個別調査から選考時の申告に虚偽情報がないかをチェックしている。
同社の調査によると、面接や適性検査で問題なかったのに入社後にハラスメント・勤怠不良・人間関係トラブルなどの問題行動が判明した企業が約半数となっている。「ガバナンスやコンプライアンスが強化される中で、『なぜ採用時に確認しなかったのか』と問われないために、犯罪歴や反社会的勢力との関与はもちろんのこと、SNSでの問題発言などまで範囲を広げて『リスク人材の見極め』が強化されています」(須藤氏)
優秀な学生を惹きつけるビジネスシミュレーション
中途採用を増やし新卒採用を減らす企業が出てきているものの、将来の成長を担う人材を確保するために優秀な学生を奪い合う状況は変わらない。大学1・2年生のうちから接触を図る企業もあり、就職情報サービス大手マイナビの調査によると、28年卒の大学生が今年4月時点でインターンシップ等に参加した割合は19.1%となっている。
27年卒対象のインターンシップ等を実施した企業は69.8%で、26年卒に比べ4.1ポイント増加。小売業の人事担当者は「就活の早期化が一層進んでいる。採用直結になったことで夏のインターンが実質的な採用選考になった。大手企業はインターンシップのエントリーが始まる前から学生に接触し、インターンシップに誘い込んでいる」と話す。
新卒採用の実情に詳しい採用と育成研究社の鈴木洋平社長は「学生に自社をどう選んでもらうかが課題となっています。そのため、インターンシップや採用選考における惹きつけ施策が重要ですが、インターンシップの受け入れ人数や期間を拡大したり、多くの社員を採用活動に動員できる企業は限られています。例えば、現場の社員からリアルな仕事の話をしてもらったり、グループワークの内容に対してフィードバックしてもらうだけでも学生の満足度はかなり上がるのですが、忙しい社員から協力を得ることは簡単ではありません」と説明する。
インターンシップの企業負担は小さくないが、優秀な学生にインターンシップへ応募してもらえなければ採用は困難になる。また、インターンシップの満足度は志望度に大きく影響するため、鈴木氏にはインターンシップの見直しを検討する採用担当者からの相談が増えている。
そうした企業が導入して成果を上げているのが、企業経営や業務を疑似体験できる「ビジネスシミュレーション」プログラムだ。自社の特徴を反映して仕事の面白さや難しさを組み込んだ内容やレベルを適切に設計すれば、学生との相互理解に役立つ上、単なる会社紹介やグループワークと差別化でき、学生の印象に残る体験につながる。
例えば、学生が製造プロセスを疑似体験すれば、工場管理、調達、サプライチェーンマネジメント、原価管理などの業務がいかに重要かを学べる。実際に鈴木氏が支援している企業では、プログラムの後に職種の説明を行うことによって、実践的な理解や入社後のイメージを学生が持ちやすくなり、これまで不人気だった職種にも応募が集まっている。
●ビジネスシミュレーションの目的と活用事例

行動観察手法で選考評価の質を改善
採用選考の評価と入社後の活躍度合いが一致しない社員も少なくない。入社後に活躍できない要因は多岐にわたり採用だけに問題があるとは限らないが、入社後のパフォーマンスの予見は採用選考の重要な目的の一つで、選考評価の質を高めることは重要だ。
鈴木氏は「学生が面接やグループワークに慣れ過ぎているため、真の能力を見極められているのか分からないという採用担当者の声も増えています。行動観察手法である『ビジネスシミュレーション』は与えられたタスクを実行する中で主体的に動く力、周りを巻き込む力などを直接観察し、測定することができるため、新卒採用、特に文系職種に関しては評価の質を改善するために非常に有効だと考えています」と話している。
自社が必要とする人材を獲得するためには、候補者の母集団をただ広げたり応募・面談の数を増やすだけでは難しく、これまでの採用手法を見直す必要に迫られている。











