人事DXを加速させるAIサービスの提案相次ぐ【人事の役割はAIでどう変わるか】

AIが多くの企業で本格的に利用されるようになり、人事分野でもAIを組み合わせた支援サービスの提案が相次いでいる。これまで難しかったデータの利用や迅速な意思決定をサポートする機能を適切に活用すれば、人事DXを加速させることができそうだ。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部

日本人材ニュース

正確なデータが自然に集まる仕組みを整備

企業のAI活用が急速に加速している。デロイトトーマツグループがプライム上場企業(売上1000億円以上)の部長クラス以上を対象に実施した調査(2025年7月)によると、生成AIを「全社的に導入している」との回答が47%となり、前年から20ポイント以上も高くなった。生成AIの導入目的は「業務の自動化・効率化」が最多で、社員の生成AI利用割合が高いほど生成AI活用を前提とした「事業構造の変革」を重視する傾向にある。

AIの活用は、採用、教育・研修、組織開発、労務管理、タレントマネジメントといった人事分野にも及んでいる。近年のDX推進によって人事業務の効率化も進んできたが、それをさらに加速させるAIサービスの提案が相次いでいる。

人事分野のDXを支援するサービスの多くはクラウドを活用し、安価で手軽に導入できる点がメリットだが、大手企業では複数の人事関連システムが並行して運用されていることが多く、データを入力する現場の従業員や取りまとめを行う人事担当者の負担は小さくない。

大手製造業の企業では、国内グループ統一の基幹人事システムを導入したものの、既存システムからの大幅なUI・運用方法の変更によって従業員から寄せられる操作方法の問い合わせや申請内容の修正対応が多数発生してしまった。そこで同社は既存システムに手を加えることなく、画面上で利用者をナビゲートできるデジタルアダプションプラットフォーム「テックタッチ」を導入し、人事ワークフローシステムで月間約500時間の工数削減、タレントマネジメントシステムの操作不備60〜80%減少などの効果を見込んでいる。

導入を支援したテックタッチの長田遼太カスタマーサクセス三部部長は「人事関連の法制度や手続きは複雑ですが、ガバナンス統制の観点からも、従業員がいかに迷わずルール通りにデータを入力できるかが重要です。特に大手企業ではグループ会社ごとに業務パターンや例外対応が多岐にわたるため、ルールに基づいたナビゲーションによって操作を効率化し、入力不備を未然に防ぐ仕組みが不可欠です。そして、AI活用を加速させるためにも、まずはその前提となる『正確なデータ』が自然に集まる仕組みを整備しなければなりません」と話す。

テックタッチは「システムを迷わず正しく使える」環境を支援してきたが、「業務そのものをAIが代行する」段階への移行が求められつつあることから、業務システムにAIを自然に組み込む「Techtouch AI Hub」の機能を強化し、業務プロセスをAIが代行する「業務代行AIエージェント」を新たに搭載している。

システム横断でデータを参照し、問い合わせに回答

従業員から人事担当者に寄せられる問い合わせ対応の負担をAIで減らすサービスも登場している。

勤怠や労務、タレントマネジメント、給与計算、健康管理などのさまざまなHR SaaSと人事データを自動連携するHR共創プラットフォーム「PathosLogos」事業を展開するパトスロゴスは、集約した人事データをAIが参照して従業員の状況に適した回答を行う「PathosLogos Chatbot」の提供を開始した。

例えば、ある従業員の働き方が変化する場合、単なる規程の解説ではなく「自身の手取りがいくらになるか」という自身の状況も踏まえた具体的な数字を伴う回答を求めても、HR SaaSごとにデータが分散しているために人事担当者がそれぞれのシステムからデータを集めて回答することになるが、「PathosLogos」に集約された人事データを活用することによって、これまで以上に個別性の高い問い合わせに対応できる。

システム横断で集約したデータとAIを組み合わせた今後のサービスについて、同社プロダクト開発責任者の岡島明伸氏は「例えば、海外赴任者を選ぶ際、タレントマネジメントシステムからは語学力のようなスキル情報に基づいた一覧は出してくれますが、人事担当者はその他のシステムに入っている情報も集めて赴任できる社員なのかを検討していると思います。当社はHR SaaS横断で集約したデータとAIを活用することによって、人事業務の効率化やスピーディーな判断をさらに支援できると考えています」と話している。

AIを活用した人事支援サービス

日本人材ニュース

スカウト文の作成や応募者選考を効率化

採用業務では、応募者・選考管理やオンライン面談などのシステムが多くの企業で導入されているが、人材獲得のために採用手法の多様化などに取り組む企業では採用担当者の負担が増大している。

企業が候補者に直接アプローチする「ダイレクト・リクルーティング」を支援するビズリーチは、運営する転職サイト「ビズリーチ」でAIが候補者に最適化されたスカウト文を提案する「スカウトメッセージAIカスタマイズ機能」の提供を昨年から始めている。

同社が蓄積してきた転職市場のデータを学習した生成AI「ビズリーチAI」が求人情報と候補者の職務経歴書を分析し、候補者の志向を反映したスカウト文を作成してくれる。また、「人材イメージ」を入力すれば企業サイトや採用ページの経営理念や事業内容などの情報を反映した求人を作成できる「求人自動作成機能」も提供している。

