2017年7月10日

HRテックの最新動向 高機能・低価格で大幅に生産性向上

 HRテックを取り入れる企業は近年拡大傾向にある。その背景には安価でかつ安全なサービスを取り入れることで、人事部門の生産性向上や社員の働きやすさ向上につなげる意図がある。新卒採用、中途採用、労務管理、タレントマネジメント、教育・研修、組織診断、社内SNSの7つの分野の日本におけるサービスを取材した。

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 HRテックの市場は急速に拡大しており、企業の投資額は年間2000億円に達するといわれている。HRテックとは、「ヒューマン・リソース×テクノロジー」のことであり、採用、労務管理、組織開発、タレントマネジメント、教育・研修といった人事業務のプロセスをITに置き換えたサービスのことである。AI、ビッグデータ、フィンテックなどの用語とともに頻繁に使用されるようになったが、ご存知の通りこれまでも人事業務システムは存在している。最近のHRテックの特徴は、多くのサービスがクラウドやSNSを活用しており、スマートフォン(スマホ)やタブレットなどモバイルを含むマルチデバイスで使用可能で、使い勝手が格段に向上しているところだ。これまで大手企業でしか使うことができなかった導入に数千万から数億円掛かっていた人事システムとほぼ同様の機能が、中小零細企業であっても安価な価格で手軽に導入できる画期的なサービスが多い。
 手軽なのは導入方法だけではない。社員情報の登録や各種パラメーターの設定など、これまでは時間がかかっていたプロセス管理が簡単な設定でできてしまうため、必要な情報の抽出や様々な情報分析も驚くほど容易になっている。そのため、大手企業でも従来の人事システムとは別に導入する企業もでてきているほどだ。また、これまでのパッケージシステムとの連携も可能なものがあるなど進化を遂げつつある。このようなHRテックの活用によって、人事部門の生産性が大幅に向上することは間違いないだろう。
 生産性向上は人事部門内だけにとどまらない。これまで管理が難しかった現場社員の働き方そのものを変えることが可能なサービスが出てきている。リアルタイムな残業時間の管理や業務間インターバルの管理、マネジャー間の施策の共有、育児休業からの職場復帰など社員の生産性を向上させるための工夫やデータの分析が簡単にできるようになっている。
 HRテックが拡大してきている背景には、情報セキュリティーに対する企業の考え方の変化もある。金融機関ですらクラウドを活用する時代に人事情報を社外に出すのは不安だという企業が減り、クラウドで人事情報を管理することに抵抗がなくなってきているのだ。企業を標的としたハッキングが頻発する中、情報セキュリティーに独自に取り組むよりはクラウドを活用した方が安全かつ安価と判断する企業が多くなっている。

 一方で、さかんに言われているAI、ビッグデータの活用は、HRテック分野ではまだまだこれからだ。しかし、サービスの拡大とデータの蓄積によって今後活用事例が増えていくことになるだろう。
HRテックはさまざまな人事業務を効率化する

HRテックはさまざまな人事業務を効率化する

◆新卒採用

 人事業務の中でも、人材採用は早くからIT化が進んでいる分野である。特に採用プロセスの管理は、説明会の実施から複数回の面接を経て内定出しに至る、応募者情報、選考、評価、合否という一連のプロセスを管理するシステムが既にあり、効果を上げている。HRテックではこのような採用プロセス管理に、SNSを活用した内定者管理システムなどが新たに加わった。内定辞退を防止することを目的としたアクセス数の減少による辞退予測のほか、AIを用いてテキストから辞退の可能性を予測することもできるという。
 Institution for a Global Society社の「GROW」は、新卒採用に360度評価を取り入れた。スキルが明確でないだけに難しい学生候補者の評価に、身近にいる第三者からの客観的な評価によって潜在的な本質や適性を見極めミスマッチが生じないようにした。タレンタ社が提供するデジタル面接システム「HireVue」は、スマホにも対応し海外、地方を問わずどの場所からでも面接をすることができる。リアルタイムの面接以外でもあらかじめ用意した課題に動画を録画して回答してもらうことができるため、場所と時間という制約を越えて新卒採用でも中途採用でも優秀な人材の応募を受け付けることができる。最終的には、面接者と入社後の活躍や評価を紐づけることで優秀なリクルーターが分かる。

◆中途採用

 中途採用で注目されているのがダイレクト・ソーシング(ダイレクト・リクルーティング)を社内で展開するためのリファラル採用だ。ダイレクト・ソーシングを社内で本格展開するためには社内の協力体制づくりや採用担当者の負担増、進捗管理の難しさなど様々な課題があった。インテリジェンスの「MyRefer」やリクルートキャリアの「GLOVER Refer」は、社員紹介をより効率的に実施するためにLINEやFacebookなどのSNSにも対応させることで社員の負担を軽減しており、これまで難しかったダイレクト・ソーシングの社内展開を容易にしている。

◆労務管理

 労務管理では、社員情報の登録、社会保険手続き、勤怠管理、残業時間管理などの一連の業務がHRテックによってプロセスが簡素化され、改善のための管理業務も容易になっている。

