インターンシップの広がりで高まる「就活セクハラ」のリスク

新卒採用活動でインターンシップを強化する動きが企業規模や業種を問わず広がっている。そうした中、大手電機メーカーの社員がインターンシップに参加していた学生に対する性的暴行の疑いで逮捕されるというショッキングな事件が発生した。採用担当者だけでなく現場の社員と学生の接点が増えており、企業には新たなリスクマネジメントが求められている。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

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インターンシップ中にセクハラを受けた学生が3割

昔に比べて就活中の学生と企業の接触が大幅に増えた。以前は就職協定により、企業説明会など広報活動や選考の解禁日が厳格に守られ、接触の機会は多くなかったが、今は大学3年生からインターンシップが頻繁に実施されるようになり、学生と社員の距離が縮まった。

その一方で就活生に対するセクハラも増加している。2024年5月に公表された令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」(厚生労働省)によると、2020~2022年度卒業で就職活動またはインターンシップを経験した人で、インターンシップ中にセクハラを一度以上受けたと回答した人の割合は30.1%、インターンシップ以外の就職活動中に受けた人の割合は31.9%だった。

インターンシップ中にセクハラを経験した学生の30.3%が「怒りや不満、不安などを感じた」と回答し、34.6%が「就職活動に対する意欲が減退した」、32.5%が「眠れなくなった」と回答するなど心身に深刻な影響を与えている。

<インターンシップが新卒採用の主戦場に>

インターンシップで学生に対応していた社員が逮捕される

こうした実態を受けて、厚生労働省の労働政策審議会は就活セクハラの防止を事業主に義務づける男女雇用機会均等法の改正を2024年12月末に建議、今国会での法案成立に向けて準備を進めていた。ところがその矢先に事件が起こった。

1月8日、大手電機メーカーNECの29歳の男性社員がインターンシップに参加していた女子大生に性的暴行を加えた不同意性交の疑いで逮捕された。逮捕された社員はインターンシップで学生に対応していたが、「就職の相談に乗る」と誘い出して喫茶店で面会し、居酒屋で深夜まで飲酒した後に女子大生の自宅に上がり込み、性的暴行に及んだとされている。

NECは1月14日、声明を発表し、「社員が逮捕されたことは大変遺憾であり、被害に遭われた方や関係者の皆様にお詫び申し上げます。当社は当局の捜査に全面的に協力し、当該社員に対しては事実関係を確認した上で厳正な処分を行います」とし、1月24日付けで男性社員は懲戒解雇されている(東京地検は2月19日、懲戒解雇された元社員の不起訴処分を発表したが理由は明らかにされていない)。

指導役の社員を任命する現場の部門長や管理職の責任も問われかねない

通常、インターンシップでの職場体験は人事部が各部門の協力を得て実施される。学生に具体的な仕事について説明したりアドバイスする、指導役の社員を各職場の管理職が任命している会社も少なくないだろう。

当然、学生に「こんな人がいる会社だったら入社したい」と好感を持ってもらえるように優秀な社員を配置するのが普通だと思うが、NECの場合、適正な人事だったのかも問われる。

こうした被害をもたらしたことの企業・人事部の責任は免れないが、現場の部門長や管理職の責任も問われかねない事態といえる。現行の法令ではパワハラ、セクハラ、マタハラなどの各種ハラスメントに対する防止措置をとることが義務づけられている。

<ハラスメント防止は企業の責務>

NECにも「1対1での面会禁止」のルールはあった

しかし各種ハラスメントに対する防止措置は、ハラスメント被害が「労働者」に生じないように配慮するものであり、まだ労働者となっていない就活中やインターンシップ中の学生はその対象に含まれていない。とはいっても厚生労働省の指針において、労働者に対する防止措置は、就活中の学生等の求職者についても同様の方針を示すことが望ましいとされている。

実際にNECにも「採用活動指針」があり、今回の事件を契機に指針を見直している。しかし従来の指針でも学生との「個室での1対1の面会の禁止」や、「対面での面会時間は平日9時から21時まで」「飲酒はOB・OG訪問時は一切禁止」「学生との連絡は会社のメールおよび携帯電話を利用し、個人のメールや携帯電話、SNSの利用は一切禁止」というルールを設けていた。にもかかわらず男性社員はそのルールを犯して学生と接触したことになる。

NECは新たに「飲酒はいかなる場面でも一切禁止」、「面会時は面会方法、場所、時間、学生の氏名などを事前に上司および採用担当者に届け出ることとし、スケジュールに公開形式で登録」などのルールを設けている。それを実効性を伴うものにするには、徹底した社員研修などによる意識改革が必要になる。

<新卒採用の手法は多様化している>

ハラスメント相談窓口を学生に周知したり、個人情報の扱いを見直す企業も出てきている

就活セクハラの防止措置に関しては、労働者に対する防止義務と同様の内容を基本としつつ、就活セクハラ特有の事情を踏まえて対応することになる。防止措置としては、①事業主の方針等の明確化と周知・徹底、②相談や苦情に対応する窓口の設置など必要な体制の整備、③事後の迅速かつ適切な対応――といった従来の対応が求められる。

また、プライバシーに対する配慮と不利益取り扱いの禁止による被害者保護を図ることも必要になる。①については、例えば採用活動の担当者を対象にした研修を実施するほか、学生向けに就活セクハラを行わない旨の宣言をホームページなどで発信することも重要だ。

相談窓口については、企業内のハラスメント相談窓口を学生に周知するほか、他社のハラスメントで困っている学生が相談できるホットラインを設置している企業もある。また、採用担当者が学生と直接のコンタクトを取れないように、個人情報の一部(電話番号やメールアドレスなど)を開示しないように工夫している企業もある。

もちろん規制の対象となるのは社員だけではない。男女雇用機会均等法の改正案には「事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は自らも、求職活動等における性的言動問題に対する関心と理解を深め、求職者等に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない」という一節も加えている。

特に中小企業では経営者自ら採用面接に当たる場合も多い。努力義務という点では生ぬるい感じもするが、役員がセクハラ発言をするような会社に入りたいと思う学生は皆無だろう。


溝上憲文 人事ジャーナリスト

溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。
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人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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