リクルートマネジメントソリューションズの「企業の新卒採用実態調査2026」によると、採用プロセスでのAI活用に関して、「エントリーシートの評価」「会社説明会、インターンなど各種イベントの企画・運営」「応募者との面接」「採用プロセス上の情報伝達・連携」「各採用プロセスの通過者・内定者の選定」「応募者との連絡」で「導入・実施または検討中」が5割を超えている。

大手企業の新卒採用では多くの応募者をいかに効率的に選考するかが課題の一つだ。JCB、三菱UFJ信託銀行、ユニ・チャーム、阪急阪神百貨店、荏原製作所などが利用するデジタル面接「HireVue」は面接の録画から行動特性をAIが評価する「AIアセスメント」を備える。

「HireVue」を提供するタレンタの中村究専務取締役は「マンパワーが限られる中で学生と向き合う時間を増やすために、1次選考をAIに任せて可能性の高い人に絞ることで、2次選考以降に採用担当者は時間を掛けることができます。もちろんAIだけで判断すればよいということではありませんので、導入企業はAIアセスメント上位者を自動的に合格とし、残りの応募者を録画面接で確認するといった使い方をされています」と説明する。

組織戦略、ジョブディスクリプション、個人目標をつなぐ

大手人材紹介会社ジェイエイシーリクルートメントが昨年実施した調査によると、従業員数1000人以上企業の36.0%がジョブ型人事を「すでに導入」と回答しており、ジョブ型人事の課題は運用に関する内容が中心となっている。

ジョブ型人事の実情に詳しいJobUs代表の馬渕太一氏は「ジョブ型人事を数年前に導入したものの、ジョブディスクリプション(JD)が適切に更新されていないため、人材配置や目標設定、給与などに上手く反映できないという相談が多くなっています」と説明する。

同社が提供するジョブ型AI「JobUs」は、AIを活用して人力では対応しきれないJDの作成・更新を実現するが、今年の3月からは、経営戦略をもとに設計されたJDと社員が入力した目標内容をAIが照らし合わせJDに基づいたより適切な目標案を生成・提案する新機能の提供を開始している。

馬渕氏は「勘と経験ではなく、根拠に基づいて人事施策を進めていくことが求められています。人的資本情報の開示はそうした取り組みを後押ししていますが、社員のキャリア自律という点も人事担当者は強く意識されています。AIを活用して、組織戦略、ジョブディスクリプション、個人目標のつながり、キャリアパスや求められるスキルなどを見える化することによって、主体的なキャリア形成、効果的な配置や能力開発につなげたいと考える企業のニーズに応えます」と話し、ジョブ型人事の実効性を高めるための支援を強化していく方針だ。

「Job-Us 目標設定AI」の画面イメージ

日本人材ニュース
左:従業員が設定した目標/右:経営戦略やJDと照らし合わせ、AIがより適切な目標案を生成

成果を経営や社内に示し、AI活用にドライブをかける

AIの活用を推進するため、海外では従業員の利用状況をチェックしたり、業績評価に反映するといった動きが見られていたが、日本でもユニ・チャームが今年からAI関連資格の取得を係長級への昇進要件に加えたり、丸紅や三菱食品も若手に資格取得を義務付けるといった取り組みが報じられ、教育プログラムを拡充する企業も増えている。

大手企業のAI活用やDXを支援するエクサウィザーズHR Tech事業開発部の半田頼敬部長は「企業のAI活用では、業務効率化、分野特化型サービス導入、AIで組織全体をどう変えていくかというステップがありますが、『何から始めればいいか分からない』『投資対効果の基準が見えない』が大半で、初期段階は従業員のデジタルスキルや素養を可視化するアセスメントやAI研修から相談されることが多いです。進んでいる企業では、採用難ですので、社内で埋もれている人材を抜擢・発掘したいという狙いも感じられます」と話す。

同社のスキルアセスメントを活用する大手食品メーカーは、DX推進人材の役割・スキルを明確にし、育成施策へ積極的に投資している。人事担当者は「他社のスコアとも比較することによって、組織全体における強みや課題を客観的に把握でき、優先的に強化すべき分野が明確になりました」と語る。

人事がAI活用を加速させるポイントについて、半田氏は「経営と人事部門が連動したAI投資の方針があり、人事担当者がAI活用に前向きで情報感度を高くもつことは欠かせません。またアセスメント等のデータを活用し、情報システム部門から人事部門にテクノロジーに強い社員を異動させるといった配置で即効性の高い変革を推進する企業もいますが、小さくても構わないので可視化された成果を経営や社内に示していくことは、AI活用にドライブをかけていくポイントだと思います」と話している。

AIをより多くの社員が上手く活用することによって、仕事の成果を大きく高められる可能性がある。社員が安心してAIを利用できるようにルールづくりなども急務となっている。

AI 活用を推進する企業の取り組み事例

日本人材ニュース
(出所)エクサウィザーズ提供資料を基に編集部作成

【関連記事】

東京流通センター バナー
タレントブリッジ
DX人材の採用に強い人材紹介会社(転職エージェント)
アクセスランキング
パンフレットを郵送