新卒採用を抑制する企業が出てきている。AIによる業務代替、初任給の高騰、インターンシップの効果への疑念などの要因が考えられるが、多くの企業が事業計画を達成するために即戦力人材の獲得に力を入れている。採用力を強化するため、人事・賃金制度を見直す企業も相次いでいる。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部)

中途採用比率が上昇、即戦力の獲得を目指す
新卒採用に変化の兆しが見え始めている。2026年春に卒業した学生の4月1日時点の就職率は98%。1997年の調査開始以来2番目に高い水準だが、一方で中途採用も増えている。
日本経済新聞社が4月にまとめた採用計画調査によると、26年度の採用計画に占める中途採用比率は50.3%で、調査開始以来で初めて過半数となった。例えば日立製作所の中途採用比率は25年度52%に達し、26年度も新卒採用数を上回る1100人のキャリア採用を予定している。また、三菱電機は26年度の新卒採用が前年比2割減、丸井グループも新卒数を前年実績比3割減らす。
全体として新卒優位の状況は変わらないものの新卒を減らす背景の一つは、ビジネスモデルの転換ないしシフトによる即戦力の獲得だ。TOPPANは27年春の新卒を24年比3割以上縮小する一方、半導体やヘルスケアの注力事業を中心に、新卒を減らした分、中途人材を従来以上に採用していく方針とされる。
AIによる業務代替が新卒採用に与える影響
2番目の理由として挙げられるのがAIによる業務代替の影響だ。ジョブ型社会のアメリカでは大学新卒の「エントリーレベル」の仕事はAIが代替できることから大卒の求人数が減少し、就職できない若者が増えているとも報道されている。しかし日本ではその影響は小さい。日本経済新聞社の4月の調査によると、AIによる業務代替を受けて採用数を減らす企業は27年度入社で3.2%、28年度入社で「減らす可能性がある」としたのは7.9%だった。
いまだAIの影響は少ないともいえるが、新卒採用に詳しい文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所の平野恵子所長は「AI時代に入り、より人でなければできない仕事を担う人材を求める傾向が27年卒の学生から入ってくるのではないか。28年卒以降は明確に人でなければできない仕事を重視する傾向がどんどん強くなり、厳選化が進むと思う」と語る。
初任給の高騰が新卒抑制を招く可能性も
3番目の新卒抑制の理由として、近年の初任給の高騰もあるのではないか。すでに大手企業の多くが初任給30万円を超えている。「労働新聞」の27年3月卒の大卒初任給調査(248社)によると、事務・企画系総合職の平均は27万9949円、技術系27万9078円となり、約28万円にまで上昇している。
大企業に限らず初任給引き上げ競争に追随できる企業ばかりではない。仮に初任給を引き上げたとしても在籍社員との逆転現象やその調整も一苦労だ。中堅製造業の人事担当者は「人事部内ではこれ以上引き上げるのは難しい、いっそ新卒採用をやめて中途採用を増やしたらどうかという意見も出ている」と語る。初任給の高騰が新卒抑制と中途採用増を招いている可能性もある。
三菱地所はインターン廃止、富士通は職務ごと通年募集
加えて新卒採用には早期離職のリスクもある。採用活動ではインターンシップの実施や会社説明会、従業員を動員した選考活動、内定者フォローなど多額の費用がかかる。
実はそのインターンシップの効果にも陰りが見え始めている。本来、インターンシップは学生にとって自分のやりたい仕事なのかを見つけること、また会社や職場の雰囲気になじめるかを確認する機会となる。企業にとってもこの学生は活躍してくれそうか、自社の文化にマッチし、職場の一員として定着してくれそうか確認できる機会でもある。つまり学生と企業の双方がWin-Winの関係を築けるかを確認する場がインターンシップであるが、実際はそうなっていない可能性もある。
求人サイト運営のエンが実施した「早期離職実態調査2025」によると、早期離職があった企業にその要因を聞いている。最も多かったのは「仕事内容のミスマッチ」の57%、続いて「人間関係の問題」(35%)、「職場の文化や価値観が合わない」(30%)の順となっている。
本来であればこうした問題はインターンシップで相当程度解消されるはずであるが、前出の平野所長は「今の日本で行われているインターンシップでは効果は限定的」と指摘する。その上でこう語る。「インターンシップ自体が採用プロセスに巻き込まれてしまっている。つまり企業にとっては選考に結びつけるために外面を良く見せるだけのインターンシップになりがちで、仕事との連続性が低く、研修のようなインターンシップだといくらやってもマッチングできない。学生もインターンシップ中は採用目線で見られると思っており、外向的に振る舞おうとなりがち。積極的に質問したほうがいいよと言われれば、がんばって質問しようとするだろうし、企業に好印象を与えようとすることになる」
