人事評価を人材育成に活かす1on1ミーティングの9つのポイント【社員が活きる! 正しい人事評価制度の運用法】

前回「人事評価制度は金儲けの道具? 人事評価制度導入と運用の失敗事例」は、
・人事評価制度は、ただ単に社員の給与を決めるための道具ではない
・会社の事業運営と人事評価制度はリンクしている
・日常業務で個人の業務目標の進捗をフォローしていくことで、業績が上がっていく
・つまり、人事評価制度は「社員を育成するために運用するもの」である
といったことを記しました。 今回は、「人事評価制度と育成を連動させる」をテーマに述べていきたいと思います。

ミーティング

上司と部下で日常業務の進捗確認をしていないケースが散見

多くの会社で人事評価制度が導入されていますが、その一方で、社員一人一人の日常業務の進捗確認を行っていない会社が多いとも感じています。

部下から上司へのホウ・レン・ソウや部門内ミーティングは行われているが、上司が部下と1対1でミーティングをしながら、個人の目標に対して現状の課題は何で、それに対してどこまでできているか。

あるいは、日常業務で引っかかっていることが何で、それに対する解決策が何かを、上司・部下で考えるといった場が提供されていないケースが散見されます。 そのような状態では、上司と部下の関係性は作れないですし、結果的に、社員一人一人の能力アップが遅くなる→会社の業績アップも遅くなるという次第です。

日常業務のKPIと人事評価制度の乖離による運用の失敗

また、上司と部下の1on1ミーティングを行っている会社でも、人事評価制度の運用が上手くいかないといった声を多く聞きます。

私が以前所属していた会社が良い例です。

営業的要素が強い会社なのでKPI設定がされていて、そのKPIと現状の差分を分析しながら対策を考えて、翌週に行うということを繰り返していました。

日常業務のブラッシュアップという意味では素晴らしく、また、私の営業業績も右肩上がりに上がっていったのですが、それが人事評価の段階になると、そのKPIの設定が人事評価制度に反映されていませんでした。

会社の目標を達成するため、また社員一人一人を育成するために人事評価制度を入れているのに、その評価制度に日常業務で指標として使っているKPIの要素を一部分でも良いから入れないのかと不思議に思っていました。

人事評価制度の運用が上手くいっていない会社は、そもそも運用に力点を置いていないという問題があるのですが、それは別の回で述べるとして、上記のように日常業務で使う指標と人事評価制度が乖離してしまっていて、結果として人事評価制度の運用が上手くいかないという会社がある訳です。

人事評価制度・育成・日常業務の進捗確認の連動を検討中の例

ここで、人事評価制度・育成・日常業務の進捗確認の連動を検討している会社の事例を上げたいと思います。

・対象会社:介護株式会社
・社員規模:150人

この会社は、以前に導入した人事評価制度が形のみで全く機能しておらず、制度を刷新し人事評価制度を機能させたいと考えていました。

私はしばらく会社の経営陣の話を聞いていましたが、何のために人事評価制度を入れるのか、会社の考えがはっきりしないと感じていました。

また、人事評価制度以前の問題で、上司・部下の関係が確立されておらず、社員一人一人が一人親方のように業務を遂行している点、更にメンバー社員を取りまとめる主任クラスに主任としてのマネジメントの概念がゼロに近い点も気になるところでした。

ある日、外部講師を招いて、経営全般に関するアドバイスをしてもらうという場がありました。

その中で人事評価制度の話しも出てきて、「人事評価制度はただ導入するだけでは何の意味もない。会社として何がしたいのかを明確にしてから、その課題を解決するために人事評価制度を使った方が良い」というアドバイスがありました。

私はチャンスと考え、外部講師のアドバイスが終わった後にその会社の経営者に残ってもらい、今の会社の一番の課題は何ですかと尋ねました。

すると、出てきた答えは、「主任クラスの育成が課題」でした。主任が主任としての仕事をしておらず、メンバーの業務把握、指示出し、上司・部下の進捗確認面談などが殆ど行われていないとのこと。

私は、まずは主任クラスの育成にフォーカスを当て、上司と主任クラスの間に関係性を作りながら、それが軌道に乗った段階で人事評価制度の策定を始めようと提案し、経営者の同意を得ることとなりました。

まずは、人事評価制度のフレームを使い、「介護技能レベル」と「マネジメントレベル」の簡単な定義づけをした上で、主任クラスがその定義づけのどこの段階に当たるかを議論しました。