 SmartHR社の「SmartHR」やネオキャリア社の「jinjer」では、これまで社員が提出した情報を人事部門で入力する場合が多かったが、クラウドの活用によって社員が直接パソコンやスマホなどの端末から入力することが可能になった。これによって入力ミスも減少して人事担当者の業務が大幅に軽減されている。この情報に基づいて社会保険手続きに必要な申請書類は自動的に作成され、電子申請も可能だ。スマホでの入力が可能なことから、店舗が多い会社やアルバイトが多い会社では情報を現場で入力できるため労務にかかわる手間が大幅に簡素化されている。
 勤怠管理では、個人の残業時間だけでなく部署ごとの残業の傾向がリアルタイムに分析される。人事担当者だけでなく現場マネジャーが仕事の改善を即座に指示することができるなど、マネジメントにも活用されて全社の生産性向上に役立っている。
 チームスピリット社の「TeamSpirit」は、売上情報や経費精算、労務管理情報とを連携することによって、部門を構成する社員一人一人やチームのパフォーマンスを一目で把握できる。これまでは人事部門だけの情報だった労務管理情報が、経営情報として経営層から部門マネジャーまで様々なマネジメント層が活用できるようになっている。さらに働き方改革で注目されている36協定や残業時間の上限管理、勤務間インターバルなどを設定すればリアルタイムで実態を把握できるなど、マネジャー層はたえず最新の情報を把握して手を打つことができる。

◆タレントマネジメント

 タレントマネジメントでは、人事評価や実績、経験・スキルなどの社員情報から適正な人材の配置・登用・育成をしていくための情報を一元的に管理できるようになった。カオナビ社の「カオナビ」は個人の評価や実績、勤務状況などを社員の顔写真とともに表示することができ、これまで名前だけでは思い浮かばなかった人物評価を経営陣が直観的に把握できるようにした。サムトータル・システムズ社の「SumTotal TalentExpansion Suite」は、タレントマネジメントと会社が用意したeラーニング教材とが結びついており、目標達成に必要なスキルやキャリア開発を社員自ら効率的に行うことができる。インフォテクノスコンサルティング社の「Rosic」は、将来の要員や人件費のシミュレーションなどの機能を強化して人事のKPIマネジメントをサポートする。
 人材の適正な配置・登用・育成は、グローバル企業でも中小ベンチャー企業でも課題であり、従業員情報は経営情報として重要になっている。正社員からアルバイトまで様々なヒューマンリソースを把握して、その能力を活かし、高めていくことが企業成長のためには必須である。
人事の課題解決にHRテックの活用が期待される

人事の課題解決にHRテックの活用が期待される

● 組織・人事領域で重視する課題(優先順位をつけて3つまで選択)

(出所)日本能率協会「日本企業の経営課題2016 調査結果」

◆教育・研修

 教育へのテクノロジーの活用は、Edテック(エデュケーション×テクノロジー)といわれる。社員教育でのこれまでのeラーニングはパソコンの前に座って学習するしかなかったが、スマホやタブレットの活用で場所や時間の制約がなくなり、自宅や通勤電車の中でも手軽に学習の機会をつくれるようになっている。チェンジ社の「CHANGE UP」は、スマホにも対応する教育アプリ教材になっており、従業員自らが手軽に学習を始められるように工夫を凝らしている。特に若手社員は受験勉強からスマホに慣れ親しんでおり、抵抗なく学習を進められる。最近は自宅にパソコンがない社員やアルバイトも多く、スマホを活用した教育・研修は今後さらに本格化していくだろう。

◆組織診断

 若年労働者の減少による人手不足、働き方改革による生産性向上など、働き方の変化とともに組織のあり方も変えていかなければならない。従業員を定着させることで人手不足を解消し、社員がパフォーマンスを発揮できる働きやすい環境づくりに取り組む必要がある。

 ヒトラボジェイピー社の「チェンジ」は残業体質を可視化して効果のあった施策を解析し、そのノウハウを管理職が共有することで全社の体質変革を支援する。

 アトラエ社の「wevox」は組織診断を支援ツールで手軽に実施することができる。組織の状態をエンゲージメントを指標とした数値で示し、改善や下降の度合いを色で表現しているため、管理職は一目で状態が把握できるようになっている。結果は、入社年、役職、男女など、必要な情報でクロス分析が簡単に行える。リクルートマネジメントソリューションズも簡便な組織診断ツール「HR Glass」の提供を始めた。回答項目を導入企業と共通化することで、自社だけでなく他社との健全性の比較もできる。

◆社内SNS

 社内SNSも様々な利用方法が生まれている。これまでは新卒採用において内定者とのコミュニケーションなどに利用されることが多かったが、育児休業中の社員とのコミュニケーションや経営層と従業員のコミュニケーションにも利用されるようになっている。働きやすい環境づくりや社員の定着に活用されている。

 EDGE社の「airy」はタイムラインで全社員にメッセージを送ることができ、事業方針や狙いを共有できるなど経営層と従業員の対話を促進する。従業員が直接経営層やリーダーへ気軽に返信でき、従業員同士のコミュニケーションや職場内の飲み会の案内にも利用されるなど、コミュニケーションが不足しがちな職場環境で効果がでている。
 現状のHRテックは、人材採用、労務管理、教育・研修、組織診断など分野ごとに開発が進んでいる。既に各社とも提携によって補完し合うなど、統合人事管理システムへの進化が始まっている。HRテックがさらに販売や会計システムなどと連携するようになれば経営や現場により近い価値観が人事部門内に生まれ、これまでの人事業務を大きく変えることになりそうだ。
HRテックサービスを強化する企業が増えている

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● 最近のHRテックサービスに関する各社の取り組み
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