持続的な企業成長を導くリーダーシップ・パイプライン

ビジネスのデジタル化やグローバルな競争に迫られる中、持続的な成長を実現していくために、人的資本経営を推進する企業が次世代リーダーを確保するための取り組みを強化している。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部

日本人材ニュース

リーダーを持続的に確保するために人事制度を見直し

次世代リーダーの確保は経営の最重要テーマだが、企業のリーダー育成を支援するマネジメントサービスセンターが、リーダーシップコンサルティング世界大手DDI社と実施した「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2025」によると、「優れたリーダーの供給体制がある」と回答した日本企業の人事担当者はわずか4%だった。

調査レポートでは「人的資本経営の取り組みが進み、後継者育成計画を策定し実行するなかで、改めて自社のリーダーの供給体制の不足を実感しているとも考えられます」と分析され、「戦略的な後継者育成:リーダーシップ・パイプラインを守る5つのステップ」として、①リーダーを後継者計画に積極的に関与させる、②重要なリーダー職を明確に特定する、③包括的な人材発掘プロセスを導入する、④ハイポテンシャル人材の能力開発ニーズを深く理解する、⑤リーダーの成長を促す経験を提供する―を提示している。

そして今、人的資本経営を推進する企業の中に、持続的な企業成長を導くリーダーを確保するための取り組みを強化する動きが見られる。

積水化学工業ではグローバルレベルのリーダーを持続的に確保するため、2022年に年功的運用となる職能資格制度から、役割軸のグレード制度に移行。経営幹部候補の抜擢・育成強化を推進するために経営者候補を特定したり、育成方針を議論し決定する会議体となる「人材コミッティ」も設置した。

これによって、経営戦略の実現に必要な役割を適切に管理し、それを担う人材と後継者が継続的に育成されている状態を目指している。任免や育成プロセスに関しては、経営戦略の実現に向けた課題に基づいてそれぞれのポストに求められる能力を定義し、その能力に対してアセスメントを行うことで、各候補者の強みや啓発ポイントを把握した上で育成を進めている。

● 戦略的な後継者育成:リーダーシップ・パイプラインを守る5つのステップ

1.リーダーを後継者計画に積極的に関与させる
後継者育成は組織の成長に不可欠な課題であり、リーダーの主体的な関与が必要です。単なる人事部門の形式的な業務としてとどめるのではなく、組織全体のリーダーが人材育成の戦略的価値を理解し、真剣に取り組むことが求められます
2.重要なリーダー職を明確に特定する
効果的な後継者計画を実現するには、主要なリーダー職を特定し、求められる具体的なスキル、コンピテンシー、経験を明らかにすることが不可欠です。これにより、ハイポテンシャル人材に対し、明確なキャリアパスを示せるようになります
3.包括的な人材発掘プロセスを導入する
リーダーシップ・ポテンシャルの高い人材を公平かつ客観的に特定し、育成するプロセスを構築しましょう。従来の評価基準だけに頼らず、隠れた人材を見出すことが重要です。特に、経営幹部による支援は、多様な人材の登用を促し、より公平なリーダーシップの道を築く上で不可欠です
4.ハイポテンシャル人材の能力開発ニーズを深く理解する
的を絞った客観的なアセスメントを活用し、彼らのスキルの強みや能力開発領域、モチベーション、価値観を正確に把握しましょう。ハイポテンシャル人材に必要な成長機会を的確に提供することで、彼らの成長を加速できます
5.リーダーの成長を促す経験を提供する
ハイポテンシャル人材が次世代リーダーとしての準備を整えられるよう、実践的な経験を積める機会を提供することが不可欠です。次の役職に求められるスキルを実際に磨く場を設けると、成長のスピードを速めることができます

(出所)マネジメントサービスセンター/DDI「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2025 日本特集

成長期待が高い若手社員を選抜し、集中的に投資

近年、各種調査結果などで若手社員がリーダーの役割を敬遠する傾向が強まっているとの指摘が見られ、リーダーの資質がある社員を早期に選抜し、集中的に投資していくことがより重要になっている。

ファミリーマートは、入社10年以内の若手社員を対象とする選抜型育成プログラムを2025年から開始している。これまでは部長職・課長職などの管理職層を対象に実施していたが、アセスメントでリーダーシップに関するポテンシャルの高さや今後の成長期待が高いと思われる入社10年以内の社員20人を選抜し、半年間にわたって事業立案やワークショップなどを経験させる。

当初は「なぜ私が選ばれたのかわからない」「私は皆の先頭をいくリーダーにはなりたくない」と消極的だった社員も、最終発表時にはそうした前言を翻すようなリーダーぶりを発揮し、人事担当者は「管理職層が対象の時代と比べ、今回は受講生の成長や伸びしろを一番強く感じました」と話している。

リーダーを目指す・担える女性社員をサポート

女性活躍推進に取り組む花王は、「リーダーをめざす、担える人財の育成」を掲げて、女性社員のスキルやマインドを高め、より上位のポストに上がっていくためのパイプラインの拡大を目指す施策を強化。リーダーとしてのスキルの向上や視野を広げたり視座を高める機会を階層別に設定している。

人事担当者は「経営層からは『グループ全体では、グローバルと比較して日本における女性活躍が遅れており、その解消に向けた取り組みが必要』と指摘されています」と話す。

ライフイベントを迎えている社員や課長層一歩手前のミドルクラスの社員へのサポートに注力し、女性社員からは「仕事と育児のどちらも諦めなくていいのだと気づき、前向きにリーダーを目指してみようと思えるようになりました」という声が増えてきている。

リーダーとして成長できる多様な機会を増やす

次世代リーダーの育成では、リーダーシップを発揮しなければならない業務へアサインし鍛えていくとともに、多様な経験ができる機会を増やす工夫が見られる。ファミリーマートの選抜プログラムでは、シンガポールで5日間の合宿を行い、小売りの現場を視察したり、同世代の現地経営者のパッションに触れることが若手社員にとって良い刺激になっているという。

花王の女性リーダー育成では、元女性役員とリーダー候補者との座談会や社外の女性リーダーを招いてアンコンシャスバイアスや多様なリーダー像への気づきにつなげる機会を提供している。

コーチング、メンター、社内外のコミュニティ、副業や越境学習などをリーダー育成に活用する動きも広がっている。大手企業の役員経験者は「人が減っていく時代でリーダー候補は限られ、有力候補が転職してしまうケースも出てきている。そのため、早いうちからリーダーとしての覚悟を持たせて役割を果たせる人材に鍛えていかなければと考える経営者が増えています」と話す。

人材の流動化によって、新卒から一律に社員を育成していく方法ではリーダーを確保していくのが一層難しくなっていくだろう。リーダー候補者のエンゲージメントを高めて流出を防がなければ、持続的な企業成長は困難になる。

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