結果として、主任クラスは、下記表の「介護技能レベル5、マネジメントレベル3」であると結論付けました。

次は、現在の主任一人一人が、介護技能レベルとマネジメントレベルでどの段階にあるかを確認し、下記の表にプロットしてみました。 赤の部分が主任クラスのあるべきポジションです。

(縦軸):介護技能レベル (横軸):マネジメントレベル
※氏名・金額など全て実際と異なります。イメージしてもらうための仮の表です。

すると、主任クラスのあるべき姿「介護技能レベル5、マネジメントレベル3」に対し、全員がそのレベルに達していないことが分かりました。 そこで、各主任について、あるべき姿「介護技能レベル5、マネジメントレベル3」と現在のポジションとの差分を抽出し、その差分が生まれている原因と対応策を考えて可視化をするという作業を行いました。

あるべき姿と現状 差異分析 → 対策表

現在は、この表を作った段階です。

この後に各主任について、対応策で列挙された事項をフォローすべく、2週間に1回のペースで上司と主任の1on1ミーティングを開催し、日常業務で起こったことを振り返りながら、対応策で列挙されていることが出来ているか否かを確認していくことになっています。 更に、このサイクルがルーティン化された後、このサイクルを他の層にも広げていき、その流れの中で人事評価制度を作っていこうという話しになっています。

人事評価制度は、「社員の育成」のためにある

前回も申し上げましたが、改めて、人事評価制度は何のために策定し運用していくのでしょうか。 会社によって事情は異なりますが、総じて言えば「人事評価制度は社員を育成する」ためにあると私は考えます。

前回も例示した上記の表がポイントなのですが、人事評価制度は上記記載項目すべてにリンクしています。

今回例に上げた会社で言えば、主任層の育成から先に入って、人事評価制度のフレームを使いながら課題を抽出して目標を作り、日常業務の1on1ミーティングとリンクさせながら育成を進めていく。また、その流れを他の層に広げていく。最終的に人事評価制度の策定に入る。

その過程で、育成に入り始めた層に対して研修を行ったり、ローテーションをかけたりというサイクルを起こしていくことになります。 人事評価制度と日常業務のリンクは、社員育成の根幹と言えます。

1on1ミーティングを行う上での9つの注意点

最後に、人事評価制度とリンクさせる形で日常業務のフォローをしていく中で、その肝となる1on1ミーティングについて、これを意識すると良いという事項を9つ列記します。

1)上司は、部下の業務目標に合っている行動、合っていない行動を見た時は、なぐり書きでも良いから日時と出来事をメモ書きしておく。(その場でなくてもOKです。一日の最後に思い出して書くなどができれば最高です)
2)出来ればですが、部下の業務目標とは関係のない良いこと・悪いことも合わせてメモ書きしておく。
3)2週間に1回、1on1ミーティングを行う。その際、上司は事前に上記メモに目を通しておく。
4)1on1ミーティングでは、前回のミーティングで抽出した課題の振り返りをしてもらいながら、且つ、上司がメモ書きした事項をシェアしながら、部下の個人目標達成度合いを確認していく。
5)ミーティングで出てきたことの中で重要な事項を絞り込み、次回ミーティングに向けた課題とする。
6)部下の話しを引き出すことを心がける。(指摘のみでは、部下は心を閉ざす)
7)指摘はワンポイントアドバイスを心がける。
8)各人の感情の表現度合いや自己主張の度合いを意識しながら、部下によって話し方を変える。
9)部下の承認欲求が何かをどこかで確認しておく。(例えば、褒められるのが苦手な社員もいます)

上記を意識しながら、1on1ミーティングで業務の進捗確認・課題共有を行っていくと良いと思います。 次回は、社員の育成に適した人事評価制度のフレームに触れながら、ポイントとなる人事評価制度の運用について、触れていきたいと思います。

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山口将司(社労士)

社会保険労務士、社会保険労務士法人山口人事労務オフィス代表/1994年富士電機に入社し、一貫して人事労務部門の業務に従事。「4年間で約300名のリストラ」「サービス残業に関する是正勧告」「年間約50名のメンタルヘルス対応」などディフェンシブな労務管理の経験を数多く積む。06年アクシスコンサルティングにてシニアコンサルタントとして人事紹介業で実績を上げた後、11年社会保険労務士法人山口人事労務オフィス開業し、人事労務に関する様々な経験を現場力を活かして人事労務コンサルタントとして事業運営を行う。

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