つまり、インターンシップを新卒採用の母集団形成のために行っている企業が多いなかで、なかなか採用につながっていない実態もある。最近ではインターンシップを廃止する動きも出ている。
三菱地所は27年卒の学生を対象にインターンシップを廃止した。その理由について同社は「インターン選考が実質的な選考という印象を持たれ、インターンで落選した学生が本選考を受けてくれなくなった」とし、「学業や課外活動に尽力した就活生よりも、早期に準備できた人が優遇されやすい」ことを懸念した、と報じられている(「日本経済新聞」2026年6月2日朝刊)。
新卒採用の抑制傾向の背景には、中途採用増、AIの影響、初任給高騰、インターンシップなど採用活動の有効性など複雑な要因が絡む。一方で数年前から4月入社にこだわらない通年採用企業も増えている。
富士通は26年度から新卒一括採用を廃止し、新卒・既卒者に限らず職務ごとに必要な人数を通年で募集している。同時に一律の初任給を廃止し、若手でもスキル次第で高いレベルの仕事に就き、高い給与を得ることができるようにしている。日本の新卒採用は大きな転換点を迎えているといえるかもしれない。
採用を強化する企業の取り組み

中途採用力の強化へ人事・賃金制度を刷新
一方、中途採用に関しても優秀人材の獲得が激化している。最も大きな指標となる報酬に関しては、日本企業特有の年功賃金下では外資系企業に比べて人材を獲得しにくいという問題があった。そのためITエンジニアやAI開発者など優秀人材は、年収1000万円超を保証し、契約社員として別枠で採用する企業も多かった。しかし、近年では人事・賃金制度を改定し、正社員として迎え入れる企業も増えている。
大手エンジニアリングメーカーは2024年7月に管理職層については職能管理制度から役割等級制度に移行。職能管理制度は基本的に資格に基づいて処遇も決まり、どの役職に就いても資格が同じであれば給与も変わらないという仕組みだったが、担う役割の難易度や責任の大きさで等級が決まる役割基軸の処遇制度に変えた。そしてもう1つの課題であったキャリア採用において魅力ある報酬を提示できないという課題を克服するため、報酬水準を引き上げるなど報酬・評価制度も刷新した。
具体的には管理職層を役割の種類に応じて「マネジメント職」「エキスパート職」「スペシャリスト職」の3つの職群に分け、それぞれ5段階の等級を設けた。エキスパート職はいわゆるプロジェクトマネジメントも含めてプロジェクトをリードしてミッションの達成を担い、スペシャリスト職は技術分野で高度な専門性をベースに一定の裁量権を持ってミッションの達成を担う役割と位置づけている。このスペシャリスト職が外部の優秀なITエンジニアやAI開発者採用の窓口になっている。年齢に関係なくスキルや経験に基づいて部長職相当の報酬も可能な仕組みになっている。
また、大手損害保険会社では従来の役割等級制度から職務等級制度に改定した。従来は年次制限や年功色が強い昇格など年功的な運用になっていた。新たな職務等級(ジョブグレード)は非管理職が3グレード、管理職を5グレードとし、管理職層は「プロフェッショナル層」と「マネジメント層」に区分した。職責等をグレードごとに定義するとともに、目指す姿の達成に必要な「プロ人財」とは何かを定義している。
例えば人事部門の場合は「HRデザインプロ」と「アナリティクス」の2つがあり、前者は通常の人事業務、後者は人事データ分析などの業務のプロを意味する。こうした「プロ人財」は当然ながら外部の優秀な人材の受け皿にもなる。職務グレードの定義と報酬ゾーンを明確化することで人材獲得の武器になり得る。
中途採用者の離職を防ぐオンボーディングも課題
しかし、中途採用が増加することにより、新卒と同じように離職につながる負の側面も生じている。たとえば高報酬で迎え入れられた社員でもすぐに実力を発揮できるわけではない。「前職での実績があるから自律して成果を出すだろう」という考え方により、企業が中途採用者の抱える悩みに気づかず、働く意欲の阻害につながる。
中途採用者のオンボーディングに詳しい甲南大学経営学部の尾形真実哉教授は中途採用者の組織適応課題として、①スキルや知識の習得、②暗黙のルールの理解、③精神的プレッシャーの克服などを挙げている。
①については前職の職種が同じでも会社が異なれば扱う製品、仕事の内容・やり方・進め方が大きく違うことを認識し、その会社でのスキルや知識の習得をサポートする。②については会社特有の文化や慣習は習得するまでに時間を要する。③については、組織内の人脈も乏しく、既存社員との信頼関係も未構築であり、その状態で高いパフォーマンスを発揮することは難しい。早く成果を出せというプレッシャーから解放することも重要と指摘する。
せっかく採用した優秀な社員の離職は採用コストの面でも大きなリスクといえる。今後、中途採用者が増え続けるなかで定着とサポートも人事部の大きな課題となるだろう。












