ファンケルは、人財戦略で「新しい価値を創造する人財の育成と挑戦する組織風土の醸成」を目指している。創業理念の理解に始まり、現場実習、キャリア研修、新規事業開発の体験など、5カ月にわたる新入社員研修の狙いや内容について、人財開発・EX推進Gの久保悟課長に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部)

久保 悟氏
ファンケル
人財本部 戦略推進・人財開発部
人財開発・EX 推進G
課長
事業概要を教えてください
ファンケルグループは、「美」と「健康」の領域を中心に、世の中の「不」の解消に取り組んでいます。3つの事業として「化粧品関連事業」、「サプリメント関連事業」、発芽米や青汁、肌着・雑貨を取り扱う「その他の関連事業」を手がけています。自社で研究・企画・製造した製品をお客様の生活に合わせた多様なチャネルで展開。チャネルを横断してお客様を理解し、最適な商品やサービス・情報をお届けできる「オムニチャネル」を推進しています。
長期経営構想「ファンケル・ビジョン2035」で、人材育成はどのように位置づけられていますか
「ファンケル・ビジョン2035」は、2026年から始動した2035年に向けた成長戦略です。2035年に目指す姿(ビジョン)を、「お客様にとって、美と健康の『不』を解消してくれる最も信頼できるブランドとなり、最も成長しているブランドマーケティングカンパニーとなっている」と定め、その実現に向けて経営基盤の強化を掲げています。
7つの戦略のうちの1つが人財戦略で、「新しい価値を創造する人財の育成と挑戦する組織風土の醸成」を目指しています。
他の戦略には、マーケティング戦略、国内チャネル戦略、海外戦略、IT・デジタル戦略などがありますが、それらを実行し、成果につなげていくのはすべて人です。社員一人ひとりが成長し、挑戦できる状態をつくることが、個別戦略の推進力となり、その先にあるビジョンの実現につながります。そういう意味で、人財戦略はすべての戦略を支える土台であり、当社の成長に欠かせない重要な経営テーマと位置づけています。
ファンケルグループ7つの基本戦略

新入社員研修に力を入れているそうですね
特に新入社員研修では、単に業務知識やスキルを身につけるだけでなく、ファンケルが大切にしてきた価値観を理解し、自分らしいキャリアの第一歩を主体的に考えることを重視しています。配属前の時間を丁寧に設計することで、会社への理解と働く目的意識を高め、安心して挑戦できる土台づくりにつなげています。
新入社員研修は、4月から8月末までの5カ月間をかけて実施し、9月1日に本配属としています。一般的には2週間から1、2カ月程度の研修期間が多い中で、当社では配属前にしっかりと時間を確保し、理念理解、現場体験(工場及び店舗実習)、キャリア形成を段階的に学べる設計にしています。昨年までは9月末までの6カ月間を研修期間としており、長年にわたり新入社員の育成に十分な時間をかけてきました。
今年の新入社員は高卒・大卒を含め約40人で、女性が8割を占めています。新入社員研修の大きな特徴は3つあります。1つ目は、創業の想いや会社の価値観を深く理解する「理念研修」、2つ目は、製造と販売の現場を実際に経験する「工場・店舗実習」、3つ目は、自分の将来像を考える「キャリア研修」です。知識を学ぶだけでなく、ファンケルで働く意味やお客様に価値を届ける実感を得られるよう、研修全体を設計しています。
理念の理解では、大船にあるファンケルヒストリーミュージアムを見学してもらい、当社の歴史を学んでもらうプログラムを用意しています。また、当社には、「売らない勇気を持つ」「他社からスカウトされる人間になってほしい」「値引きは麻薬と同じ。王道で売ろう」といった、創業者・池森賢二の言葉を31日分の日めくりカレンダーとしてまとめた「池森カレンダー」というものがあります。
新入社員には、「池森カレンダー」の言葉の意味に加え、当社の歴史やビジョンをしっかり理解してもらったうえで、32日目の新しい言葉を自分で考えてもらいます。創業者の言葉を受け取るだけでなく、自分自身の価値観やこれから大切にしたい姿勢を踏まえて考えることで、理念を自分ごととして捉える機会にしています。実際に、「停滞に成長も安定もなし」「物事は捉え方次第である」といった、興味深い32日目の言葉が出てきていました。
そして、その後に池森による講話を設け、新入社員が作成した32日目の言葉を池森がチェックし、「これは」と思う言葉を発表するフィードバックも行っています。
工場と店舗の実習についても教えてください
私たちの強みは先述したように製販一貫体制をとっていることにあります。グループ傘下にファンケル美健という製造子会社を持ち、そこで作った製品を直営店舗など、さまざまなチャネルで販売しています。
工場実習では、化粧品を作るファンケル美健の千葉工場、同じくサプリメントを生産する三島工場に1週間ずつ行き、ものづくりの現場を経験してもらいます。店舗実習では、首都圏の直営店舗で約2カ月間、店舗スタッフとしてお客様と直接向き合います。製造から販売までを自ら体験することで、製品がお客様に届くまでの流れや、現場で大切にされている考え方を実感できる内容にしています。
新入社員を受け入れる工場や店舗の協力を得ながら、製造と販売という2つの現場を実際に体験できる機会を設けています。事業の強みを現場で学び、お客様への価値提供を自分の言葉で語れるようになる、当社ならではの貴重なプログラムだと自負しています。
