日本企業が中途採用強化 高度専門人材は争奪戦【外資系企業の採用最新事情】

日本の大手企業はこれまで新卒採用を重視してきたが、中途採用を強化するために人事戦略を見直している。日本で事業拡大を目指す外資系企業が求める高度専門人材の採用で競合するケースもあり、獲得競争は激しくなっている。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部)

外資系企業の業績拡大 必要な人材の確保が困難

在日外資系企業の業績が拡大している。日本貿易振興機構が実施した「2025年度外資系企業ビジネス実態アンケート」によると、今期増収を見込む企業は45.9%を占め、減収見込みの2倍以上。来期の増収見込みは5割を超えている。将来的な⽇本国内における事業計画について、「強化・拡⼤する」と回答した企業は56.9%で、前年度から2.7ポイント増加した。特に業種別で最多の⼩売業(58.4%)は前年度から13.8ポイント増となった。

日本のビジネス環境の魅力は「社会・経済の安定性/地政学上の安定性」(63.4%)が前年度から24.3ポイント増と大幅に増加し、2021年度の調査開始以降で初めてトップとなった。次いで「顧客産業・関連産業の集積・存在」(45.2%)、「インフラの充実」(42.9%)が続いた。

一方、⽇本のビジネス環境の課題は「為替レートの変動リスク」が52.1%で最多。次いで「⾔語・コミュニケーション上の障害の多さ」(40.3%)、「労働⼒の不⾜・⼈材採⽤難(専⾨職、経営層、管理職、研究者など)」(38.4%)と人材関連の課題が上位に挙がっている。⽇本のビジネス環境の変化に関連して、特に改善を期待する項⽬を聞いたところ、人材確保に関する内容(⾼度人材の確保、⼀般⼈材の確保)が今回の調査でも上位を占めている。

実際に採⽤活動を実施している外資系企業(56.2%)のうち、「必要な⼈材の確保が困難」と回答した企業が約8割となっている。「地⽅において英語⼒と技能の両⽅を持った⼈材の確保が難しい(はん⽤機械器具製造)」、「円安による海外⼈材の採⽤困難(⽣産⽤機械器具製造)」、「⾼齢化による若⼿・中堅⼈材の枯渇(電気機械器具製造)」、「⼤企業や⾼給与の企業に優秀な⼈材が確保されてしまい、良い⼈材を採⽤する事が難しい(医療機器卸)」など、採用に苦しむ外資系企業のコメントが見られる。

●⼈材確保のために実施している(予定含む)取り組み

(出所)日本貿易振興機構「2025年度外資系企業ビジネス実態アンケート調査結果概要」

新卒減・中途増に転換する日本企業の採用方針

これまで以上に外資系企業の人材採用の難易度を高める要因の一つになりそうなのが、中途採用を強化している日本の大手企業の動きだ。日本経済新聞社が4月にまとめた採用計画調査によると、2026年度の採用計画に占める中途採用比率は50.3%で、調査開始以来で初めて過半数となった。

例えば日立製作所の中途採用比率は25年度52%に達し、26年度も新卒採用数を上回る1100人のキャリア採用を予定している。三菱電機は26年度の新卒採用が前年比2割減、丸井グループも新卒数を前年実績比3割減らす。TOPPANは27年春の新卒を24年比3割以上縮小する一方、半導体やヘルスケアの注力事業を中心に、新卒を減らした分、中途人材を従来以上に採用していく方針とされる。

企業の採用活動を支援する主要人材コンサルティング会社を対象に本誌が実施したアンケート調査でも、26年の企業の中途採用数は「増加・やや増加」が8割超と高水準の需要が見込まれる一方、新卒採用数は5年ぶりに「増加・やや増加」が5割を下回り「横ばい」予想が多い。

新卒採用支援会社の幹部は「AI時代に入り、より人でなければできない仕事を担う人材を求める傾向が27年卒の学生から入ってくるのではないか。28年卒以降は明確に人でなければできない仕事を重視する傾向がどんどん強くなり、厳選化が進むと思う」と語る。

ジョブ型雇用へ移行し、採用を強化する日本企業

これまで日本企業特有の年功賃金下では、外資系企業に比べて中途採用で高度専門人材を獲得しにくいという問題があった。そのためITエンジニアやAI開発者などの採用では、年収1000万円超を保証し、契約社員として別枠で採用する企業も多かった。しかし、今後の成長が期待される新産業・技術分野に関わる重要ポジションの採用では候補者が限られており、日本企業も外資系企業に負けない給与水準を提示するようになっている。

採用を強化する日本企業ではジョブ型雇用への移行も進んでいる。大手人材紹介会社ジェイエイシーリクルートメントの調査によると、従業員数1000人以上の企業では36.0%がジョブ型雇用を「すでに導入」、32.5%が「導入を検討」と回答。導入理由には「戦略的に人材を採用したいから」(44.4%)を挙げた企業が最も多い。

例えば三井住友カードは2021年に従来のメンバーシップ型の人事制度を抜本的に改定し、年功序列の廃止、スペシャリストとしてのキャリア形成が可能な制度設計など、ジョブ型の要素を一部取り入れた人事制度としていたが、より専門性の高い人材を確保するため、25年10月から特定分野における専門人材を対象にした「ジョブ型人事制度」を新たに導入。長期雇用を前提とした従来の日本型人事制度とは一線を画し、市場価値に連動した評価・処遇を実現し、健全な労働流動性を担保する設計と説明する。

大手エンジニアリングメーカーは担う役割の難易度や責任の大きさで等級が決まる役割基軸の処遇制度に変え、中途採用で魅力ある報酬を提示できないという課題を克服するため、報酬水準を引き上げるなど、報酬・評価制度も刷新した。技術分野で高度な専門性をベースに一定の裁量権を持ってミッションの達成を担う役割と位置づけられた社員は、外部の優秀なITエンジニアやAI開発者採用の窓口になっている。年齢に関係なくスキルや経験に基づいて部長職相当の報酬も可能になった。

大手損害保険会社では職責等をグレードごとに定義するとともに、目指す姿の達成に必要な「プロ人財」とは何かを定義している。例えば人事部門の場合は「HRデザインプロ」と「アナリティクス」があり、前者は通常の人事業務、後者は人事データ分析などのプロを意味する。「プロ人財」は当然ながら外部の優秀な人材の受け皿にもなる。職務グレードの定義と報酬ゾーンを明確化することで人材獲得の武器になり得る。

● ジョブ型雇用導入理由(複数回答)

(出所)ジェイ エイ シー リクルートメント「ジョブ型雇用の今 2025」

採用担当者の不足を補うサービスを活用

これまでの手法だけでは人材確保が難しくなり、採用業務は高度化・複雑化している。高度専門人材は転職市場にめったに現れないため、現職で活躍している人材へアプローチする必要があるが、リファラル採用、求人サイトでのスカウト、人材紹介会社との関係構築などを採用担当者だけで対応するのは容易ではない。

人事フリーランス紹介サービス「HRBIZ」の責任者を務めるテックビズの藤村大輔氏は「難しい事業課題が増える中、専門性の高い人材の採用業務を担える人事担当者の不足が多くの企業で課題となっています」と説明する。同社は、採用に精通したフリーランスが業務を代行するサービスを提供している。ダイレクトリクルーティングでは、定型文のスカウトメール一斉送信によるミスマッチの増加や有効応募数の低迷を課題としていた企業を支援し、有効応募率100%、スカウト既読率20%アップ、特定難易度職種のパイプラインが大幅増といった成果を上げている。

RPO(採用代行)サービスを提供するYouth Planetの堀田誠人代表は「採用活動の分析ができていない企業は、選考スピードが遅かったり、面談対応が悪くて応募者を逃がしているのに母集団を増やすために力を使っていたりします」と話す。同社は、母集団形成から内定承諾までの歩留まりのみを追うのではなく、「採用設計」「認知拡大」「興味喚起」「エンゲージ向上」「ファン」「口コミ」を循環させることによって、採用の成功確率を高める「循環型リクルーティング」を提案している。

採用担当者の負担を軽減するAIサービスの提案も相次いでいる。転職サイト「ビズリーチ」では、AIが候補者に最適化されたスカウト文を提案する「スカウトメッセージAIカスタマイズ機能」を昨年から提供している。転職市場のデータを学習した生成AI「ビズリーチAI」が求人情報と候補者の職務経歴書を分析し、候補者の志向を反映したスカウト文を作成してくれる。

採用プロセス・人材要件を見直し、入社後支援も拡充

日本での知名度不足は多くの外資系企業に共通する悩みだが、採用に成功している企業は、候補者に自社や求人の魅力を積極的に訴求してもらったり、良い候補者を優先的に紹介してもらうために、求める対象者によって専門性の高い人材紹介会社を選んで関係強化を図っている。「良い候補者がいたら紹介してほしい」というような感覚で人材紹介会社に依頼しても求人は放置され、採用できない。求人の背景、社風、キャリアパスなどを積極的に人材紹介会社へ情報提供することは、ミスマッチを防ぐことにもつながる。

採用活動のプロセスや人材要件の見直しも欠かせない。外資系企業の採用を支援するJAC Internationalのダンカン・ハリソン代表は「採用成功の鍵はスピードです。人材不足が続く日本市場では、優秀な候補者が複数企業の選考を並行して進めていることも珍しくありません。選考や意思決定に時間を要する企業は優秀な人材を競合に奪われるリスクがあります」と強調する。製造業特化の人材紹介会社キャリアビリティの雨宮佑揮社長は「英語についても、技術力や業界経験を優先し、採用時の要件を柔軟にする企業が見られます」と説明する。

また、外資系コンサルティング会社の採用を支援するコンコードエグゼクティブグループの渡辺秀和社長は、採用が順調な会社は「スキルよりもポテンシャルと人物面を重視」しており、その理由の一つに「研修・育成体制が整備され、入社後にキャッチアップしやすい環境」を挙げる。「ピンポイントの業界・職種経験を求める採用から脱却できないと、優秀な人材と出会う機会を失ってしまうでしょう」と指摘する。

高度専門人材は争奪戦となっており、採用が難しい状況にある。不足しているスキルを補う研修など、入社後の支援を拡充させれば人材確保の可能性を高められる。事業成長に向けて人材を確保していくためには、採用手法だけでなく、人材マネジメント全体を見直す必要がある。

【関連記事】

20260917_インソースバナー
タレントブリッジ
外資系企業の採用に強い人材紹介会社(転職エージェント)
アクセスランキング
パンフレットを郵送