3つ目のキャリア研修とはどのような内容でしょうか
自律的キャリアの構築につながるキャリアデザインに対する理解から始まり、最終的には各自で「ビジョンボード」を作ってもらいます。5年後あるいは10年後、自分がどのようになっていたいかを示す画像をネット上で探して、自分のビジョンを可視化してもらうワークショップです。
このワークショップは新入社員研修以外でも実施しているのですが、2年前に作成した私の場合でいいますと、仕事の面では「チームによる課題達成」を願い、メンバーが円陣を組み、盛り上がっている画像をビジョンとしました。また、プライベート面では、成長した子供と一緒にキャッチボールやキャンプをしている画像をビジョンとしました。こうした「ビジョンボード」の作成を通じて、自分が大切にしたい価値観や将来のありたい姿を言語化・可視化すると、ファンケルで働く目的や意義がより明確になります。なので、新入社員にも同じように働く目的や意義を明確にした上で、本配属を迎えてほしいと思っています。
「新規事業を考えるワーク」はどのような内容ですか
例年、「新規事業を考えるワーク」を行っていますが、今年は初めて人財本部と経営企画本部の新規事業部が合同で行いました。
創業理念である「正義感を持って世の中の『不』を解消しよう」を念頭に、新入社員一人ひとりが、不安・不便・不満といった日常や社会に潜む「不」を発見し、その解決策を新規事業開発の出発点にする取り組みです。理念を知識として学ぶだけでなく、社会や生活者の課題を自分の視点で捉え、事業アイデアとして形にする経験を通じて、ファンケルらしい価値創造を体感してもらうことを狙いとしています。
新入社員を6組に分けて、まずは自由にアイデアを出し合う「未来創出ワイガヤ会」をしてもらいました。その後、既存社員への「不」の聞き取りなども行った上で、約2週間後に各組が「”今”日本でスタートアップを起こすとしたら、どんな事業をやるか」というテーマでプレゼンテーションするという内容です。
私が面白いと感じたのは、「捨てるに捨てられない、子供が保育園などで作った自作の工作物を3Dプリンターを使って縮小し、保管を容易にする」というアイデアでした。その他にも、「食べたい気持ちはあるけれど、匂いが残ることを考えるとなかなか口にできないニンニク料理の匂いを消すタブレットと臭いを数値化するチェッカー」を提案した組もあり、印象に残っています。
こうした発表に対し、新規事業部からは「私たちにはない自由な発想力がある」と評価され、事業化が実現しそうな案件もあります。人財本部だけで完結させるのではなく、新規事業部や経営企画本部など他部署を巻き込むことで、新入社員にとっては実際の事業づくりに近い学びとなり、受け入れる側にとっても新しい視点やシナジーを得る機会になりました。
新入社員の反応はいかがですか
現時点ではまだ研修の真っただ中のため、全体を通じての感想はこれからですが、個別のプログラムについては手応えを感じています。新入社員が自ら考え、周囲と協力しながら行動する姿が見られており、研修を通じて主体性や同期同士のつながりが育まれていると感じています。
新規事業を考えるワークの発表会に出席した役員からは、「今年の新人は発想力が豊かで連携が取れている」という評価をもらいました。人財本部としても同じような手応えを感じています。理念に関する研修が終わった後、新入社員が独自に「不の発見ノート」と題したノートを作って研修室に備えたり、Microsoft Teamsを利用した社内ラジオで同期同士のコミュニケーションを図ったりするなど、自発的な行動が生まれているからです。
なぜこんなに同期の連携がいいのかといえば、採用手法の変更によるものが大きいのかもしれません。これまでは面接のみだったのですが、今年の新入社員の採用から、コミュニケーション力が必要なワークショップを主としたインターンシップを必須としました。来年の新入社員にも同じ傾向が見られたら、私たちの仮説が的を射ていることになります。
今後拡充したい施策や展望を教えてください
当社全体の話でいえば、人財戦略で主体性の向上を掲げていることもあり、今後は社員が自ら挑戦の機会を選び取れる手挙げ制の異動や研修をさらに拡充していきたいと考えています。例えば、海外市場のフィールドワークを行う研修や、1年間海外で仕事を経験する海外トレーニー制度を新たに設けて、いずれも手挙げ制にしました。自分の意志で挑戦する経験を増やすことで、社員一人ひとりの成長意欲を引き出していきたいと考えています。
新入社員研修については、現時点で大きな変更は考えていません。社内でも「期間が長すぎる」という声はなく、むしろ配属前に時間をかけて育てることが、当社らしい人財育成のあり方だと考えています。先に申し上げた3つの特徴に加え、ビジネスマナー、マーケティング、データ分析に関する研修も実施しており、本配属後すぐに各部署で力を発揮できるよう、実践的な力と会社への理解を高めた上で送り出しています。
(2026年7月3日インタビュー)
株式会社ファンケル
代表者/代表取締役 社長執行役員 三橋英記
設立/ 1981年8月18日
資本金/ 107億9500万円
従業員数/ 920人 (2026年1月1日現在 契約社員・パートなどは除く)
本社/神奈川県横浜市中区山下町89-1
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